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俺とサクラさんは金に物を言わせて、この旅館で一番高価な宿を取っている。外観的には純和風な佇まいだったのだが、このロイヤルスイートはひと味もふた味も違った。見事なまでの和洋折衷。調度品は旧欧風な高級感を漂わせながらも、所々の建具には和の精密さと繊細さが織り込まれている。なによりお金に厳しいサクラさんが気に入ったのだ。先ず安心した。
「ほらほらほらぁ〜♪もっと呑みなさいよロロちゃあん♡。キキちゃんは食べてるぅ?。猫人はお酒飲みすぎると寝ちゃうからねぇ?うふふっ♡」
「は、ははは。頂いてまぁす。(このシャンパン…たしか1本で…メギド金貨1枚だったよね?。ヤバ!そんな高級シャンパン初めて飲むかも♡)」
「はぐっ!はぐはぐっ!。この焼き魚サイコーだよ、サクラねぇさん♪。そっちのお肉も貰っていい?。ありがとう♪サクラ姉さん優しいなぁ♡」
広い洋間なダイニングに置かれた大き目な円卓の上には、予約しておいた夕食と、追加したさまざまな単品両立の大皿が所狭しと並べられている。椅子はそれぞれに大型なソファーが配され、もはや王様の食卓のようだ。
おしゃれな形をした銀のアイスポットにはプラチナラベルの高級なシャンパンが、かち割り氷の中に埋もれている。さらには巨大な赤や白ワインの木樽までもが持ち込まれていた。『サクラさんのおもてなし♡』を形にすると、こうも豪盛になるらしい。しかも本人が楽しそうなので…放置だ。
因みにサクラさんは言うまでもなく酒豪だ。それも超が付くほどの。あんなに細いメリハリボディーのどこに収まるのかはさておいて、彼女はたった一人で…ワイン樽三つを飲み干してしまう。それなりに時間はかかるがウワバミ以上の蟒蛇だろう。だが…やはり本人が楽しそうなので放置だ。
「じゃんじゃん食べて、じゃんじゃん飲みなさいよぉ?お姉さんの奢りだからねぇ♪。あ、レオちゃあん♡シャンパン3本♡追加してくれるぅ?」
「ああ。……あ。鳳の間。…うん、シャンパンのプラチナを…5本追加で。うん。……よろしく。……どうせ足りなくなるから余計に頼んどいたよ?」
「えっへっへ♡さすがはアタシのレオちゃん♡。ア・イ・シ・テ・ル♡ 」
と。まぁ、こんな感じで女子たちは楽しそうに酒盛りしている。俺としてはこうゆう時、少し離れた位置から眺めているのが好きだ。社畜時代にはほとんど見なかった賑やかな光景。この世界に来て良かったと本気で思ってる。しかしサクラさんはいつもの事としても、この姉妹だとゆう女の子たちが無防備すぎて不気味だ。…ビキニアーマーじゃなくて浴衣姿だし。
「なぁ?サクラ姉さん。あのヤツカド…さんとはどうやって知り合ったんだ?。やっぱりギルドなんだよね?。どっちからどう口説いたのさ?」
「こっ!?こらキキ!。と…突然そんな質問は失礼でしょ?。(いきなり核心を突くのっ!。ああ…キキのこーゆートコロが凄く羨ましい…)」
「ん〜?。それはぁ〜当然あたしからよぉ?。そうねぇ、ひと目見た時から決めてたのかもねぇ♡。でも最初は近寄り難くてねぇ。ギルドで黒髪な若い男なんて滅多なことじゃ見れないから〜他の討伐者たちがワラワラ集まってたのよぉ♪。でもAランカーな猫人娘のお付きだってことで、拐われちゃうことは無かったみたいだけど♪。モテモテだったのよぉ?彼♡」
「ほほう。サクラ姉さんから告白を。…それで?いつから男と女に?」
