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この世界には多くの人種が存在する。人族が予想している数が多い順に説明しよう。
魔物…圧倒的な数。身体のどこかに魔石がある。魔力溜まりと言われるところから発生する場合と、交配により産まれる場合がある。能力はピンキリ。
人族…世界中に存在する。能力は得手不得手がないが平均的に低く、この世界では弱者に分類される。
(レビン達の故郷の村では7割程が人族であり、残りの3割が獣人族である。その7割の中にヴァンパイアも含まれるがレビン達以外は知らない)
獣人族…世界中に存在する。暖かいところと寒いところで獣人族の中の種族にばらつきがある。(寒いところでは狼系獣人、暖かいところでは猿系獣人のように)(ナキ村は寒い地域である為、狼系の獣人族が多い)
魔族…世界の何処かにいる。ベースは人族だが、魔力が高く、世界的に見て強者に分類される。過去に弱者のはずの人族に魔石がある事から魔物として棲家を追われた。
(人族にも小さいながら魔石はあるのだが……)
ドワーフ…山から降りてこない変人。鍛冶を得意とし、それを人族との貿易品として生計を立てている。見た目はずんぐりむっくりで力は人族を圧倒する。中には人族の街で鍛治職人として生計を立てているものもいる。寿命は人族の2~3倍。
エルフ…森から出てこない引き篭もり。精霊術、精霊魔法を使い、世界的に見て強者に分類される。寿命は人族の10倍程。昔は国規模で人族と交流があったが、ここ数千年はないが個人的な交流はある。(はぐれエルフ)
吸血人種…人族、獣人族から迫害されている。見つけたところから駆除されているので数は少ない。現在は吸血鬼と呼ばれている。確認された吸血鬼は全員黒髪。見た目は男女共に美しく、人族からみたら不老だ。そしてこの世界で見ると人族と変わらない弱者だ。
【冒険録から抜粋】()内補足。
村を出た二人が目指したのは、一番近くの街だ。
「レビン。今日はどこまで歩くの?」
「街まで!って言いたい所だけど、もう少し歩いたら夜営の準備だよ」
故郷の村から一番近い街まで歩いて3日ほどかかる。レビンは2日で山を降りる予定だ。
「そう。何だか山を降りたり登ったりしているから迷っているのかと心配したのよ」
「ははっ。それはないよ。この辺りはまだ父さんと狩りに来ることもあるからね!普通の山道を使っても良かったんだけど、普通の道は賊が出るかもしれないからね」
レビンは嘘をついた。ミルキィが初めて他所の人と会った時にどんな反応をするのかわからなかったし、吸血衝動がどの程度の頻度で起こるのかもわからなかった為だ。
「相変わらず嘘が下手ね。でも良いわ。私の為についてくれたんだもの」
「うっ…ごめん」
小さな村が一つあるだけの山道や街道に態々賊が来る理由は少ない。もちろん絶対などないが、可能性はかなり低い。
その為、すぐに嘘がバレたようだ。
「ところで体調はどう?何か異変はない?」
「はぁ。心配性ね。今日だけで10回目よ。何かあったらすぐに言うから。わかった?」
「まだ9回目だよ。でもわかった。ちゃんと言ってね!」
大雑把なミルキィに細かいレビンの二人は今日の野営地に着いた。
「でも良かったの?こんなに良いテントを譲って貰っても…それに野営道具も」
二人の前には革でできた立派なテントが建っている。
「父さんが準備してくれていたんだ。レベルが上がって冒険者になりたいって伝えてから、色々準備してくれていたんだ。過保護だけど最後だから甘えちゃったよ」
「それでテントが一人用なのね。レビンが私に触りたくてワザと一人用のテントを買ったのかと思ったわ」
「そ、そんなわけないでしょっ!」
レビンは慌てて否定したが、ミルキィは気に入らなかったようで頬を膨らませている。
「そんなに全力で否定しなくってもいいじゃない…」
「何か言った?」
「何でもないわよ!」
「?」
レビンは火おこしの為に手を動かしていた。そのせいもあり、ミルキィの声は聞こえなかったようだ。
「美味しいっ!」
ミルキィが家から持ってきた食材で作った料理を食べたレビンの声が森に木霊した。
「まさかミルキィがこんなに料理上手だったなんて知らなかったよ!」
「失礼ねっ!でも喜んでくれたみたいでよかったわ」
ミルキィはいつかレビンに料理を振る舞う時のために、レビンに隠れて母から習っていたようだ。
まさかそれがこんな形で役に立つとは思ってもいなかったが。
「ご馳走様!美味しかったよ!夜番だけど、ミルキィは最初と最後のどっちがいい?」
いくらこの辺りの山に魔物が少ないとはいえ、ゼロではない。それに魔物以外にも危険はある為、夜番の見張りをしない事はあり得ない。
「私は歩き疲れて眠いから後にしようかしら。いい?」
「もちろん。じゃあ交代の時間に起こすね。片付けは僕がするからもう休んでいいよ」
「…身体を拭くから覗くんじゃないわよ?」
「覗かないよ…それに少し前まで一緒に水浴びしてたよね?今更恥ずかしくないよ」
「それはレビンだけよっ!それに少し前って、5年も前じゃない!5年もあれば女の子には色々あるんだから!いい?!覗かないでよねっ!」
ミルキィのあまりの剣幕に、レビンは頷くことしか出来なかった。
「朝食が出来たわ」
朝靄に白くかすめる視界に頭を振り、レビンは覚醒した。
「おはよう。良い匂いだね!」
「頑張ったんだから感謝してよねっ!」
「ずっと感謝してるよ。ありがとね。着いてきてくれて」
料理の事ではなく、人生での大きな決断を感謝され、ミルキィは顔が赤くなる。
(これだとまるで…私がプロポーズに応えたみたいじゃない!レビンのクセに生意気よ!)
