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「陛下も腰が重いな。
相手の戦力や技術が予想以上だった事は
認めるが……
想定の範囲内だ。
従属させるにしろ手を結ぶにしろ―――
こちらの実力を見せつけておいた方が、
スムーズに事を運べると思うのだが」
ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
その王宮の廊下。
大柄な体を鎧に包んだ、アラフィフの長身の
男性が、痩身の緑の短髪の同性と歩く。
「アルヘン将軍の言、もっともかと。
それに真偽判断を持つラド殿から
得た情報……
相手の水上戦力がほぼ皆無の今だからこそ、
我が帝国はまだ有利な立場におりますが。
こちらがワイバーンを戦力として導入した
ように、あちらも水上戦力を模倣しないとは
限りません」
アストル・ムラト―――
かつて新生『アノーミア』連邦にいた彼は
亡命した後も……
相手戦力がこちらを上回らない内に手を打つべき、
という行動原理で動いていた。
「あれから二度に渡って御前会議が行われたが、
進展が全く見られん。
確かに来年の春まで待てば、万全の体制で
事に臨めるだろうが―――
マームード陛下のお心が開戦と決まった
わけでもない」
「ティエラ王女様を始め、トジモフ外務大臣、
ロンバート魔戦団総司令も消極的・慎重な
姿勢を崩しておりませんからな」
あの御前会議からいくらか時間が過ぎていたが、
(■167話
はじめての とうちゅうかそう参照)
誘導飛翔体の改良が済み次第、開戦すべきだという
武力省・兵器開発省と、
不確定要素の多さを理由に、さらに交渉を
重ねるべきだという魔戦団……
開戦そのものに反対はしないが、もっと
戦力補強と情報の精度を上げてからという
外務省が主に対立し、
話は平行線をたどっていた。
「外交の連中は軍功を上げる立場に無い。
魔戦団も一応武力省の管轄だが独立組織に近く、
支援と作戦立案がメイン。
それに小規模な水上戦はあっても、今度は
海を渡っての本格的な戦闘になる。
逃げも隠れも出来ない洋上―――
慎重になるのは仕方があるまい」
さすがに帝国武力省、そのトップである将軍も
海戦の危険性は看過出来ず、
また皇帝自身が戦争狂というわけでも無いため、
決定打に欠けている事で頭を悩ませていた。
「この大陸で最大の支配地域を有したのも、
陛下の判断と選択が間違っていなかった
からだ。
何かあの方を説得出来る材料の一つでも
あればいいのだが……」
「新兵器や戦力補強では不十分ですか?」
アルヘンの言葉にムラトが聞き返す。
「しょせん、まだ実績が無いものだからな。
大きな戦は一通り終わっているし、
何らかの戦いで効果を実証出来ていれば、
また話は違っていただろうが。
不謹慎かも知れぬが、どこかで反乱でも
起きねば証明も出来ん」
あくまでもデータはデータであり―――
もちろん、実験を重ねれば信頼はされるだろうが、
現段階で皇帝陛下の決断や考えを変えられる
ほどのものではないのだろう。
「材料としては弱い……という事ですか」
「向こうが敵対的ならまだ急ぐ理由も
あるだろうが、惜しげもなくあれだけの
技術公開と提供をしているのだ。
むしろ料理や音楽などの文化面では、
もっと交流を盛んにして欲しいという声が
強まっている。
あまり良い傾向ではない」
それを聞いたムラトは微笑み、
「将軍がそのようなお考えで安心しました。
現に新生『アノーミア』連邦も―――
その方法で懐柔されましたから。
そしてウィンベル王国の機嫌を取るため、
新兵器開発まで取りやめる始末。
戦う前からあの『旧』帝国は、負けていたので
ございます」
「しかし、この流れを変えるのは容易ではないぞ。
時間が経てば経つほどこちらが不利だ。
何か好材料が一つでもあればいいのだが」
帝国武力省トップの言葉に、彼は少し考え、
「う~ん……
そうですね、私ならば―――
今の兵力、もしくは新兵器を最大限に
活用します」
「ふむ?」
ムラトの話に、興味を持って将軍が食い付く。
「以前、将軍が最初にお話しした内容を元に
対策を提案した事がありましたが……
あれをもっとシンプルにします。
地上施設攻撃は捨てて、全てを対空用にした
船団を編成するのです」
「……その狙いは?」
アゴに手を当てて、黒い短髪の大男が耳を傾ける。
「陛下の心に引っかかっているのは、
ワイバーン、ドラゴンといった航空戦力への
対応でしょう。
100隻でもいいので、対空特化させた船を
向こうの大陸へと送り―――
その威容を見せつけてくるのです。
あちらにろくな水上戦力が無いのは
確認済みですし、出来れば交戦して何体か
撃墜して帰還する事が望ましいですね」
「なるほど……
それで対航空戦力に問題は無いと証明し、
またあちら側にも―――
航空戦力の優位性は無くなったと
わからせるのだな?
