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とある日。
「……あいつら、やりやがったな」
朝の静かな診察室で、勇斗が白衣のポケットを探りながらニヤリと苦笑いを浮かべた。
デスクの上をサッと見渡した勇斗の様子に、隣でパソコンに向かっていた仁人がチラリと視線を向ける。
「なに? 朝から一人でヤバい顔して」
「ヤバい顔って…。俺の聴診器。小児科のときから使ってる愛用のやつがなくなっててさ」
「はぁ? 聴診器? どっかに置き忘れたんじゃないの」
「違う。さっき朝一番で小児科病棟の様子見に行ったんだよ。そしたら、俺が小児科医のときから入院中の陸と葵が『はやと先生、いかないで〜!』ってすがりついてきてさ。あの様子からして、俺が目を離した隙に聴診器持ってったな」
自信満々に犯人を特定する勇斗に、処置カートを準備していた太智が「え〜! マジで!?」と目を丸くした。
「聴診器隠して勇斗を引き止めようとしたってこと!?」
「そうそう。聴診器がなきゃ俺が外来に行けないと思ったんだろ。わかりやすいやつらだよ、ほんと」
勇斗が愛おしそうに頭を掻く横で、柔太朗がクスッと微笑む。
「さすが元・小児科医!子どもたちの考えることは全部お見通しだね」
「まあね! というわけで、ちょっと相棒回収してくるわ!」
資料を抱えた舜太が「勇ちゃん、気をつけてなー!」と見送る中、勇斗は颯爽とプレイルームへ向かっていった。
プレイルームの隅っこでは、案の定、陸と葵が宝箱のおもちゃ箱の中に黒い聴診器を大事そうに隠して、ちょこんと座っていた。
「陸、葵ちゃん!」
勇斗が声をかけると、二人はビクッと肩を跳ねさせ、聴診器を背中に隠した。
「勇斗先生……ばれた……?」
「ばれるよ! 俺を誰だと思ってんの。俺が行くのそんなに寂しかった?」
勇斗は二人の目線に合わせてひざまずくと、ポンと優しく頭を撫でた。
「でもさ、俺がどこに行っても、陸たちの先生であることは変わらないからさ。小児科で困ったことがあったら、いつでも飛んでくるよ」
「ほんとう……?」
「おう! だからこの相棒、返してくれる?」
勇斗が手を差し出すと、子どもたちは「うん……!」と頷いて、大切な聴診器を勇斗の手の上にそっと戻した。
診察室に戻ってきた勇斗の胸元には、無事にあの聴診器が戻っていた。
「お、無事に回収完了?」
パソコンから目を離さずに声をかけてきた仁人に、勇斗は胸を張る。
「おう! ちゃんと話して解決してきた!」
「へいへい。さすが元・小児科医。扱いは手慣れてるね。……で、本業の外来もちゃんとその調子で頼むよ」
「言われなくても分かってま〜す!」
嬉しそうに聴診器を首に掛け直す勇斗を見て、太智が「よかったや〜ん!」とお盆をスキップで運び、柔太朗が肩を掴んでとめる。
「太ちゃん、危ない」
「ごめーん!」
何しろ、今日の太智は夜勤明けなのでハイテンションなのである。
勇斗はそれを横目で見つつ、白衣の袖をぐっと捲り上げる。
「よし! 相棒も戻ったし、今日の外来も気合い入れていくぞー!」
カーテンが少し揺れて、穏やかな風が吹いた。
空は青く澄み渡っていた。
コメント
1件
うわ、めっちゃほっこりした……! 勇斗先生、子どもたちに聴診器隠されて「あいつらやりやがったな」って気づくのとか、もう小児科医の鏡すぎるわ。陸くんと葵ちゃんが「ばれた?」って顔してるとこ想像しただけで愛おしいし、ちゃんと目線合わせて「いつでも飛んでくるよ」って言うのがダダ泣きポイントやった。太智くんの夜勤明けハイテンションも含めて、医局の空気感が生きててめっちゃ好き。次も読みたい🔥