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第四話 :見えない感情
「ねぇ翔太、ちょっと手伝ってくれない?」
放課後、教室の隅で段ボールを抱えた橋本花恋が声をかけてきた。
「ん? ああ、いいよ」
軽く返事をした翔太の目の端に、一瞬、芽の姿が映った気がした。
けれど彼女は、すでに教室を出ていった後だった。
「昔からこういうの、翔太得意だよね。雑だけど力あるから」
花恋は笑って、体育館裏へと向かう。
翔太は、少しだけその言葉に引っかかりながらも、何も言い返せなかった。
***
「最近、田中くん、橋本さんとよく話してるよね」
茶道部の帰り道、芽の友人がぽつりとつぶやいた。
芽は答えなかった。けれど、心の中ではその言葉がぐるぐると渦を巻いていた。
(関係ない、って思いたいのに……)
翔太はきっと、悪気なんてない。
でも——芽にとっては、十分すぎるほど“気になる”ことだった。
***
「おい翔太、最近ぼーっとしてんぞ?」
グラウンドでキャッチボール中、矢口がボールを胸にぶつけてきた。
「うわっ、いてっ!なにすんだよ!」
「お前さぁ、佐藤のことどう思ってんの?」
不意打ちのような言葉に、翔太は一瞬言葉を失った。
「……別に。なんとなく気になるっていうか……放っておけないっていうか」
「だったらもっとちゃんとしろよ。あの子、見てるから。お前のこと」
矢口の言葉は、いつになく真っ直ぐだった。
***
次の日の放課後。
翔太は図書室のドアを開けた。
芽がいた。けれど、翔太の方を見ようとはしなかった。
「昨日、花恋に手伝い頼まれてさ。遅れたのはそれだけなんだ」
「……別に聞いてないけど」
「いや、でも……言っときたかった」
芽はページをめくる手を止めず、ただひと言だけ呟いた。
「……気になるのは、あの人?」
翔太は答えられなかった。
だって自分でも、何に気づいて、何を見逃してるのか、わからなかったから。