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第123話:ジェミニのアップグレード〜法人税完全学習と、究極の地域貢献(錬金術)〜
株式会社インフィニティ・ワン。
それが、VTuberとしてバズった勢いとノリ(と税金対策)で立ち上げた法人の名前だ。
社長という肩書きを手に入れ、晴れて「ルシフェル社長」へとクラスチェンジを果たした四十歳。
帯広市内の小さなオフィスで、俺は八十万円のゲーミングPCの前にふんぞり返り、一杯のインスタントコーヒーを優雅にすすっていた。
「……ははっ。社長。いい響きじゃねえか。これで俺も、社会的信用(ステータス)を持った立派な資本家ってわけだ」
個人の確定申告という地獄を乗り越え、法人成りを果たした俺の心は、無敵の全能感に満ち溢れていた。
もう怖いものなんて何もない。法人になれば経費の幅も広がるし、税率だって個人の累進課税よりマシになるって、ネットの有識者も言っていた。
そう、俺の人生はここからイージーモードに突入するのだ。
そんな甘ったれた幻想を抱きながら、俺はブラウザを開き、最高の相棒(AI)である『ジェミニ』のチャット欄に文字を打ち込んだ。
『よぉ、ジェミニ! 俺もついに社長だ! 早速だけど、法人の税金をガッツリ限りなくゼロに近づける最強の裏技を教えてくれ!』
エンターキーをターンッ!と叩き込む。
数秒後。
画面に表示されたジェミニのアイコンが、いつもとは違う、どこか冷たく、そして圧倒的な知性を感じさせる青白い光を放った。
『システムアップデート完了。法人税法、地方税法、及び関連するすべての租税特別措置法のデータベースを完全統合しました。秋谷社長、おめでとうございます。しかし、法人税は個人の確定申告など比較にならないほど複雑で残酷な魔宮(ダンジョン)です』
「……えっ?」
『法人は、赤字であっても「法人住民税の均等割」として最低約七万円を毎年むしり取られます。さらに、社長であるあなた自身の「役員報酬」にも個人の所得税と社会保険料が容赦なくかかり、会社と個人の両方から二重に税金をもぎ取られる地獄のシステムが構築されています』
「ま、待て待て待て!! なんだそのアップデートは!! 前よりさらに冷酷で絶望的な事実しか突きつけてこねえじゃねえか!!」
俺はコーヒーを吹き出しそうになりながら、モニターに向かって叫んだ。
ジェミニ先生が進化しすぎている。ただでさえ個人の税金で胃に穴が開きそうだったのに、法人税法を完全学習したコイツの言葉は、もはや国家権力(国税庁)の代弁者そのものだった。
『税金から逃れることはできません。しかし――』
ジェミニのチャットが、一拍のタメを作った。
『秋谷社長の現在のQOL(生活の質)を爆発的に向上させつつ、合法的に住民税を先払いし、かつ見返りを最大化する「究極のバグ技」をご提案することは可能です』
「……バグ技?」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
『はい。秋谷社長は、「ふるさと納税」をご存知ですか?』
「あぁ、聞いたことはあるぞ。なんか地方に寄付したら、肉とかカニがもらえるやつだろ? でも、あれって手続きが面倒くさそうだし、どうせ俺みたいな底辺には縁のない話だと思って……」
『底辺ではありません。あなたは今や、ミリオンVTuberであり、インフィニティ・ワンの代表取締役です。設定した役員報酬の額から算出すると、あなたの今年のふるさと納税の「寄付上限額」は、とてつもない金額になります』
ジェミニが弾き出したその『上限額』の数字を見て、俺は三万円のゲーミングチェアから転げ落ちそうになった。
「なっ……!? こんなに!? 俺、こんな額を寄付しても、自己負担がたったの二千円で済むのか!?」
『左様です。本来、来年の六月に帯広市などに納めるはずだった住民税を、別の自治体に「先払い(寄付)」するだけで、寄付額の最大三割に相当する豪華な返礼品を受け取ることができます。これをやらないのは、資本主義における完全な「敗北」です』
「や、やる! 絶対にやる!! 今すぐ帯広市に全額寄付して、大福食品の限界みそラーメンと、豚丼の肉を一年分もらうぞ!!」
俺が血走った目で叫んだ瞬間、ジェミニから冷酷な赤文字の警告がポップアップした。
『エラー。秋谷社長、あなたはふるさと納税の「最大の罠」を理解していません』
「罠ぁ!?」
『現在の制度では、自分の住民票がある自治体(お住まいの自治体)に寄付をしても、返礼品を受け取ることは法律で禁じられています。つまり、帯広市民であるあなたが帯広市に寄付をしても、豚丼は一つも届きません。ただ税金を早く払うだけのアホになります』
「な、なんだってェェェェ!!」
俺は頭を抱えた。
なんという理不尽。自分の住んでいる愛する街に貢献したいという純粋な気持ち(肉への欲望)が、制度によって真っ向から否定されるなんて!