確かにそれだけの『戦果』があれば、陛下も
お考えを変えるかも知れん」
そこでアルヘン将軍は大きく息を吐き、
「しかし、問題はどうやって出撃させるかだな。
2・3隻程度ならともかく100隻ともなると、
ごまかすのも容易ではない」
「そこまでは……
あくまでも私は考えを述べたまでで。
では、これで失礼します」
そこでムラトは別れ、一人になったアルヘンは
思考する。
「……あの狐めが。
うまく責任逃れしおる。
まあそれくらいでなければ、兵器開発省の
新機軸技術部門を任されたりはせぬか。
いいだろう。その手に乗ってやろう。
失敗してもあちらの戦力を測る事が出来る
からな……!」
将軍は不敵に笑うと、足音を響かせながら
廊下を進んでいった。
「んー、オイシー♪
いい料理人ゲットしたじゃない、
ティエラ王女様」
王宮内にある、王族の一人に与えられた一室。
そこで明るい黄色にも見えるブロンドヘアーの
女性が、笑顔でプリンを頬張る。
「僕は料理担当ではないんですけどねえ」
「諦めろセオレム料理人。
お前があの大陸から料理を持ち込んだ
第一号だからな」
不満そうな顔をする、ブラウンのボサボサ髪の
アラフォーの男に、アラフィフの赤髪の筋肉質の
同僚が話し掛ける。
「え、ええと……
相談に応じてくれてありがとうございます。
ロンバート魔戦団総司令殿」
痩身で上品そうな女性―――
ティエラ王女が会釈すると、
「ティグレやラドにも頼まれたからねぇ。
で? 何が聞きたいの?」
身分差に配慮しない物言いで、彼女は
王女に先を促す。
「すでにあちらの大陸への対応について、
数度の御前会議が設けられましたが―――
魔戦団総司令殿のご意見を伺いたいと
思いまして」
それを聞いてメリッサ・ロンバートは、
プリンを平らげた後のスプーンを置いて、
「アタシらは軍人だから、皇帝陛下の命には
従うだけだよ。
だから個人的な意見になるけど……」
そこでティエラ・カバーン・セオレムの
三人の視線が集中する。
「正直言って、大・反・対!
だって海の向こうだよ?
