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第27話:鏡の自分
鏡の扉の奥は、現実の都市を逆さに写したかのような空間だった。
空は裂け、上下に二つの街並みが重なり合い、人々の「影」だけが歩いていた。
建物の窓からは光が漏れず、街全体が灰色の薄膜に覆われている。
そこは、国家が存在を認めない“鏡の世界”だった。
クオンは墨染めの外套を揺らしながら進んでいた。
灰色の瞳は冷徹に見えたが、額の第三の眼は震えるように光を放っている。
背後ではユリクが赤茶の髪を押さえ、紫の瞳を不安げに揺らしていた。
「……ここに本当に答えがあるのか?」
「師匠が最後に残した座標だ。必ず意味がある。」
クオンは短く応えた。
その時、広場の中央に立つひとつの影に目を奪われた。
それは──クオン自身だった。
灰色の外套、冷静な表情、額に光る第三の眼。
だが微妙に違う。
髪は長めに伸び、灰色の瞳はどこか疲弊しきっていた。
顔に刻まれた皺は深く、まるで何百年も戦い続けてきた者のようだった。
「……俺?」
クオンの声が震える。
もう一人のクオンは静かに口を開いた。
「ここは“守られなかった命”が集まる場所。そして、選ばれなかった未来が沈む場所だ。
お前は命を守ろうとしている……だがその正義は、俺が歩んだ破滅の道に繋がる。」
ユリクが息を呑む。
「……鏡の自分……?」
もう一人のクオンは、淡い灰色の瞳を細め、第三の眼を強く光らせた。
「秩序に従えば命は消える。命を救えば秩序は崩れる。
俺はどちらも選べず……この鏡に取り込まれた。」
クオンは拳を握りしめ、冷静な顔の奥で激しく揺れていた。
「なら、俺はお前と同じにはならない。俺の正義は──命を守ることだ。」
灰色の瞳と灰色の瞳が交錯し、第三の眼同士が互いに光を放つ。
鏡の世界全体が軋むように揺れ、守られなかった命たちの影が周囲に集まってきた。
「……正義が同じなら、なぜ俺はここにいる?」
もう一人のクオンの声が、鏡の街に重く響いた。
現実の秩序を守る国家、命を造るフォージャー、そして鏡に囚われた“自分自身”。
クオンはついに、正義の答えを自分の中から探さなければならなくなっていた。