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霞花怜
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読み終わりました……!🥀 最初は「純粋そうな後輩、かわいいな」って思ってたのに、最後のギャップがすごすぎて鳥肌立ちました……。ゆうくんの「♡♡♡ぞ」の冷たい声と、蓮先輩への重すぎる執着がめちゃくちゃ刺さる。蓮先輩も元ヤンなのに、ゆうくんの前では完全に守られる側になってて、その関係性の逆転がたまらないです。続き、めっちゃ気になります……!
雨の日の放課後、蓮は校舎の裏手でため息をついていた。
中学時代の黒歴史——派手な金髪に特攻服、日常茶飯事の喧嘩——を完全に封印し、黒髪に標準的な制服という「どこにでもいる男子高校生」としてやり直して半年。今日の蓮は、静かな高校生活を心底満喫しているはずだった。
「あの……黒崎先輩、ですよね」
声をかけてきたのは、一つ下の後輩・橘ゆうだった。細身の体に大きめの制服、いつもおどおどとしていて、どこか小動物を思わせる存在だ。
「……ん? 俺に何か用か?」
できるだけ角の立たない、柔らかい声を意識して返事をする。だが、ゆうは恐縮したように肩をすくめ、手に持っていた折りたたみ傘をぎこちなく差し出してきた。
「さっき、先輩が傘を持ってなさそうだったのを……お見かけして。僕、予備があるので、よかったら使ってください」
「え、あ……悪いな、助かる」
素直に受け取ると、ゆうはパッと顔を輝かせた。その純粋な笑顔に、蓮の胸の奥がキュッと締め付けられる。
(なんだこの可愛い生き物は……。俺みたいな元ヤンの粗暴な奴とは大違いだな)
「あの! 僕、先輩とずっとお話ししてみたかったんです。いつも一人で図書室にいらっしゃいますよね。すごく優しそうで、憧れてて……」
上目遣いでそう語るゆうを見て、蓮は心の中で誓った。
*この純粋な後輩の憧れを裏切るわけにはいかない。絶対に元ヤンだとバレるような真似はしないし、もし誰かがこいつを傷つけようとしたら、陰から全力で守ってやろう*、と。
「……ありがとな、橘。俺でよかったら、いつでも話しかけてくれ」
頭をぽんぽんと撫でてやると、ゆうは耳まで赤くして嬉しそうに頷いた。
それからというもの、放課後になるとゆうが蓮の元へやってくるのが日課になった。
購買のパンを分け合ったり、くだらない雑談をしたり。蓮にとって、ゆうと過ごす時間は自分の過去を忘れられる温かい救いだった。
しかし、その穏やかな日々は、ある日の放課後に崩れる。
裏庭の物陰から、くぐもった声が聞こえてきた。
「おい橘ぁ、調子乗ってんじゃねえぞ。蓮先輩にやたら懐いてるらしいじゃねえか」
聞こえてきたのは、校内でも評判の悪い不良グループの声だった。蓮はハッとして物陰に駆け寄る。
(やべえ、あいつらが橘に……!)
昔の血が騒ぐのを必死で抑えながら、角を曲がった蓮は、事態を穏便に収めようと声を張ろうとした。
「そこまでだ、お前ら——」
だが、言葉は最後まで続かなかった。
そこにいたのは、胸ぐらを掴まれて怯える橘ゆう……ではなかった。
「……あ?」
冷酷で、底冷えするような低い声。
壁に追い詰められていたはずのゆうが、自分より頭一つ大きい不良の腕を、信じられない力で捻り上げていた。
「僕と蓮先輩の時間を邪魔するなよ。殺すぞ」
いつもはおどおどしているはずの目が、見たこともないほど冷たく、鋭く光っている。不良たちはその圧倒的な威圧感に気圧され、悲鳴を上げて逃げ出していった。
静まり返る裏庭。
呆然と立ち尽くす蓮の存在に気づいたゆうは、ゆっくりと振り返った。
一瞬でいつもの「弱々しい後輩」の顔に戻るかと思いきや——ゆうは、妖しく歪んだ笑みを浮かべた。
「あ……見られちゃいました?」
「お前……橘、それ……」
「びっくりしました? ごめんなさい、怖がらせちゃって」
ゆうはゆっくりと歩み寄り、立ちすくむ蓮の胸元にそっと手を置いた。逃げようとしても、その細い指先からは逃れられないような、不思議な力強さを感じる。
「僕ね、昔から知ってたんですよ。中学時代、街で一番強くて格好良かった『鮫島の狂犬』……黒崎蓮先輩のこと」
「っ……!」
過去を突きつけられ、蓮の背中に冷や汗が流れる。
「先輩が高校で『いい子』になろうとしてるのも知ってました。だから、僕が理想の『守ってあげたくなる可愛い後輩』になれば、先輩は僕のことを見てくれるかなって」
ゆうは蓮の顔を覗き込み、愛おしそうに頬を撫でた。
「先輩、もう隠さなくていいんですよ。昔の強い先輩も、今の優しい先輩も、全部僕だけのものですから」
「お前……俺を騙して……」
「騙してないですよ。僕が先輩を大好きなのは、最初から本当ですから」
耳元で囁かれた甘い声に、蓮の鼓動が激しく跳ね跳ねる。
元ヤンとしての鋭い勘が告げていた。目の前にいるこの後輩は、自分なんかよりずっと手に負えない「猛獣」だと。
でも——首元に回されたゆうの手の温もりに、なぜか拒絶する力が湧いてこなかった。
「……っ、おい、離せ……っ」
言葉とは裏腹に、体の力が抜けていくのを蓮は感じていた。
長年、力と凄みで周囲を圧倒してきた自分が、自分より背の低い、か弱いはずの後輩に完全に主導権を握られている。そのあり得ない状況に対する困惑と、耳元に吹きかけられる熱い息のせいで、思考がうまくまとまらない。
ゆうは蓮の反応を楽しむように、ふっと口元を緩めた。
「嫌ですか? 僕に触られるの」
そう言いながら、頬を撫でていた指先がすっと滑り、蓮の制服の襟元へと向かう。
「……嫌とか、そういう問題じゃねえだろ。お前、今まで俺をずっと騙して……」
「騙したなんて言わないでください」
ゆうは蓮の言葉を遮ると、ゆっくりと顔を近づけてきた。二人の距離が、息がかかるほどに縮まる。
「僕はずっと、あなたのことだけを見てたんです。あなたがどれだけ優しくて、どれだけ人のために傷つこうとするか知ってる。だから……僕があなたを守ってあげるんです。昔のあなたじゃなくて、今の、こんなに可愛くなっちゃった蓮先輩を」
「誰が可愛いだ、ふざけ——」
言いかけた蓮の唇に、ゆうの親指がそっと押し当てられた。
「しー。大声出すと、誰か来ちゃいますよ? そしたら僕、またさっきみたいに『怖い顔』しなきゃいけなくなる」
くすりと笑うゆうの瞳には、一切の迷いがない。本気だ。本気で自分を所有しようとしている。
元ヤンとしての本能が「危ない」と警鐘を鳴らしているのに、優しく背中に回された腕の温もりと、向けられる一途で重すぎる愛しさに、蓮はどうしても強い拒絶の声を上げることができなかった。
「……お前、マジでタチ悪いな」
小さく吐き捨てた蓮の言葉に、ゆうは心底嬉しそうに目を細めた。
「知ってます。でも、もう逃がしませんからね、先輩」
雨音だけが響く校舎の裏で、二人の歪で甘い関係が、静かに始まろうとしていた。