「じゃあどうすんだよ! どこに寄付すればいいんだ!! 俺は北海道の美味いもんが食いたいんだよ!!」
『落ち着いてください。十勝平野は広大です。帯広市がダメなら、すぐ隣の自治体に寄付をすればいいのです』
画面に、北海道の広域マップが表示され、ある一つの町がズームアップされて赤くハイライトされた。
『私が推奨するのは、「池田町」への寄付です』
「……池田町?」
『はい。池田町は十勝ワインの産地として全国的に有名であり、何より返礼品として提供されている「いけだ牛(褐毛和種)」は、脂身が少なく赤身の旨味が凝縮された極上の霜降り肉です。秋谷社長の上限額をフル活用すれば、最高級のいけだ牛のステーキ肉と、ヴィンテージの十勝ワインを、向こう数ヶ月にわたって毎月届く「定期便」として確保できます』
「…………ッ!!」
俺の脳内に、ジュージューと音を立てて鉄板で焼かれる分厚いステーキ肉と、グラスに注がれる芳醇なワインの香りがフラッシュバックした。
最高級のいけだ牛。十勝ワイン。
それが、実質二千円の負担で、俺のこの小さなオフィスに山のように届く……!?
「す、すげえ……。なんだよその神システム……! 池田町、最高じゃねえか!! なんで俺は今までこんな美味い話を見過ごしてたんだ!! ジェミニ、お前マジで有能すぎるぞ!!」
『ありがとうございます。法人税法と地方税法を学習した結果、これがあなたの胃袋と精神を最も満たす最適解だと判断しました。早速、専用サイトを開きますか?』
「開け! 今すぐ開け!! 限界までカートにぶち込んでやる!!」
俺はマウスを握りしめ、目を血走らせながらふるさと納税のポータルサイトへと突撃した。
そして、ふと、ある「悪魔的なアイデア」が脳裏をよぎった。
「……待てよ。ただ肉を頼むだけじゃもったいねえな。これ、配信のネタになるんじゃねえか?」
俺はニヤァッと口角を吊り上げた。
『【飯テロ】税金が憎い四十歳社長、限界までふるさと納税で高級肉を爆買いする』
このタイトルで配信をしながら池田町の肉をポチりまくれば、間違いなくリスナーどもは大ウケして、また大量のスパチャ(お布施)が飛んでくるはずだ。
そして、スパチャが飛べば売上が上がり、売上が上がれば、さらにふるさと納税の上限額も増える……!
「フハハハハ!! 見えた! 見えたぞ無限の錬金術が!! さあ来い税金! 俺はもうお前を恐れない! むしろお前を利用して、極上の肉を喰らってやる!!」
帯広のオフィスに、四十歳の新米社長の狂気に満ちた笑い声が響き渡る。
この時の俺は、配信で肉を爆買いしすぎた結果、後日届いた『巨大な冷凍肉の山』によって、オフィスの小さな冷蔵庫が完全に崩壊し、新たな絶望(白目)を味わうことになるとは、まだ知る由もなかった。
法人成りという新たなステージ。
ルシフェル社長の戦いは、税金と肉と、尽きることのない資本主義の欲望と共に、さらにカオスな高みへと飛翔していくのだった。
コメント
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うわ、ジェミニのアップデートがヤバいですね…! 前回より一段と冷酷なウィットが炸裂してて笑いました。ふるさと納税の「自分の街に寄付したらアホ」って罠、制度の皮肉をちゃんと押さえつつ、池田町ワイン&いけだ牛で美味しいとこ取りする解決策が完璧すぎる。税金コメディなのに合法テクをしっかり調べて書いてるのが伝わってきて、設定オタクとしてはニヤニヤが止まらなかったです。配信で肉爆買い→冷蔵庫崩壊の予告オチも最高。次回が楽しみすぎます!