テラーノベル
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騒動から約一時間半。私達を載せた船団の前方に、闇夜の中に溶け込む影が浮いている。
私達の攻撃目標、ベルマ島だ。
先程の戦闘で、既に敵に発見されている。よってこの奇襲はもはや意味を成さなくなった以上、上陸時、敵守備隊からの猛烈な水際防衛戦の展開を受ける事は、揺るぎようの無い事実だった。駐留する守備隊の兵力は、風の噂程度では二個連隊程と聞いている。
「上陸隊、総員上甲板」
艦内放送がかかり、私達は順番に甲板に上がる。時刻は0500。そして私はそこで初めて、間近にベルマ島を見た。
真ん中にそびえるベルン山は、ゴツゴツとしたサンゴ質の様な岩山で、周りを木々が生い茂り覆っている。正面にあるのは私達の上陸地点である、バランガ湾。綺麗な曲線を描き、確かに上陸にはうってつけの地形をしていた。
が、それを思うのは敵も同じだ。
私達分隊は、船の上から縄梯子を降りて上陸用の小型艇、通称「発動艇」に乗り移る。これがちょっとした大冒険で、波に揺れる甲板から完全軍装で降りるのは、かなり難しい。ちょこちょこ兵隊が落ちて艇内で悶絶している。かく言う私も、乗り移りの時に縄梯子を踏み外して舟艇にしたたかにぶつけられた内の一人だ。
発動艇に乗り込むと、まあ小さい船で、波の揺れをモロに食らってそれはもうすごい揺れようだった。戦友の吐いたゲロが、波に合わせて右左に流れている。揺れる艇内から見るベルマ島は、黒く高い大きな山のように見えて、不気味だった。
ブルンブルンと、発動機が起動し、高い波の中を進み始めた。この発動艇には一個小隊、三十二名ほどが乗っていた。小隊長が指揮し、艇長が船を動かすといった具合で、二人三脚で動かす。進み始めると周りには大量の発動艇が荒波を分けて突き進んでいた。
「艇長!私らの命、貴様に頼んだぞ!」
「任せて下さい!しっかりと、届けて見せます!この命に代えても!」
小隊長は腰のサーベルを抜いて、真正面の進路を見つめている。私たちはお互いの目を見合わせ、固く誓い合った。
「私達は、絶対にあの山を取るまでは生きて戦おう」
私達は決して死に場所は決めなかった。ベルマ島のベルン山を占領することを絶対の目標とした。
「あっ、光ったぞ!」
発動艇が前進を始めて十五分ほど。島の海岸線がキラキラと光り出す。それから二秒ほど置いて、私達の艇の周りで大爆発が起きる。轟音は文字通り耳をつんざくようで、エルフはみな思わず耳を塞ぐ。水柱が白く立ち上り、水の飛沫が艇内を包み込む。
「うわあっ」
エルが足を滑らせて、私にもたれかかって来た。女の子がもたれてくるとドキッとするが、完全軍装で来られるとそういう訳にはいかない。
「エル、大丈夫か!」
「うぅ…大丈夫」
「なら、早くどいてくれ!装備が重いんだよ!」
艇内でゴタゴタしている間にも周囲では次々と水柱が上がる。ヒューンヒューンと弾が上空を掠める音も鳴り、いよいよ敵陣が近いことを感じさせる。島に近づくにつれ、艇を囲む水柱はその間隔を狭めて、正確になっていく。そうなると他の艇で、砲弾が直撃する艇も出始める。
ドカーンと轟音一声、隣に見えていた艇が爆炎に包まれて、兵士達の断末魔と肉片が四方に散らばる。
「チクショー!艇長!ジグザグ航行は出来ないのか!?」
艇長は脂汗をにじませながら答える。
「はあ、ジグザグをすると他の艇と衝突して共倒れになってしまいます!」
「クソ、なら最短コースでつけろ!」
「はい‼」
私たちの発動艇は猛烈な銃砲撃も憚らず、荒波の中を突っ切った。定期的にカンカンと敵の機関銃弾が艇に命中する音が、私達の心を震え上がらせた。やがて艇は島の海岸に着き始める。すると後方から、ズズン、ズズーンと低い唸るような声が聞こえ、私は後ろを振り返った。
