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着替えて帰る準備をする。
そうだ、その前に何もなかったか確認しとかないと。
翔太のことが気になった。
あれ?
LINEに写真が届いていた。
『これ、もしかして?と思って…』
千夏からの写真とコメント。
写真を拡大して見る。
赤い軽自動車の助手席に乗り込む…この男は間違いない健二だ。
さっき着ていたポロシャツだ。
運転席には…女。
でも、マリじゃない、髪型どころか顔も明らかに違う。
〈千夏さん、これ、多分間違いないと思う。どこで?〉
ぴこん🎶
《隣町の薬局の前なんだけど。たまたま家族でご飯を食べに行った帰りに買い物に寄ったの。日用品を買おうと思って。そしたらそこにいた》
〈アイツ、家で寝てるとか言ってたのに!〉
《ご主人は私の顔を知らないから、お店の中でちょっとつけまわしてしまったよ。会話も聞いてやろうと思ってね》
〈千夏さん、そんなことまで?〉
《どうせなら完璧な証拠を!と思うじゃない?それに、綾菜ちゃんが部屋に乗り込んでからまだそんなに時間経ってないし》
〈そうだね、やっぱりアイツの女好きは病気だ〉
あれから3ヶ月も経ってないのに。
《まえの女?》
〈違う、マリじゃない、別の女〉
《そうか。あとさぁ…その二人が買ってたもの、見たの》
〈何買ってた?〉
しばらく間があった。
ぴこん🎶
《トイレットペーパーと、シャンプーとジュース、それから…妊娠検査薬》
〈えっ!本当に?〉
《間違いないよ、妊娠検査薬が並んでる棚で2人でずっと話していたし、レジで見て確認した。ね、本当にご主人なの?》
妊娠検査薬?
マリの後にすぐ?
いくらなんでも早すぎるような?
でも健二のことだからあり得るかもしれない。
〈ありがとう。とりあえず帰ってみる。これって何時ごろの写真かな?〉
《1時半くらいだよ》
スマホで時間を確かめた。
もう4時半になるから、さすがに家に帰っているだろうけど。
まずは翔太を迎えに行く。
落ち着け、私。
まだなにも決まったわけじゃないんだからと自分に言い聞かせながら車を走らせる。
それでも、頭の中にグルグル回り出す、もしも。
もし、もしもまた浮気してて、その相手が妊娠してたとしたら?
それを健二が認めたとしたら?
これはもう即離婚案件だ。
気持ちだけは固まった、準備は何もできてないけど。
「ただいま!翔太、いい子にしてた?」
「しーっ、今寝ちゃった」
ソファでスヤスヤ寝息を立てている翔太を見て安心した。
この子がいれば、それでいいとも思えた。
「ね、どうだった?お仕事は。いい男いなかった?玉の輿になりそうなやつとかさ」
「もう、お母さんったらそればっかり。でもね、仕事はめちゃくちゃ楽しかったから、またやりたい!もっと勉強したいし」
「そう!それはよかったね。翔太が生まれてからずっと家庭にいたもんね、綾菜は。いい刺激になったんじゃない?」
「うん…でも…」
ふう、と思いがけずため息が出た。
「何かあったの?」
どうしようか、健二のことをお母さんに話すべきか。
でもまだなにもハッキリはしていない。
また心配かけるのもなぁと、話すことを思いとどまる。
「おかえり!晩ご飯どうだ?今夜は炊き込みご飯作ってみた」
キッチンから(元)お義父さんが声をかけてきた。
「へぇ!そんなものも作れるようになったの?」
「今はなんでも便利だからねぇ…」
と炊き込みご飯の素の袋を見せてくれた。
「でもちゃんと、具材を足してあるんだよ、鶏肉とか牛蒡とか」
「この人ね、牛蒡のささがきだけは上手いのよ、鉛筆削りみたいだからって」
「時代が古いって!」
あははと笑い合う。