「こ!こらキキっ!?。いい加減にしないと叱られるわよ!?。(流石よキキちゃん!。それ大事だから!。付き合って何ヶ月でまぐわえるのかは是非もなく知っておかないと!。乙女としてはとても大切な事だから!)」
女子会そのものなので俺は給餌とウェイターに徹する。サクラさんも楽しそうだしここは放置だ。必要な時に必要なことをする。男の俺が余計なことを言ったり手を出したりすれば女子たちの興が冷めるだろう。今夜はこうして見守ることに慣れようと思う。華やかな席に馴染みがないだけに。
「んー。出会ってから二ヶ月と16日でぇ。告白したのが三日前でぇ。その前にはシちゃってた♡。つまりね?初まぐわいの最中に告白したの♡。彼の事がとにかく可愛くて、でも心配で。わたしにできることなら何でもしてあげたかったのよ。それに相性もこの上ないし♡溺愛しちゃった♪」
「ほほう…初のまぐわい中に告白。…かなりぶっ飛んでますねえ。さすがは炎獄の麗人!恋愛のスケールが違うっ!。ささ…いっぱいどぉぞお♪」
「…………。(うそ。…突っ込まれたままで…告白したの?。まだ…付き合えるか分からないのに…挿入されたの?。…それって、レイプされて…無理矢理言わされた!。とかじゃないの?。…もしも…そうだとしたならっ!)」
む。なんだか雲行きが怪しくなってないか?。デリケートな話をしているのは理解していたから傍観を決め込んでいたのに。それに少しだけ訂正しておきたい事がある。俺の顔を立ててくれたのかも知れないが、俺が無理を言って一緒に居てもらっていることが事実だ。誤解はされたくない。
「こほん。サクラさん、少し違うよ?。サクラさんは俺を術者として覚醒させるために迎え入れてくれたんだ。そして好きだと告白したのは俺の方だ。アンタらに誤解が無いように言っておくけど、彼女は俺のために傷ついてくれたんだ。まぐわいは…その手段に過ぎなかっただけだからな?」
「………むむむ。ここに来て話が割れたなぁ。…かぷ…もぐもぐ。れ?ひゃつかろひゃんと…こくん。失礼。ヤツカドさんとしては惚れてる訳だ?。でもサクラ姉さんの腹の中が気持ち良すぎて好きだって言ったとかじゃねーのー?。オスってのは快楽に溺れるんだろぉ?アンタ好き者そうだし。」
キキとゆう大柄な猫耳娘が、悪意はなくとも少々耳障りな言葉を吐いた瞬間、部屋の中に極度な重圧感が垂れ込める。それは俺の右手のソファーに深々と座っているサクラさんから放たれていた。まるで地鳴りで起こるかの様な緊迫感とサクラさんの睨みつけ。その視線はキキに向いている。
「……なぁにぃキキちゃん?。だ〜れが快楽に溺れたってぇ?。レオちゃんはねぇ…いつもしっかりわたしを抱き止めてくれるのよぉ?。…溺れてると言うのならぁ…それはわたしの方なのよぉ。彼を悪く言うのならぁ、覚悟しなさいなぁ。…取って置きの呪いを…かけてあげようかしらぁ?」
「ひーー!?。ごめんなさい!ごめんなさい!サクラさんっ!。ほら!あんたも早く謝りなさいっ!。キキも悪気があって言ってるんじゃなく!」
「…………。(ヤバい!?。なんか怒らせた!?。耳先がピリピリする!)」
この雰囲気は絶対に不味い!。何よりも、ここまでサクラさんが怒りを露わにしたのは初めて見る。なんとかフォローして場を和ませないと死人が出かねない!。俺は素早くサクラさんの座るソファーの前に立って、そのまま彼女を抱き上げた。ソファーに座って膝の上に乗せてやると、サクラさんは満面の笑みで俺の首に両手をまわす。取り敢えずは凌げたか!?