「おおっ、海軍が砲撃してくれてるぞ!」
海軍艦艇は横一列になって海岸線に向けて主副砲を力いっぱい撃ち込み、海上は硝煙で包まれている。その砲弾はシュルシュルと飛翔音を立てて島へと吸い込まれ、私たちの眼前に広がる敵守備隊の塹壕線に着弾し始める。ドカンドカンと大きな音と爆炎を立てて、次々と命中していく。そんな中、私達の艇も海岸に到着した。
「よし、降りろ!降りたら直ぐに伏せて、匍匐で移動するんだ!」
私は小銃を握り、分隊員とともに飛び出す。
「行くぞ、エル!」
「わっ、あっ待って!」
艇を飛び出してすぐ横にバシャバシャと伏せる。銃が水に浸からないように注意しつつ、匍匐前進でズリズリと這っていく。が、敵はそう簡単に前に進ませてはくれない。バチン!バチン!と大きな引っ叩くような音を立て、銃弾が地面に命中していく。すぐそばに兵士が伏せていたので、状況を聞こうと近づいた。
「なぁ、オイ!工兵か誰か、突破口を開けるやつはいるか!?」
反応がない。この爆音の中だから聞こえなかったのかと、肩をゆすって、頭をつかんでこっちに向けさせた。
「うっ…!」
その兵士は右頬がめくれ上がり、右の目玉がだらんと垂れ下がって、すでに事切れていた。私は仕方なくその兵士を寝かせ、前に進む。その時、目の前に砲弾が命中して、その爆音の為に耳をやられた。
音が一気に聞こえなくなり、くぐもる。自分の声さえ聴きとれない。肩をグラグラと揺らされたと思うと、エルが私に向かって何か叫んでいる。が、何も聞こえない。するとエルが横にばっと伏せ、エルのすぐ後ろにいた兵が倒れ込む。辺りは一面地獄絵図で、機関銃弾を受けて兵がバタバタと倒れていく。私の想像ではもっともがき苦しむのだと思っていたけれど、弾を受けた兵は糸が切れたようにグシャリと倒れ込み、ほとんど動かないまま、永遠に沈黙する。だんだんと音が戻って来ると、聞こえてきたのは、銃声と爆発音と、叫び声だけだった。エルは私の左前方10メートルほど先にいて、私はそれに続いた。のそのそと這って進むが、砂地では進むだけで精一杯。積み上がった兵の死体に、心で「許せ」と唱えながら、それを弾除けにして、敵の発砲炎に照準を向けて撃ちこむ。3発ほど撃ち込むと、それは息を潜めるので、それを繰り返して何とかエルの元へたどりつく。
「エル!」
「ミリア!耳は大丈夫!?」
「なんとかな! ところで、分隊長や、メイアは!?」
「分隊長は、左の方にいるよ!メイアは分からない!」
そうこう言っていると、目の前を敵の掃射がバリバリと横切る。それでまた二人、兵が呻いて動かなくなる。なんてことだろう。命の重さは、この場では鳥の羽よりも遥かに軽い物だった。私もその光景を見て何も思わない訳がなく、私は怒りに燃えた。腰から手榴弾を取り出し、ピンを引き抜いた。
「この野郎、食らえ!」
閃光の見える方へ手榴弾をぶん投げると、爆発の閃光がひと際輝き、「ギャーッ」と、敵の断末魔が聞こえた。すると後ろから再び砲撃音が聞こえると、眼前の敵を微塵に吹き飛ばし始める。
「頭下げろッ!」
私はエルの頭を抑えて、自分も砂地に顔を付けて伏せた。ドカン、ドカンと爆音が鳴り響き、顔面を伝って爆発の衝撃をドシンドシンと感じる。
「今だッ、突撃にィーッ、進め!」
左から、小隊長の声が聞こえた。私達は頭を上げると、分隊長もそれに続いて叫んだ。
「第三分隊-ッ、突撃にーッ!進め!」
私たちはばっと立ち上がり、前の敵塹壕前にある鉄条網線まで駆ける。そして鉄条網の下に伏せ込むと、進んできた工兵が鉄線鋏でパチン、パチン、と鉄条網を切っていく。そして開かれた突破口に、手榴弾が数発投げ込まれると、次々爆発して敵の断末魔が響く。