そりゃ船はあるけどさ、帝国は大規模な海戦の
経験なんて無いんだ。
あと御前会議のたびに不確定要素が多いって
口すっぱく言ってんのに、あの戦バカどもは
認めやしない。
それでいてちったあ頭が回るから
質悪くて……!」
堰を切ったように捲し立てるロンバートに、
三人は困惑するが、彼女は構わず続ける。
「大体ねぇ、海戦で勝つのは前提でしょ。
相手の本拠地落とさないと戦争は
終わらないんだ。
海渡ってからが本番なんだよ。
聞くところによると―――
あちらはハイ・ローキュストの大群を
退けたっていうじゃないか。
そんなの無理。帝国でも絶対無理。
相手が防御に徹したらまず勝てないってーの。
戦うのは結構だけどさ、あいつらにゃ
どうやって終わらせるのかのビジョンが
全く無いんだから」
慌てて女王直属の二人が追加の料理を差し出し、
「お、落ち着いてください」
「こちらパンケーキと葛餅になります」
それを受け取ると彼女は満面の笑顔となり、
「おーこれこれ♪
これもオイシイよねえ♪
てかこっち、芋から作られているってマジ?」
葛餅をつつきながら笑顔に戻る魔戦団総司令。
「そ、そのようですが……
それより、ロンバート殿は当初より、
『不確定要素が多い』という主張をされて
おりましたが、
空、陸上、水上―――
全ての戦力をわたくしたちは見せて
もらったのですよ?
それは真偽判断を持つラド殿も確認済みです」
彼女の言う『不確定要素』……
そこに開戦を思いとどまらせる何かが無いかと、
王女は詳しく聞こうとする。
「メリッサでいいよ、王女様。
あと真偽判断についちゃ、過信しない方が
いいと思う。
まさかと思うけど、ウィンベル王国の
ラーシュ陛下に直接問い質したわけじゃ
ないっしょ?」
謁見の場以降、ラーシュ陛下と会見の場を
持ったのは、ティエラとブラン外務副大臣のみ。
その質問に王女直属の部下二人は顔を見合わせ、
「それはそうだが……」
「だが、戦力の視察はラド殿を含め、
魔戦団副団長のティグレ殿も参加しています。
ごまかすのは厳しいと思いますが」
すると魔戦団総司令はいったん
食べる手を止めて、
「だから、彼らすら知らないものがあったら?
知らない事について嘘なんてつけないでしょ。
知らないんだから。
それに真偽判断って結構限定的なのよ。
空、陸上、水上戦力って言ってたけど、
それが『全て』の戦力じゃないとしたら?
こちらが思いもつかないものだったら、
質問すら意味が無いわよ?」
その言葉に三人は困惑し、今ひとつ意味が
伝わらないと判断した彼女は続ける。
「例えばこの葛餅ちゃん。
アタシはこれが芋から作られている、
という事を聞いて知っていたからその
質問が出来たの。
わからなければその質問すら出来ない。
わかる?」
その説明に、ティエラはハッとした表情になる。
「し、しかし」
「空、陸上、水上以外の戦力とは―――」
カバーンとセオレムが疑問を呈するも、
「いやだからわかんないっての。
透明戦力とか、瞬間移動戦力とか、
遠隔地攻撃戦力とか……
帝国の誘導飛翔体みたいな?
それなら地形関係無いしー。
相手だってバカじゃなければ、切り札は
隠し持っていると見ておいた方がいいわよ」
その指摘に三人は黙り込む。
「……まあいろいろと言ったけど、
今のところ救いは、皇帝陛下が冷静に対応して
くださっている事かな。
後は武力省のバカどもが暴走さえしなければ」
ティエラは前半の言葉にホッとし、
後半の言葉で顔色を変える。
「暴走、ですか?
それは皇帝陛下に無断であちらの大陸へ
攻め込む可能性があると?」
聞き返す彼女にメリッサは両目を閉じて、
「やり方なんていくらでもあるのよー。
例えば遠洋で実験したいとか、訓練とか―――
適当な名目で軍を動かす理由ならいくらでも
考えられる。
ただリスクは高いわ。
成功すりゃいいけど、失敗しようものなら
厳罰モノ。
そんな度胸があるヤツは少ないと思うけど、
あのムラトって男がクサいのよねー」
新生『アノーミア』連邦からの亡命者の名前が
出た時点で、王女の直属の部下二人が、
「あの男が、かぁ?」
「そんな度胸があるようには見えません
でしたが……」
その反論にメリッサは、人差し指を
振り子のように左右に振って、
「度胸が無いって事は、1人で事を
起こさない。
つまり誰かを動かす可能性があるって事。
あの男と軍の跳ねっかえりに―――
注意しておいた方がいいと思うわ」
魔戦団総司令の説明に、三人はお互いに
うなずき合い、
「ねーねー、他に何か無いー?」
「え? は、はい! ただ今!」
彼女の催促に早足で奥に引っ込むセオレムに、
「わたくしも何か飲み物を」
「あと適当に人数分、甘味を頼むわ」
「わかりました!