「ほら。サクラさん。…そんなに怒らなくていいから。まぁ気持ち良かったのは認めるとしても、俺はこの人に二回も命を助けられてるんだ。1回目は業の迷宮の19階。魔術士タイプの人型キメラだ。そいつの精神干渉魔法をもろに食らって、俺は自分の首を刎ねようとしたんだよ。刃を首にあてていざ引こうとした瞬間、その剣を素手で握り止めてくれたのがサクラさんだったんだ。…血だらけの両手を翳して…魔法を解除してくれた…」
「うふふっ♡。覚えてるわぁ、それ。そのあとにこの人、大激怒してその魔物に向かっていったの。当然向こうは魔法障壁を張ったんだけど、レオちゃん、それごと斬り捨てたのよぉ?。下から斜め上に斬り上げて一刀両断♡。あの瞬間にわたしは恋に落ちたのかもねぇ♪。うふふっ♡ちゅ♡」
他人の前で話すのは初めてだが、俺は確かにサクラさんに強く恩を感じている。そう、もう数秒で死んでいた俺を、それこそ身を呈して助けてくれていた。地下迷宮での戦略は前衛と後衛に分かれるのが通常だ。本来なら後衛である彼女は、前衛である俺のすぐ背後にいつも居た。お陰で天井からの急襲にも楽に対応できたのを覚えている。頼れるギルドの大先輩だ。
「剣で魔障壁を切り捨てた?。マジですか。…そんな真似ができるってことは、そのキメラよりも魔力が上でないと無理だよね?。…魔道士キメラかぁ。業のダンジョンは入ったことが無いんだよなぁ。なぁ姉ちゃん。 」
「あそこは魔術か術式を組める人がいないと雑魚にも苦戦するのよ。実体系の武器が効きにくいからねぇ。…きゅーっ。ふはぁ。それでラブラブなんですねぇ?お二人とも〜。…羨ましいれすっ!サクラさんがっ!。なのれ!今晩だけ!今晩らけ!ヤツカドしゃんをわらしに貸してくらさい!。ここにクイーン金貨がキュー枚あります!。これれ!お願いしますっ!」
「…………ロロ姉ちゃん?。…さすがにそれは…まずいっしょ。…ねぇ?」
また空気が重くなった。俺の膝の上でご機嫌にしていたサクラさんがシャンパングラスをひと息に呷る。これは相当に気分を害したらしい。こうなったら無理矢理にでも宴会をお開きにしたほうがいいのかも知れない。若しくはサクラさんを寝室に連れ込んで機嫌を取り直すのか。決断に迷う。
「…クイーン金貨たった9枚で、レオちゃんをひと晩も貸せってぇ?。貸せても1時間ね。でも借りて何をしたいのよ?。剣の相手とかなら怪我するわよ?。この人、木刀で刀剣を叩き折るから。…まさか…まぐわおうとか考えてる?。…そうね…ヤってみるといいわ。ただし条件があるけど…」
「…サクラさん?。俺を売るのかなぁ?。…男娼じゃないんだけど…俺。」
「わたしも知りたかったの。レオちゃんの暴れん棒が他の女を欲しがるのかどうか。…わたしはレオちゃん以外の男に濡れたりしない。それじゃあレオちゃんは?。とても素朴な疑問でしょ?。でも知りたいの。だめ?」
あああ。俺の心配などどこ吹く風だった。場は荒れなかったのだが話題の方向性がとんでもない事になっている。それと、たとえ国さえ揺るがす大魔法使いであっても、サクラさんは女性ゆえにか男とゆうケダモノの習性を全く理解していないらしい。男の下半身とゆうものは、対である女性の裸体を見るだけで簡単に反応するのだ。多分それは俺も例外では無い筈。
「…分かったよ。自信はないけど試してみれば?。それでサクラさん。もしも俺のが反応したらどうするの?。ロロさんとヤル事になるのか?」
「それはそれでレオちゃんの判断だし。それに、わたしとばかりじゃ飽きるでしょ?。だからシテきていいわよ?。…あの娘の気が済むまでね?」
「う〜ん。サクラさんに飽きるとか絶対に無いんだけどなぁ。(この皇国は確かに一夫多妻制だけど、俺はそんなに器用じゃないんだよなぁ。ヤリ捨てみたいな事もしたくない。ララやミアンやミミだっているんだし…)」
随分とややこしい話になってきた。実際のトコロさっきから口を開かなくなった姉妹はどちらも悪くない女性だ。特に大柄な妹の方の猫耳は俺の大好物でもある。そして小柄で華奢な姉の方は、あのエルフの血を引くギルマスを小さくしたような美麗さがあった。しかし、やはり俺の趣味では…
