ほぼ1年ぶりに来た学校は何も変わっていなかった。
「ねえ、〝昇降口の首折りさん〟って知ってる?」
「あれでしょ、首折りさんの名前を答えられなかったら首を折られちゃうっていう…」
相変わらず学校では本当か嘘か分からない、無責任で悪戯心に満ちた噂話が出回っている。
三葉くんが死んでも時の流れは止まらずに進むし、何かが大きく変わる訳でもない。
その証拠に学校では今日も笑い声が飛び交っている。幸せそうで楽しそうに友達と言葉を交わし合うクラスメイトから目を背け、一人読書に没頭する。
1年近く休んでいたわたしのことを気に掛けるクラスメイトなんて居らず、友達も三葉くんしか居なかったせいで休み時間に喋れるような人もいない。そんな泣く気も起きないほどの寂しさに浸かりながら本を読むわたしは第三者から見れば特に誰の目にも止まらないつまらない存在に映っているのだろう。
『…はぁ』
わたしのクラスにも、隣のクラスにも、そのまた隣のクラスにも、当然三葉くんは居ない。
どれだけ泣いても暴れても狂っても叫んでも。荒れた寂しさが鋭く爪を立てて胸を引っかいてくるこの痛みはどうすることもできない。三葉くんにしか治せない傷が体に広がって、痛みが体の奥深くに沁み込んで来る。
だけどそれを癒してくれる彼はもう居ない。
ケラケラと晴れやかな笑声が転がる中等部の教室にそう実感した瞬間、激しい寂しさが胸の内に溢れる。その瞬間、堪えていたはずの涙がぽとりと頬を伝った感触に驚き、慌てて教室を抜け出して人気の少ない昇降口へと駆け降り、膝を抱えてしゃがみ込む。
『……なんで死んじゃったの。』
授業始まりを告げるチャイムが鳴り響く中等部の昇降口で、わたしは溢れ出る嗚咽を嚙み殺しながら誰も答えてくれない問いをポツリと零す。
ジャガイモが入っていないカレーを食べても、別に人間死ぬわけじゃないのに。
あんな夜遅くに買いに行かなくてもよかったのに。
─…ずっとわたしの傍に居てほしかったのに。
三葉くんの死が、1年たった今でも大きなしこりとなってわたしの心に引っかかっている。
涙ぐんだ先生の声も。すぐ隣で揺れていた百合の花も、あの日の動揺も、全部。
もうこのまま早退してしまおうか。という思考が脳裏を過ったその瞬間、不意に誰かの冷たい手が自身の肩に触れた。
先生だろうかと涙を拭いながらゆっくりと振り向いたその瞬間、ヒュッと息が止まった。
「…ねぇ、僕のこと忘れちゃった?」
死んだはずの彼、三惣助葉がわたしのすぐ後ろに居た。
コメント
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再会おめでとう!でも記憶ないんだよね🥺