って、どうしてカバーンまで!?」
そのやり取りの後―――
笑い声が室内に響いた。
「あ~……
このシャーベットたまらんねぇ」
「建物の中の暑さ対策は出来ておるが、
こうして外で食べる冷たいものも格別だのう」
「ピュウゥウ~」
時刻は夕方で涼しくなってきた頃だが、
夏真っ盛りの暑さの中―――
私たちは店外に設置された飲食スペースで、
冷たい甘味を堪能していた。
「シンさん。
そろそろみたいッスよ」
「もう集まり始めているみたいです」
そこへレイド夫妻が声をかけてくる。
「そうですか。
それじゃ、そろそろ移動しましょう。
メル、アルテリーゼ、ラッチ」
私の言葉に同じ黒髪の……
アジアンチックな女性と欧米モデルのような
体形の妻二人が立ち上がる。
ここはブリガン伯爵領―――
東地区。
実質上、ギルド支部長であるカルベルクさんが
統治している町だ。
その彼から招待状をもらったのは数日前。
何でも夏になると、この町では『麻雀大会』が
開かれるようになったらしく、
その麻雀の考案者として、私を招待したい、
との事だった。
手紙は公都『ヤマト』ギルド支部の支部長、
ジャンさんに伝えられる形で来ており、
あのアシェラットさん一家も大会に参加する
との事で、旧交を温めるのも兼ねて、
こうして訪問したのだった。
「もうカルベルクさんもアシェラットさんも
来ているって事ッスから」
「まずは大会本部に行きましょう」
褐色の肌に、黒い短髪の青年と、
その妻の丸眼鏡の女性が先導する形で、
私たち一家は目的地へと向かう事にした。
「おう、久しぶりだな」
「あの麻雀もトランプとやらも―――
たんまり儲けさせてもらっているぜ」
まずは頬に十字のキズが入った、40代と
思われる強面の男性……
『疾風のカルベルク』さんと、
小柄ながらも片目を眼帯でおおい、そこから
隠しきれない傷がのぞく―――
『怪力』の使い手、アシェラットさんが
あいさつしてきた。
「シンさん!」
「姉御もお久しぶりです」
役人のような固い雰囲気の男と、
小太りのスキンヘッドの……
拘束魔法のスレイさんと、
擬態魔法の使い手である
ホールドさんが片手を挙げ、
「しばらく見なかった顔ねぇ」
「また何か、新しい甘いものとか
作ってないの?」
ピンクヘアーをポニーテールのようにまとめた、
女戦士のようなボディの瓜二つの双子の女性、
『幻影魔法』のレオナさん、
『分身魔法』のソアラさんも
声をかけてくる。
そして―――
「おう、オヤジィ。
今回、イカサマ野郎に勝ったら
報酬は何でもいいって本当だろうな?」
半袖・長ズボンの、髪さえ短ければ男性に見える
赤い長髪の女性がやたら気合いが入っており、
「二言はねぇよ。
そのためにエクセ、今回はお前を解禁
するんだ。
何としてでもイカサマ野郎に勝ち逃げ
させるんじゃねぇぞ」
そしてカルベルクさんがそのまま私の方を向いて、
「で、シンさんよぉ。
アンタの『抵抗魔法』にも期待して
いるから、いざという時は頼むわ」
そう。
今回、招待されたのは事実なのだが、
裏では、最近ここらで麻雀やトランプなどの
ギャンブルでイカサマを働く……
いわゆる賭場荒しが出没しているという。
そこで私の抵抗魔法―――
という事になっている私の能力と、
エクセさんとで、そのいかさま師を
あぶり出して欲しい、という依頼が裏にあった。
「でもシンはわかるとしてもさー、
エクセさんはどうなん?」
「そのいんちきとやらを見破れる能力が
