コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『通報者は糸音真弓。20代前半の女性で、深夜、友人達との飲み会を終え、帰宅途中に例の公園で銅像が動いていたのを発見したらしいわ。また、その時変な匂いもしたみたい…とりあえず、情報はこれで以上ね。どう、役に立ったかしら?』
「ええ…ありがとうございます。糸音真弓さんは飲酒をしていたそうで?しかも、かなりの量を」
『みたいね。他の奴らは幻覚だの言っているけど、一応、ね。それに…』
「それに?」
『泥のようなものも見えたそうなの』
「……!そうですか…わかりました。とりあえず監視は続けてみます。では」
『ええ、頑張ってね』
そう言うと、鴉さんは通話を切り、ふうっと息を吐きました。
蝙蝠さん、鴉さん、そして私の以下3名で監視を始めて既に数日が経過。一向に銅像の動く気配はしません。念の為、場所を変えたり時間帯を変えてみたのですが、それでも異常なし。
痺れを切らした鴉さんが、本部に連絡をしたというところです。ですが、情報を聞く限りそんなに役に立つようなものはないようですね。
それにしても、泥のようなもの……。
《泥人形》に記載された人たちは一応、こちらで保護させてもらうことになりました。正直、ずっと観察しているわけにもいきませんし、何より他の任務もありますから。
ですが、泥のようなものが、《泥人形》に関わるものなのでしたら…。
「…監視はとりあえず、このまま続行する」
「これ以上、進展がなかった場合はどうしましょう」
「そうだな…雀に依頼するというのもありだが…」
コードネーム【雀】、情報収集や索敵に特化した能力を持つ、最高幹部の1人ですね。
確かにその方にお願いすれば、何かしらの進展はあるかもしれません。
「だったら、いっそ今ここでしてもらうことは?」
「無理だ、今雀は任務中だ」
「そんな…じゃ、じゃあ場所は?場所次第では近くに来てもらうことも…」
「雀は他の国にいる。近くどころではない」
「そんなああ…」
「……鴉」
すると、今まで黙っていた高森さんが突然口を開きました。何か、あったのでしょうか。
「…銅像の…足…」
「足って……」
蝙蝠さんが指差したのは、カメラの映像が写し出されたモニターでした。鴉さんと私はモニターを確認してみます。
勿論、そこには変わりない犬の銅像があって……。
「ーー泥?」
そう、犬の足元には大きな泥団子が置かれてあったのです。
「…あ、あの…ここの公園に来た人って…」
「…今日1日はいないはずだ」
「さ、さっきまで泥団子って置かれてましたっけ…」
そこまで言うと、鴉さんは慌ててトラックの荷台から出ます。
「あっ、鴉さんっ!」
「………」
小さくなっていく背を、私達は急いで追い掛けました。
♦︎♦︎♦︎
盲点だった。そもそも、異質な匂いがしたと聞いた時から疑えば良かったのだ。可能性ではない、これは確信だ。
これが《泥人形》の仕業だというなら。どういった原理なのかは分からないが、だがアイツが体を乗っ取った瞬間はこの目で見た。それが生物だけではなく、モノに対しても出来るなら。
私たちがいくら監視をしても反応がなかったのも、それのせいならば。
「…はあ…はあ…」
慌てて走ってきたせいで、呼吸が浅くなる。深呼吸をし、息を整えそして銅像の足元を見た。やはり、そこにはモニターでも見つけた泥団子が。それを手に取ると、変な匂いが僅かにした。泥…の様な、違うような。異質な匂いであった。
「鴉さんっ!」
急いで来たのだろう、眠り姫と蝙蝠が走って私の元に近付いた。
「だ、大丈夫ですか?泥団子は?」
「これだ」
手に持っていた泥団子を、眠り姫に渡す。
「これ…は。って、何か変な匂いしますね…泥…でしょうか」
「分からない。泥と何かが混ざっている様だな」
「不気味ですね…」
「だな。ひとまず、この辺りを散策しよう。何かしらか発見できるかもしれない」
そう言うと、眠り姫は元気よく返事をし、蝙蝠は僅かに頷いた。
銅像の辺りを探そうと、足を動かそうとする。と、その瞬間。
ーーべしゃっ。
銅像の後ろから、何か柔らかいものが地面に落下する音が聞こえた。
「ひっ…!?い、いま…!」
「…攻撃体制に入れ、戦闘になるかもしれない」
ピリッとした重々しい雰囲気が我々の間に漂う。そして、慎重に銅像の後ろへ近付いた。
そこにあったのは…。
「泥…!?」
沢山の泥であった。
♦︎♦︎♦︎
銅像の後ろから、公園の出入り口に向かって泥が、まるで足跡のように続いています。
私達を、こちらに着いてこいと誘う様に。
泥を見た鴉さんと蝙蝠さんが思わず黙ります。私も驚きで固まってしまいました。
この泥…まさか。
「ど、どうします。この泥を辿って行きますか…?」
暫くの沈黙。鴉さんは考えている様です。
「……仕方ない。この泥を辿ろう」
「でも…出入り口にまでしかないようですが…」
「……」
鴉さんは何もいわないまま、ずかずかと出入り口の方まで進んでいきます。丁度、鴉さんが出入り口に差し替かり、もう出てしまいそうな時。
ーーべしゃっ。
また、何処かで泥の落ちる音がしました。
「…えっ…!?」
鴉さんの前に、泥が上から落ち、また足跡の様に続いていたのです。
「……どうやら、誘われている様だ」
諦めたように鴉さんはそう呟きます。
このまま行くべきでしょうか…。ですが、このまま行かないと駄目なような気がします。
それに、蝙蝠さんもいるのですから…。
「着いて、いきますか…?というか、これは着いていった方が良さげですよね…行かないと、折角のチャンスを逃してしまうような気がして…」
「…蝙蝠、後ろは頼んだぞ」
「……ああ」
鴉さんと蝙蝠さんはお互いに頷き合います。鴉さん、私、蝙蝠さんの順番で進むことにしました。
泥に沿って、道を進んでいきます。
途中、泥の途切れた場所がありましたが、また新たに上から泥が落ち、また誘うかのような並びで泥が散らばっていました。
…進むしかありません。進まないと、《怪物》いえ、《泥人形》への近道を失うことになりますから。
そして、暫く歩いて。
「ここは…」
鴉さんは少し驚いたような声を出します。背後で立っている蝙蝠さんも、どこか驚かせられたような感じを醸し出していました。
私達の目線の先。
そこは、朽ち果てた廃工場でした。