テラーノベル
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SOSのアイコンタクトも虚しく、岩本が動く気配はない。しびれを切らした向井は、意を決して二人の間に飛び込んだ。
「もー!やめぇや、二人とも!こんなん、ファンが見たら悲しむで!」
両手をいっぱいに広げ、必死の笑顔で訴える。しかし、頭に血が上っている二人には、その健気な仲裁は届かなかった。
「康二は黙ってろ!」
「康二は引っ込んでて」
左右から同時に、冷たい言葉で一蹴される。完全に弾き返された向見は、「うっ…」と言葉に詰まり、しょんぼりと肩を落として壁際へと引き返した。
その痛々しい姿を見て、今まで静観していた岩本の眉が、ぴくりと動いた。
ついに、岩本がゆっくりと立ち上がる。そして、無言のまま二人の間に進み出ると、その両肩を背後からガシッと力強く掴んだ。
「…っ!?」
「ひかる…?」
突然の衝撃に、渡辺も宮舘も驚きの声を上げる。岩本は、二人の耳元で、地を這うような低い声で一言だけ告げた。
「お前ら…頭、冷やせ」
有無を言わさぬ、絶対的なリーダーの圧力。その気迫に押され、二人とも押し黙るしかない。腕力では、この男には到底敵わない。
しかし、睨み合う二人の間の凍てついた空気が溶ける前に、ガチャリ、と無情にも楽屋のドアが開いた。
「おーい、お前ら次の移動、時間…」
マネージャーが、手にしたスケジュール表を見ながら顔を上げる。そして、楽屋に充満する異常な空気と、岩本に両肩を掴まれたまま固まっている二人の姿を見て、言葉を失った。
「…え、何この空気?」
その一言で、三人は魔法が解けたようにパッと離れる。最悪の形で、喧嘩は強制的に中断させられた。根本的な解決は何もしていないまま、この後の二人一緒の仕事に向かわなければならないという、地獄の時間が確定した瞬間だった。
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