「さてと、あとは豚汁なんだ、ちょっと待っててね、もうすぐだから」
またキッチンへ向かうお義父さん。
「ね、綾菜、大事な時ほど感情に任せて行動しないようにね。深呼吸して落ち着いて」
「ん?うん…」
「でもね、いつも感情を抑えてたら苦しくなるから、その時はここで吐き出していけばいいからね、ここはあなたの実家なんだから。離婚した親が住んでるけどね」
「ぷっ!なんかおかしいよ、それ」
「なにがよ、事実でしょ?」
「そうなんだけど…」
「私、小平未希という人の娘でよかった」
「今は河西だけどね」
「ご飯できたよ、さぁ、食べようか?」
「あ、ちょっと待って、健二君は?呼ぶ?」
「お母さんが電話をかけてみて。私の仕事のことはまだ内緒にしといてね」
「わかった、かけてみるね」
電話にはすぐに出たようで。
「今からこっち来るって。ちょっと待ってようか?」
それから20分ほどで健二はやってきた。
薬局のレジ袋にジュースを入れて持ってきた。
「こんばんは、これ!お土産」
そう言って健二がお母さんに差し出したのは、あの写真の薬局で買ったらしいオレンジ100%ジュースだった。
「あら、ありがとう。これ、美味しいやつだわ。わざわざ買ってきてくれたの?」
「ちょっと買い物に行ったんでそのついでです」
妊娠検査薬を?とは言わず。
「それ隣町の薬局でしょ?わざわざ何買いに行ったの?」
健二の返事を待つ。
あの写真の説明をどんな理由でごまかすのか。
「後輩に、相談があるってよびだされてさ。そのついでに薬局に寄ったから。髭剃りの替え刃がなかったんだよ」
「後輩って?」
「あー、話したことなかったっけ?最近、営業まわりはそいつと行ってるんだけど。なんか彼女のことで相談があるって言われて…」
男の後輩だと言っているようだけど、あれは女だ。
「冷蔵庫で冷やしとくから、あとで飲もう!さ、ご飯食べよ。今日は進君が作った炊き込みご飯と豚汁だよ」
お母さんにせかされて、椅子に座った。
「お!なかなか美味しいよ、この豚汁!」
「だよね?里芋がよかったのかなぁ?冷凍のほうが安くて簡単だって、今日知ったよ」
お母さんたちは、賑やかにご飯を食べているけど、私は無言になってしまう。
頭の中では考えている、どうやって確認しようか…。
確認したところで、どうすればいいのか。
「健二も大変だね、疲れてるから寝るって言ってたのに、わざわざ隣町まで呼び出されるなんてさ」
「あ、ん、うん、まいったよ」
「どんな相談だったの?」
「えっと、あの…付き合ってる彼女にプロポーズしたいんだけど、どうしたらいいか、みたいな?」
「は?なに、それ。そんなことでわざわざ?」
「あー、だよね?俺に相談されてもって思ったけどさ」
あくまでも嘘をつくのだろうか?
嘘をつきとおせると思ってるのだろうか?健二のくせに!と心の中で悪態をつく。
でも、もう少しだけ、待とう。
健二が何かするまで。
せっかく楽しい仕事も見つけたことだし、まだ健二が妊娠させたと決まったことでもない、というか、もしもそんな大変なことになっていたら、健二はもっと取り乱しているはず。
予想より落ち着いて見えるから、妊娠は間違いかもしれない。
とりあえず、あの写真は保存しておこう。
家に帰ってから千夏さんに、確認してみた。
〈薬局での二人の会話って聞こえた?〉
ぴこん🎶
《たしかね…もしそうだったらどうするの?ってご主人が聞いて、…確認したいだけだからって女が言ってた。これだけだとさ、ご主人の浮気の証拠には弱いよね?相手は誰かということが抜けてるから》
〈そうだね。なんとかして確認できないか、考えてみる。ありがとう、おやすみなさい〉
何かいい方法はないかな。