「着け剣!」
小隊長の号令一下、私たちは腰から銃剣を抜き、銃の先に装着する。そして私は薬室を開けて、弾を装填して満タンにした。槓桿を押し込んで、息を大きく吐く。口の中が乾き、瞳孔が開いて、闇夜が噓のように、まるで夕暮れ時かのように明るく見えるようになる。そして、小隊長は続けて号令を発した。
「突っ込めーッ!」
ラッパの音が同時に響くと、砂浜中から喊声が上がる。私も腹の底から声を張り上げて、突破口を通って敵の塹壕内に踊り入る。入ってすぐ、敵と鉢合わせた。初めて捉えた敵の顔は、驚きと恐怖が入り混じったような顔で、目を見開いていた。そこに向かって、私は銃剣を突くようにしながら射撃した。「ウッ」と言って敵はその場に倒れ込んだ。そこに向かって銃剣を突き入れる。初めて人を刺した感想は、「意外とすんなり」だった。もうちょっとグニっと押し返されるのかと思いきや、熱したバターナイフを入れるようにスルっと体に入り込んだ。サッと引き抜いて、すぐに次の敵を探す。角を曲がると、敵がこっちに銃口を向けてきた。瞬間、私の方が一歩遅れていて、覚悟したが、敵は弾が入ってなかったらしく、槓桿を引き始める。その隙に、心臓めがけて一突きする。
「あ゙あ゙っ、あぁぁ…」
敵は力無く息を吐き出して、私はそのまま突き倒した。すると後ろから銃声が鳴り、私の耳元を弾が掠めた。後ろを振り返ると、敵は既に弾を込めている。「ああ、これまでか」と思ったが、その敵の顔が歪んだ。そいつが倒れたと思うと、エルが私に向かってニッコリと笑って、
「これで貸しひとつね」
私は思わず笑ってしまう。
「…分かったよ、必ず返す」
そのまま二人で右に左に、敵を探しては殺して、ひたすらに戦った。トーチカに走り、へばりついて銃眼に手榴弾を投げ込んで爆破すると、中から血だらけで敵が呻きながら出てくる。それをエルが撃ち殺して、トドメに銃剣を入れた。
二人で息を合わせて戦い、やがて夜が明ける頃、私達は海岸を占領した。
万歳を歓呼して喜びを分かち合ったが、私はふと海岸を見た。海岸には、沈黙、擱座した発動艇に、死体が垂れ下がり、海から砂浜を、大量の死体が覆っていた。白い砂浜に、仲間たちの血が川を作って、その川は海に流れ出して海を真っ赤に染め上げている。私達の分隊は幸いにして全員生存していたが、砂浜の中には仲良し分隊で知られた第一分隊の兵隊が、固まってお互いを庇うようにして斃れて、全滅していた。私は思わず涙を漏らし、その姿を目に焼き付けていた。そしてその日から、私は日記を付け始めた。その日記に、私はこの日の事をこう記した。
≪四月十二日
敵前上陸は、正に地獄だった。壮烈無比という言葉は、正しくこの為にある。私は敵を5人殺した。
考えてみれば、殺した敵にも家族や思い出がある。戦争とは、これほど悲惨なものはない。≫
コメント
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うわあああ第8話読み終えたよ…!😭✨ 戦場の臨場感がすごすぎて息するの忘れた…!発動艇に乗り移るシーンからもう緊張感ヤバくて、エルがミリアにもたれかかる場面でちょっとドキッとしたけど、そんな場合じゃない戦況のギャップがまたエモい…。最後の日記の「♡♡♡た敵にも家族がいる」って一文がグサッと刺さった。戦争の悲惨さをリアルに描きつつ、エルとミリアの絆に感動したよ…!続きが気になりすぎる!✨
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くろぬか
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