そこへ、スーツ姿の男性がやって来た。
「すみません、遅れました」
「いい、いい。急に悪いね。こちら入居者の佐藤良子さん。うちの新しい事務員。佐藤さん、不動産社長秘書の水口さんだ」
「佐藤さん、お待たせして申し訳ありません。部屋の確認は私がしてきました。すでに北川先生からお名前等を伺っていたので、本日から電気水道も使用可能です。口座引き落とし等は、ご自分で手続きお願いします。今月分は振り込み用紙が入ります」
「え…そこまで……ありがとうございます。北川先生、ありがとうございます」
私が署名するだけになっていた書類にサインをして鍵を受け取る。
「部屋へご案内します」
「社長秘書自らか?はははっ……」
「今日暇なのが私だけ…というか社長が休暇中です」
「ああ、言ってたな。佐藤さん、水口について行ける?」
「私も行くよ」
三岡先生も責任持って見届けると言い、二人で水口さんについて行ったマンションは、事務所から徒歩10分、築3年の1DKの部屋だった。
「差し出がましいようですが…家具等をすぐに入れましょうか?」
「どういうことですか?そんなことが可能ですか?」
水口さんの申し出に、三岡先生が聞いて下さる。
「ここには付いていませんが、近くの家具付き賃貸の部屋からベッド、テレビ台、テーブル、冷蔵庫、洗濯機 電子レンジを搬入可能です。テレビ台は大きさが合わないか……北川先生のご紹介なのでこだわりがなければ家具付きにしますが」
「どう、佐藤さん?」
「こだわりは特にないので家具があるのはありがたいですが、契約のお家賃が変わりますか?」
紹介だからいいと言う水口さんは、その場で搬入の手配をする。
「16時に荷物が来ます。私も、もう一度来ます」
「私は事務所に戻らないと…彼なら大丈夫かな?」
「はい、先生。水口さん、ありがとうございました。よろしくお願いします」
もう一度、私は三岡先生と北川法律事務所へ戻る。
そして3人で、いや……ほとんど先生2人が今後のことを決めて下さった。
私と三岡先生の面会は2週間に1度。
電話連絡は週に1度。
両親等からの連絡などは、もちろんその都度先生から連絡が入る。
万が一こちらで何かがあった場合に備えて、北川先生にも情報を共有すること。
雇用契約書には今までより高い金額がお給料として書かれており驚いたが、新入事務員の給料と同じだそうだ。
「こっちは物価が高いんだよ。さて、今日は帰らないと」
と、立ち上がった三岡先生は
「私が車で明日荷物を運ぶよ。預かった鍵で今夜暗い時間に玄関の荷物を取ってくる」
私の家から荷物を運んでくれるという。
「三岡先生、お世話になります」
「じゃあ明日荷物が来て、布団とか必要なもの揃えて……来週仕事開始にしようか?」
「明後日水曜日からでも大丈夫です」
私の返事に顔を見合せた二人の先生は
「仕事する方がいいか…」
「よし、水曜日からよろしく!」
また北川先生の丸い手を差し出されブンブン……握手した。
夕方家具を入れてもらったけど、布団はないので今夜は近くのビジネスホテルに泊まる。
三岡先生はお客様との約束に間に合ったよね?
真新しいスマホで時間を確認すると5時35分…佳ちゃん颯ちゃん、ごめんなさい。
きっとお迎えに来てくれている。
本当にごめんなさい……また涙が溢れてきて、慌てて熱いシャワーを浴びた。
コメント
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北川先生の丸い手にホッコリしちゃう🤭 大丈夫、佳ちゃんも颯ちゃんもわかってくれてる。そして信じてくれてるよ…いつか連絡がきてまた会える日がくることを🥺