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第26話:守られなかった命
荒野の座標地点。
灰色の砂が風に舞い、夜空には国家の監視機の光が縦横に走っていた。
その中央で、クオンは外套を翻し、額の第三の眼を全開に輝かせていた。
灰色の瞳は冷静だが、その奥には激しい決意が宿っていた。
「……開けるぞ。」
隣に立つユリクは、赤茶の髪を乱しながら頷いた。
紫の瞳が揺れ、手に持つカプセル装置を起動する。
暗黒物質を媒介にした光が砂の模様を走り、空間に縦長の裂け目が浮かび上がった。
──鏡の扉。
都市が上下逆さに重なり合うように見え、人々の影だけが歩いている。
建物は歪み、時間が滲んだように揺らいでいた。
その光景は市民にとってタブーの象徴だが、クオンの第三の眼にははっきりと映っていた。
「これが……鏡の世界……」
一歩、裂け目に踏み込んだ瞬間。
そこに現れたのは、数多の“命”だった。
小さな子ども、老人、兵士、そして名もなき市民。
彼らは皆、どこかで“救われるはずだった命”だった。
事故で消えた者、病で切り捨てられた者、国家の修正により「存在しなかった」ことにされた者。
「ここに……いたのか。」
クオンの声は低く震えた。
少年が一人、クオンを見上げていた。
短い緑の髪、水色の瞳。
額の第三の眼は閉ざされ、声を持たない。
だがその視線だけで、「生きたかった」という願いが伝わってくる。
ユリクは紫の瞳を見開いた。
「……守られなかった命が、ここに蓄積されているのか……」
背後からは国家の追撃部隊が迫ってきていた。
ラディウスの緑の瞳が冷たく光り、濃墨のマントを翻して剣のように鋭い声を放つ。
「クオン! その扉を閉じろ! それは秩序を壊す災厄だ!」
群衆のように溢れ出す「守られなかった命」。
その姿は市民には見えず、国家の端末には「エラー」としか映らない。
だがクオンの第三の眼には、その一人ひとりが“確かな存在”として刻まれていた。
「……これが俺の正義の答えかもしれない。」
灰色の瞳が光を帯び、クオンは扉の中へと足を踏み込んだ。
その背中を見つめるユリクの紫の瞳には、迷いと決意が同居していた。
タブーを超えたその先に、“守られなかった命”の真実が待っていた。