あるというのか?」
「ピュ?」
家族が彼女に口々に問うと、
「別にあたいにそんな魔法は無いんだけど。
あたいの持つ魔法は身体強化、それに
『鉄拳』と『追跡』
だけだし。
でもオヤジがあたいなら勝てるって言うから」
ポリポリと頭をかくエクセさんに、オヤジである
カルベルクさんが、
「……何だか知らねぇが、エクセはギャンブルに
めっぽう強いんだよ」
それを聞いていたアシェラットさんと、
その一家の方々が首を千切れんばかりに
左右に振り倒す。
「あんなのはギャンブルとは呼ばねえ。
呼んでたまるか」
「勝てるかどうかわからないから、
ギャンブルって言うんですよ?」
「対峙した時点で終わりって、
どういう事だよ……!」
男性陣が青ざめた表情で語り、
「どんないかさま野郎が来ても、
いかさまする前に勝つからねぇ。
このお嬢ちゃん」
「最終手段というか最終兵器というか……」
心無しかレオナさん、ソアラさん二人の
顔色も悪い。
何かトラウマでもあるのだろうか。
(■137話
はじめての ばんがいへん その1参照)
「まあそうだな。
シンさんは保険ってところだ。
エントリーはしないで、ゆっくり観戦
していってくれ。
怪しい野郎が出て来たら呼ぶからよ」
こうして、麻雀大会は幕を開けた―――
「どうですか?
見つかりましたか?」
「う~ん。
今のところそんなヤツはいねぇな。
怪しまれないよう、目立つ勝ち方は
してねぇんだろう」
大会が進むにつれ、人数も絞られてきたが、
これと言った者はいないらしい。
アシェラットさんも目星はついていないようだ。
「勝ち方を制御出来るんでしょうか?
だとすると厄介ですね……」
「まぁだが、いずれわかる。
必ず引っ掛かる手を用意しているからな」
自信満々にカルベルクさんが答え、
「それは何スか?」
「用心深い相手なら、出て来ない可能性だって」
レイド君とミリアさんが夫婦で聞き返す。
「あたいが優勝者と1対1でやる事に
なってんだよ。
あたいに勝てたら賞金10倍っていう、
オイシイ餌をぶら下げてな。
オヤジの考えた手だ。
絶対乗ってくる!」
ドヤ顔でエクセさんが『オヤジ』の代わりに
口を開く。
「そりゃうまい手だね」
「必ず勝てるのであれば乗ってくるであろう」
「ピュピュ」
家族も同調する中、大会は進行していき……
ついに優勝者という名の容疑者が決定した。
「今回の麻雀大会優勝者は―――
カメレさんです。
おめでとうございます!」
二時間ほどした後、表彰式で……
やや女装にも見えるケバい化粧をした、
細身の男が微笑みながら頭を下げる。
「いや、運が良かっただけですよ。
結構ギリギリだった時もありますし、
何とか最後まで勝ち残れました」
外見とは対照的に、彼は礼儀正しく対応し、
「それでは賞金として金貨200枚―――
それと特典として、特別対戦がありますが、
どうでしょう。
お受けいたしますか?」
司会者の言葉にカメレは首を傾げ、
「特別対戦?」
疑問をつぶやくと、そこへ彼女が姿を現す。
「あたいに勝てば、優勝賞金10倍だぜ!
ま、お祭りを盛り上げるためだとでも
思ってくれりゃいい。
もちろん、断る事も出来るぜ?」
エクセさんがその決して小さくない胸を張って
宣言すると―――
会場内の熱気はさらにヒートアップする。
「これは……
断るのは野暮でしょうねえ。
わかりました、お受けいたしましょう」
そしてスペシャルマッチが組まれたのであった。
「(……エクセ?
