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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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アリエッタが持つ女神の力は、実りと彩りの女神エルツァーレマイアから与えられたモノである。

肉体もエルツァーレマイアの力だけで作ったので、純度100%の女神の体となっている。だから2人の関係は、パルミラとラッチの分体母娘関係に近い。

そんなアリエッタの力だが、不本意ながらも女神となって日が浅いので、当然上手く使いこなす事が出来ない。母親のように、手足のごとく使いこなすには、まだまだ慣れが必要なのだ。

女神の力に必要なのは、潜在的な常識である。使用するアリエッタが『こういう事が起こる』と本能レベルで認識していなければ、思った現象が発揮されない。元々が人だった為、神の力という今のアリエッタにとっての『非常識』は、そうそう上手く具現しない。


『少しずつ慣れてきたけど、まだまだ見守ってあげないといけないわねー。力の加減も出来てないし、もうしばらく刷り込んであげなきゃ』


全力で可愛がられているアリエッタの精神世界で、母親となったエルツァーレマイアが物思いにふけっていた。

うっかり出来てしまった娘が可愛くて仕方ない女神は、ヒトの感覚での数十年はアリエッタの中で暮らすつもりである。神の感覚だと、十数日分の感覚なのかもしれない。


『あの絵の能力は凄いと思うけど、力の強弱が制御出来ないのは危険だわ。小惑星みたいなのいくらか破壊してた事もあったし』


エルツァーレマイアには、全く同じ力を持つアリエッタの絵の力を真似する事は出来ない。色に対する常識が全く違うからである。

色そのものに決まった効果があるエルツァーレマイアと違い、アリエッタの色には決まった効果が存在しない。その代わり、描いた物や作った物がイメージと合致し、『出来て当たり前』という潜在意識が少しでもあれば、その通りの現象を起こす事が出来る。非常に応用力の高い能力になっていた。

しかし、何でも出来そうな力だが、魔法の無い世界からやってきたアリエッタに、魔法と同じ現象を起こすのは難しい。憧れや空想は常識には程遠いという事である。

特に苦手なのは、遠くに飛ばす放出型の力の使い方。アリエッタの常識の中には、『火の弾を飛ばす』などのオーソドックスな魔法は無い。長い間ミューゼやネフテリアを見続けて、魔法が潜在的に当たり前と思うようになれば、自然と出来るようになるかもしれないが。

以前王城で魔法の杖を使ってそれっぽいモノを撃った時は、『杖なら撃てる』という空想内での常識があったからで、それでもアリエッタの中の常識ではなかった為、ヘロヘロな光を飛ばす程度の事しか出来なかった。


『天気記号ならわりと固定概念があって、制御が楽だったんだけどねぇ。想像を主体に具現化すると、みゅーぜ達も危険だわ』


雹の天気記号を使った時は、アリエッタが雹と認識できる大きさの塊で、怒っても少し大きくなる程度で済んでいた。

しかし、エテナ=ネプトでの有線ラジコン戦闘機は、そもそものモデルが強すぎたのか、その世界が宇宙という概念に潜在意識が引っ張られたのか、エルツァーレマイアが力を貸す前から既に、攻撃の規模が爆発的に増していた。

そして今回の雪の結晶の絵。アリエッタは練習中にアニメで見たとある闘士の絶対零度の技を常に想像してしまい、『雪の結晶は絶対零度』という解釈を本能に刷り込んでしまった。もちろん短期間でイメージが常識化する事は難しいので、完全再現は出来ていないが、それでも触れたら水分が勢いよく凍るくらいの危険な絵になっていた。

その結果、全身瞬間凍結とまではならないものの、触れた巨大な花が時間をかけて根元まで凍り付くという現象が起こってしまったのだ。


『……ま、アリエッタは凄く可愛いし、大丈夫でしょ』


良いのか女神がそんなテキトーで。


『それに、みゅーぜ達もいるしね。私に出来るのは制御の仕方を教えるだけ』


結局、強い力も弱い力も、使い方次第である。アリエッタが人の世に住んでいる以上、神であるエルツァーレマイアの道徳観は意味が無い。その為、アリエッタが好意を寄せているミューゼ達に、その辺りの教育を丸投げするのだった。


『……今度あの精神世界を捕まえて、みんなとお話してみようかしら。その前に言葉覚えないといけないか。アリエッタに通訳してもらえばいいのかな? よーし、いつか探しに行ってみよう。精神捕獲なら余裕だもの♪』


天然トラブルメーカーが、自主的にトラブルを起こす計画を立て始めた。ドルネフィラー最大のピンチである。

再びミューゼ達と一緒にアリエッタを可愛がる日を夢見て、外で力いっぱい抱きしめられているピアーニャを眺め、女神は優しく微笑むのだった。




「ちょっ、はな…せっ!」

「ぴあーにゃーよしよーし~」


先程まで全身を可愛がられまくっていたアリエッタは、その分だけ追加でピアーニャを可愛がるつもりでいた。当分離すつもりはないようだ。


「たすけっ……!」

「……無理です」

「ひぃぃぃ!」


ムームーは諦めた。ピアーニャは逃げられない。


「あれ、キュロゼーラ? どうしたの?」

「……これガ凍るという事デすか。炎以上に危険でスね」


キュロゼーラ達は、凍り付いた花を見て、大人しくなっていた。ミューゼの記憶から、『植物は凍り付くと脆くなる』という知識は持っていた。しかし、実際に目の前で植物が凍り、生命停止をした姿を見て、戦慄したらしい。

