テラーノベル
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パンフレットの会社へ電話をする。
2日後、履歴書を持って面接に行く。
「翔太、お昼まで胡桃ちゃんちで遊んでてね」
「おかあちゃん、どこいくの?」
「おかあちゃんね、お勉強してくるから」
「ぼくもおべんきょうする!」
少しの駄々をこねる。
今までべったりそばにいたから、無理もないか。
「ほら、しょうちゃん、胡桃と同じノートとクレヨンだよ。これで一緒にお勉強しようね」
「しょうちゃん、おえかきしよ、くるみと」
「じゃ、千夏さん、お願いしますね」
「うん、頑張ってね」
「面接も受かるかわからないけどね」
車でその会社まで向かった。
採用されたら、翔太を預かってもらえるとこを探すか、別の理由をつけて健二に預けるかしないといけない。
お母さんには面接を受けることは話したけど。
『頑張れよ!自立の一歩目だ!』
それだけだった。
面接には、私のほかに3人。
全員合格した。
簡単なのかと思ったら、研修でついていけなくて辞めてしまう子がいるらしい。
時給もいいし、簡単そうな仕事に見えるからだろうか。
私は、そんなに簡単には諦めない。
翔太との生活がかかってくるのだから。
面接が終わってそのまま、1日目の研修に入った。
お辞儀の仕方、道案内をする時の歩く位置速さ、ノックは3回、上座下座、言葉遣い。
なるほど、なかなか難しい。
けれど、新しいことをおぼえるのはこんなに楽しかったっけ?
学生時代の勉強はあんなに嫌いだったのに。
2時間ほどの研修を終えて、千夏の家へ翔太を迎えに行く。
玄関を開けて千夏たちにむかって、ふざけて敬礼をする。
「ありがとうございました。私、関戸綾菜は、見事面接に受かり研修を始めました」
「やったね!これからも手伝えるときはやるから、言ってね」
「ありがと。できるだけお世話にならないようにするつもりだけど、どうしてものときは、お願いするね」
「うちも胡桃が退屈しなくてすむから、助かるのよ」
「今は難しいけど、そのうちちゃんとお礼するから…」
「わかった、期待してるわ」
それから3日間の研修を受けた。
夜、健二に誘われたけど、私は疲れて寝てしまって起きなかった。
そうやってまた、健二との距離を作ってしまったのは私なんだけど。
最初の仕事は土曜日の午後からで、ある企業の創立記念パーティーだった。
健二には、前もって実家に翔太を連れて遊びに行くと言ってあった。
「ごめんね、せっかくの土曜日に。まえからお母さんと約束してて…」
「いいよ、俺も最近忙しくて疲れたから寝てるわ」
「そうだね、また残業増えたもんね」
イヤミを込めて言う。
「ちゃんと、手当のつく残業だからね」
「はいはい、お疲れ様です。じゃ、翔太行こうか」
「ばぁばとあそぶ、タロウにごはんあげる」
翔太を実家に預けた。
今日はじぃじもいるようだ。
何故だかわからないけど、お母さんとあの人が離婚してから、実家が居心地良くなった気がする。
「じゃ、お願いね」
「初出勤、頑張ってね!いい男がいたら、捕まえてこい!そして健二君と入れ替えだ!」
「もう、お母さんったら」
お母さんのおかげで、初出勤の緊張が解けた。
早めに集合場所に出かけて準備をして、イベント会場へ向かう。
「関戸さんは初めてでしたね」
「はい、今日からお世話になります」
「とにかく、失礼のないように、これが基本です。わからないことも多いと思いますので、私のそばにいて真似てくださいね」
チーフと呼ばれるその人の腕には、キラリと輝く腕時計が光った。
チーフ以外は腕時計をしてはいけない決まりだ。
お客様に早く終わって欲しいのか?と思われると失礼になるからだ。
さぁ、これから2時間、頑張るぞと気合を入れた。
名刺交換のお手伝いや、ドリンクの配膳、席次表の案内…慣れないなりにも一生懸命にやっていたら、あっという間に2時間が過ぎていた。
感想はひとこと、楽しい!
「お疲れ様でした。どうでしたか?」
「まだまだ勉強が足りないところがたくさんありましたが、とにかく楽しいです。またお願いします」
「その調子で頑張ってくださいね。今日のイベントはごく普通のものですが、いろんな種類のものがありますので」
「はい、勉強して頑張ります」
うれしい、楽しい、これでお給料がもらえるなんて。
もっとこの仕事をちゃんとやりたいと思った。
ちょうどその頃、控室に置いた私のスマホに、千夏《さんからの写真付きのメッセージが届いていることは知らなかった。
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