冒険者のようですが、ギャンブルの世界では
聞いた事も無い名前ですねえ。
しかも負けた時のペナルティは無いし、
何より賞金の10倍、金貨二千枚はおいしい。
どちらにしろ私の―――
『変換魔法』があれば、
負ける気遣いは無い……!)」
カメレという男はやはりイカサマ師であり、
賭場荒しの張本人であった。
その能力は文字通り物を複製するもので、
牌を自由自在に作り変え―――
場をコントロールしていたのである。
「(私の変換魔法は小さな物しか出来ない、
言ってみれば役立たずの魔法ですが、
イカサマではトランプでも麻雀でも
最強となるのですよ……
勝負が終われば変換した牌を元に戻し、
混ぜてしまえばバレる事もありません。
そこそこ負けながら戦えば疑われる事も
無いので……
このお嬢さんにも最初は花を持たせて
あげる事にしましょうか……!)」
カメレは心の中でほくそ笑みながら、
エクセとの対局に臨んだ。
「おおっと、一進一退の勝負となっております!
エクセ選手、隠れた実力者だったのか!?
カメレ選手の顔にもグロッキーな表情が
浮かんでおります」
司会者の実況通り―――
試合はある意味、意外な展開を見せていた。
「ありゃー。
なかなか勝負がつかないな」
エクセはそう言いながら、麻雀牌かき混ぜる。
「ははは、そうですねえ」
口では穏やかに答えつつも、カメレは内心
焦りつつあった。
(何だ!? 何なんだよこの女は!
ロジックも確率もまったく考慮している
気配が無い!
それでいていきなり上がる一方で、
負ける時はルール違反で流局とか……
おかしいだろ!
どう考えても!!)」
彼からしてみると、エクセは
『ルールは一応覚えたけど細かいところまでは
知らない素人』
だったからである。
それが魔法でイカサマをしている自分と
互角以上に戦っている事に、集中力が
途切れつつあり、
「ん、わかったかも」
「どうしたッスか、ミリア?」
近場で観戦していたミリアさんが、
夫の横で声を上げる。
「あの麻雀牌、不自然に牌が増えてた。
多分、複製だか取り換えるだかしているのが、
あのカメレっていう人の手なんだと思う」
彼女は『記憶魔法』の使い手であり、
さらに一度見た人は、変装していようが何だろうが
見抜く性質も持っている。
今回はそれで試合を監視していて、
やっと相手がシッポを出したようだ。
「ほほお。という事は……」
「シン、遠慮はいらぬ」
「ピュ!」
メル、アルテリーゼ、ラッチが促す中、
私はカルベルクさんに視線を送ると、
彼も応えるように手を振る。
そして私は小声でつぶやき、
「何も追加素材を使わず、物をコピーする、
カスタマイズする事など―――
・・・・・
あり得ない」
その後カメレという男は、魔法抜きで
エクセさんと勝負を続け……
その結果は当然のものとなった。
「特別対戦はエクセ選手の勝利!
カメレ選手、10倍の賞金は手に入り
ませんでした……!」
司会者が試合の結果を発表し、カメレは
力無く肩を落とす。
彼の魔法は一応試合終了と共に元に戻して
おいたけど……
後日、アシェラットさん一家が『話し合い』に
呼ぶそうだ。
まあこれで一件落着―――
と思っていると、
「オヤジィ!
勝ったら報酬は何でもいいって
言ったよなぁ?」
エクセさんがカルベルクさんを指差しながら、
表彰台で大声を上げる。
「ん? ああ。約束だからな。
だが後でいいだろうエクセ。
とにかく大会を終わらせて」
と、彼が言い出したところで彼女は走り出し、
「それなら!
あたいを!!
嫁にもらえ~~~っ!!」
と、大会関係者、および大勢の観客の前で
カルベルクさんに飛び付き、
別の意味で会場は大混乱になった。