一部でも凍っていなければ復活の可能性もあるが、根を含めた全てが凍結してしまっては、その可能性は無くなっている。


「凍った花は、完全に停止して、さらに脆くなるものね。火みたいに、水でなんとかなるもんじゃないし」

「ナんと恐ろしイ……」


眺めていると、花は遥か下にある凍った根の重さに耐え切れず、ずるりと滑り落ちた。枝に引っかかった箇所は割れ、落ちた部分は衝撃で粉々になっていく。下の方でも、落下した根が砕け散っていた。


「おォぅ……」

「でも凍らせる料理もあるのよ」

「そうデすか。なら安心ですネ」

「安心なんだ……」


キュロゼーラ的には、食べてもらえれば何でもいいようだ。食べてもらえないところで凍って、粉々になるのが怖いらしい。


「全てを凍らせる結晶か。流石はフェリスクベル様の愛するお方の能力リムな」

「絵は消してもらったけど、あんな危険なのもあるのね。一体どれだけの能力があるの? 他にも裁縫の知識まであったし」


ムームーの言う裁縫の知識とは、刺繍の事である。フラウリージェが最先端を行くもう1つの理由で、アリエッタが伝授してからは、独自に色々な開発をしているのだ。

今では店員数名がアリエッタの真似をして、簡単な模様のデザインを手掛けている。少しだけ絵の文化が広がっていた。


「はやく会話出来るようになりたいねー。そしたら直接聞けるのに」

「物の名前はいっぱい教えたから、今度から普通に話しかけてみるのよ?」

「それいいね」


アリエッタは時々人の真似をして話そうとする。その為ミューゼやサンディの口調になる事もあるのだ。それを狙って、パフィも自分の話し方を意識して聞かせたりもしている。

今後の教育方針がなんとなく決まり、帰ったらやってみようという事になった。

その教育の相手は、今も妹分と戯れ、張り切っている。


「まてまてまてまて! ちょっとだれかアリエッタをとめろおおおお!!」

(そんなに興奮しちゃって。可愛いなぁもう)


ピアーニャの叫びを聞いて、全員何事かと振り向いた。すると、


ドォン!

「おわーーーー!!」


閃光と轟音が辺りを支配する。反応したのはピアーニャのみで、他の全員は突然の事に声も出なかった。

光が収まり、視界がはっきりしてきた一同が見たのは、離れた場所の巨大な枝葉が落下しているのと、その先にある巨大な枝に、王城がすっぽり入る程の大きな穴が開いている光景だった。


「あたし、まもる! ぴあーにゃ!」

「えぇ……」


真面目な顔でそう宣言するアリエッタに、ピアーニャもミューゼ達も怒るに怒れず、苦笑いで頭を撫でながら、有線ラジコンのコントローラーをそっと降ろさせる事しか出来ないのだった。




「遠くから凄い音がしたんですが、何が──」

「きくな」


調査とは関係の無い所で、爆発的にネマーチェオンを害したピアーニャ達は、これ以上何かされる前に拠点へと戻ってきた。キュロゼーラは『これクらいなら全く問題無イ』と言っていたが、それで安心出来るような穴ではなかった。

戻ってきたピアーニャ達を待ち受けていたのは、聞きたい事が沢山ありそうなシーカー達だった。ついでに多種多様なキュロゼーラ達も沢山いる。


「ふふふ。遺言が沢山……なんて美しいんだい……」

『………………』


不穏な声の主は、キュロゼーラの調理を任されてしまった女性シーカーである。情報収集のために延々と料理をしていた為、すっかり人格崩壊を起こしていた。


「さぁ次に料理してほしいのは、ア・ナ・タ?」

「いや俺じゃねえよ! 包丁持って肩掴むな!」

「そう言わずに、最期に楽しく語り合おうじゃないか」

「ひぃぃぃぃ!!」


野菜ばかり切っていたので、たまには肉料理をしたいご様子。流石に危険だと思ったのか、女性シーカーを止める為に周囲の男達も動き出した。そして手に持った包丁をめぐって乱闘騒ぎへと発展していく。


「……さーて、明日に備えるのよ」

「……そーね」


ミューゼ達は何も見なかった事にして、小屋の中へと入っていった。

情報を得るために強引に入ろうとしたバルドルを、ピアーニャとムームーが連れ出し、残ったみんなで一斉にニンジンの着ぐるみを脱ぐ。突然の生肌にアリエッタは驚いたが、生々しいミューゼとパフィに丁寧に脱がされ、逃げられない。


「あわわわ……」

「ほらほら、恥ずかしがらないのよ。ぎゅーしてあげるのよー」

「ひゃあっ」(ちょっと待って柔らかいっ! 当たってる当たってるううう!)

「3人とも相変わらず仲良いですね~」

「ふふっ、いいでしょー」


アリエッタが愛され慌てふためく姿を、ラッチは温かい目で眺めていた。

そんな4人を入口から覗き見る者がいた。


(たのむから、はやくフクをきてくれっ。ドアをあけられんだろうが! わちのフクはそこにあるんだぞ!)


いまだニンジンを脱げないピアーニャである。その周りには、なんとかして覗く為に総長を出し抜こうとするシーカー達と、楽しそうに見守っているキュロゼーラ達、そして乱闘を続けるシーカー達が集まっていた。

そして間もなく、ピアーニャが小屋を守って、乱闘騒ぎを起こすことになるのだった。

からふるシーカーズ

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