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照りつける日とセミの鳴き声が今日も鬱陶しい。今年の夏は特に暑く感じる、というのは毎年のことで、感じるだけじゃなくて実際そうなんだろう。僕はこのただ暑くだれてしまうような季節が嫌いだ。いや、嫌いだった。この人と巡り会えたあの時までは。あの時、少しだけ僕は、僕らは「この世界」の定義を歪めてしまったのかもしれない。これは、そんな少しだけ不思議な忘れられた夏のお話。
「え?夏季休暇くらい帰省しろ?」
「あぁ、お前も部活とか大学受験とかでしばらく婆ちゃん家行けてないだろ?こっちも行くからさ」
「あー分かったよ。行く行くー……うん、はいはいじゃあね」
めでたく第1志望の大学に受かった僕は都内のアパートで一人暮らしを始めた、のだが、隣に有名人とか綺麗なお姉さんが住んでいたりなどという漫画でありがちな展開はあるはずもなく、家事を自分でやらなきゃいけないというめんどくさい特典がついてくるだけだった。
「とりあえず支度するか……」
婆ちゃん家は電車とバスを乗り継いで6時間くらいのところにある。遠いし、はっきり言ってめんどくさいけど家族との関係が悪くなるのはもっとめんどくさいから行くしかない。
「えーと……必要なのは着替えとかとあとあれと……」
──数日後
方向音痴の僕にとって6時間という時間の見積もり方はあまりにも甘かった。行き先とは反対の電車に乗り、降りるところで降り損ね、間違ったバスに乗ったことに終点まで気づかずに結局ここまで来るのに9時間半もかかってしまった。しかもここから山道を歩かなきゃいけないという始末だ。 こんなことがあって気が沈んでいるせいか、いつもなら鬱陶しいと感じるだけのセミの声が僕のことを嘲笑っているかのように聞こえてくる。山々の隙間から顔を覗かせている西日も僕を注目の的にするかのように強く照らしていた。それでも木々を通り抜ける風だけはこの地に来たことを歓迎しているかのようだった。しかしそんなことを考えていたのもつかの間。いきなりの強風に帽子を飛ばされた。前言撤回だ。どうやら風にさえ歓迎されていないらしい。
(???)
飛ばされた帽子の方に目をやると、そこには古びた鳥居が立っていた。
「こんな所に神社なんてあったか?」
疑問を抱きながらも僕は引き込まれるようにその鳥居をくぐり黄昏時の神社の中へと入っていった。