「ふ。まさか捕縛目標と酒盛りをしているとはな?。レオ・ヤツカド。貴様をクイーンズ・ギルドの名の下に拘束する。先に言っておくが、この建物自体が魔封結界の中にある。どれほどの魔力を持とうが無駄だ。…サクラ。お前の力はこの程度だ。魔力を封じられれば只の女。しかも1200年も生きているもはや化石だ。…そんな女がのぼせていい相手ではないのだよ、レオ・ヤツカドとゆう異界人はな?。…衛兵あの二人を捕らえろ。」
突然に開かれた観音開きの大扉。その真ん中に立っていたのはナチ風の白い軍服に身を包んだリン・ムラサキだ。その左右を固める武装女性たちは旧日本軍が使っていたような、ライフルにも似た長い小銃を構えている。
しかし腰には拳銃のホルスターと銃弾ケースを下げていた。迷彩柄の戦闘服と編み込みのブーツ。全員が太ももにナイフケースまで装備している。明らかに見慣れた討伐者とは異なる出で立ちだ。敢えて言うなら軍隊か。
「サクラに触るな!。なんだよギルマス。この姉妹を差し向けておいて、王都の軍隊まで呼んだんだな?。そこまでして俺を捉えたい理由は解ってるよ。だが残念だな?俺はアンタの『新種族の派生』には協力しない。と言うよりできないんだよ。…それと、アンタの嘘は聞き飽きた。失せろ。」
「わたしが嘘を?。その女のことなら全てが事実だ。炎獄の麗人とまで呼ばれたのは、北部の要衝ネオ・キングに接近した天災を、炎の壁で退けた時に付いた二つ名だ。もっともその魔力を維持するために、当時の弟子ども120人を虫けらのように使い捨てた女なのだよ。そして齢が1208歳なのも事実だ。…さぁ。八門君…わたしのどこに嘘があると言うのだ?」
ズカズカと入り込んできた兵士たちとギルマス。サクラさんを膝に乗せる俺に兵士の銃口は向けられている。兵士達の後ろにはロロキキ姉妹が身を寄せ合って目を大きくしていた。彼女たちもリン・ムラサキの襲来は知らなかったらしい。せっかく俺の婚約者と…仲良くなれそうだったのに。
「サクラさんの過去なんか知ったこっちゃない。歳なんて、俺がプロポーズする前に教えてくれたさ。…紫りんっ!お前ごときが俺の女を蔑むんじゃねぇっ!。…お前の実家は侯爵だから、天災を、あの化け物スライムを倒したらぁ…俺に爵位を与えてやるって言ったよなぁ?。それが真っ赤な嘘じゃねぇか。…国民に爵位を与えられるのは国の王のみっ!なんだってなぁ?。…ほぉら…ギルマスぅ……言い返せるものなら返してみろよぉ。」
「ふっ。ふははは!。…くくくっ。…らしくないなぁ?八門。とても素直だった君はどこに消えたんだい?、この四日間で随分とそこの小汚い女から吹き込まれたみたいだが…それこそが嘘じゃないのかなぁ?。ギルマスであるわたしが嘘を餌にして、私的にメンバーを危険に晒せば罰される事くらい理解している。爵位の件は心配しなくてもいいぞ?ちゃんと推薦状は集めてある。後は手続きを経て認められれば晴れて子爵だ。どうだ?」
「さっそくボロを出してくれて感謝するよ。おい、そこの姉妹。あんたらはもう関係ない話だ。俺をこの部屋に拘束したんだから依頼は果たしている。サッサと着替えて帰れよ。…ギルマスさぁ?語るに落ちてるの気付いてないんだね?。あんたは自分の立場で俺に爵位を与えるって言ったのに推薦状を集めたから手続きをしろだぁ?。それが嘘だっつってんだよ!」
長い小銃を突きつけられたままで俺は声を荒げる。今も腕の中で縋りつき小さく震えているサクラさんが酷く可愛そうに思えた。彼女は随分と前にギルド登録を自ら抹消している。ギルドの何者かから命を狙われた事がそうさせたそうだ。しかしギルドホールに姿を表していたのは俺が心配だったかららしい。もしも危険があれば虚数空間にあるサクラさんの部屋にいつでも逃げ込める。そう思って彼女は遠巻きに俺を見守ってくれていた。
正々堂々と俺の前に立ち塞がって、胸を張りつつ大嘘を吐いた、ギルド・マスター、リン・ムラサキと。陰ながら俺の身を案じ、術者としての扉を開いてくれた、炎獄の麗人、サクラ・ヴァイオレット。これから先、そのどちらと手を繋いで歩いてゆくのかなど火を見るよりも明らかだ。俺はサクラさんを胸に手印を組み始めた。一から百へ。百から万へ。万から億へと加速させてゆく。それは魔力ではない次の力…人の心が発する奇跡だ。