(僕を心配して、危険を冒してまで着いてきてくれたんだ。幼馴染だとしても感謝するに決まってるよ)
二人の思いは交錯するが想いは……
「美味しいね!こんなに上手なら村でも作ってくれたら良かったのに」
「な、な、なんで私がレビンのご飯を毎日作らなきゃいけないのよっ!?!そ、それだとまるで…」
「毎日?そりゃ毎日こんなに美味しいご飯が食べられるなら嬉しいけど。一度くらいって意味だよ」
「わ、わかってるわよ!」
「あれ?顔が赤くない?大丈夫?まさか吸血…」
バシッ
「いったぁ!?何するんだよっ!」
「私は悪くないわ。お母様に聞いてみなさいよ」
「なんでここで母さんが出てくるんだよ…」
訳もわからず頭を叩かれたレビンは、世の不条理を嘆いた。
側から見ればイチャイチャしているところにお客さんが来た。
ガサッ
「ミルキィ。じっとしてて」
レビンは人差し指を口に当てて静かにする様に指示すると立て掛けておいた弓を構えた。
ミルキィは何があったかは理解出来なかったが、信頼するレビンが言うのであれば、一二もなく従うことに躊躇はない。
弓を構えたレビンの視界の先には、コボルトという二足歩行の犬型の魔物がいる。獣人族の犬系とは違い、話す事は出来ず何より見た目が違う。コボルトは二足歩行する犬だが、犬系獣人族は人族に犬の特徴が出た見た目だ。
(父さんとの狩りで倒した魔物だ…鼻がいいから朝食の匂いに釣られたのかな?)
一度倒したことがある魔物だったお陰で、レビンに下手な緊張はない。
冷静に相手の行動を予想すると、タイミングを見計らい弓を引き絞り矢を放った。
ヒュッン
『キャンッ』
ドサッ
「やっ!?」
弓を放ったレビンを見て、断末魔のようなものも聞こえた為、倒したと思ったミルキィは声を出そうとしたが、その口は隣にいたレビンに塞がれた。
そして耳元で囁く様に伝えられる。
「まだ死んでいないかもしれないし、仲間がいるかもしれない。それを確認するまでは静かに。いい?」
口を塞がれ半ば抱きしめられるような格好で囁かれ、ミルキィは顔を赤くしながらも頷いた。
それを確認したレビンは手を離し、辺りを観察した。
(矢を放つ前も放った後も何も変わりはないな。風もないから臭いも広がらない。よし。今のうちに処理してしまおう)
レビンは頭の中で次の行動を確認して、そして動き出した。
足元のコボルトは虫の息だ。持っている解体用のナイフでトドメを刺した。
「えっ!?レベルがあがった?」
以前コボルトを倒した時に感じた全能感。それをまた感じたのだ。
「どうしたの!?」
声を出すなと言っていたレビンが大声を上げた為、何か不測の事態が起こったのだと気付いたミルキィは我が身を省みずレビンの元へと向かった。
「ミルキィ。大丈夫だよ。後で話すからとりあえずコイツを片付けよう」
「わかったわ。何を手伝えばいいの?」
レビンは指示を出して解体を始めた。
「それは本当なの?」
テントも片付けて、出発の準備が出来たところでレビンはあの時の事をミルキィに話した。
「うん。普通は一度レベルが上がると、同じ魔物ならより多く倒さないとレベルは上がらないんだ。今回倒したのはコボルト。初めて倒した魔物と同じなんだ」
「そう…じゃあ今回倒したコボルトが前のコボルトより強かったんじゃないの?」
魔物にもレベルは存在する。ミルキィの言っている事は的外れではなかったが。
「父さんに聞いたんだけど、同じ場所の同じ魔物ならそこまで違いはないんだって。だからそれは違うと思う…答えはわからないけど…」
「でもいい事じゃない?どんな理由でもレビンのレベルが上がったという事は、私たちが安全になっていってるって事でしょ?」
「…そうだね。考えてもわからない事は仕方ないよね。よし!街に向かおうか」
レビンはこういう細かいところが気になるが、ミルキィの言っている事も最もなため、ここでの思考は終わりとした。
二人の旅は続く。
格好
レビン:麻の服の上に革の鎧(父の手製)に下は茶色のチノパンのような物に革のブーツ。
ミルキィ緑色のワンピースの上に革の鎧(母からのお下がり)に革のブーツ。
レベル
レビン:0→1
ミルキィ:1→1