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華子が作っておいてくれた夕食を食べ、風呂を済ませた萌音は、パジャマに着替えてから自室に戻る。
普段ならリラックス出来る時間だが、今日はいつもに比べてどこか落ち着かない。
別に明日会う約束をしているわけじゃない。私は在宅で仕事をするから、偶然バッタリ会うなんてことはきっとないはず。だけど上野夫妻のドレスの件で話すことがあるかもしれないし……。
ベッドに座って膝を抱え込むと、そっと目を伏せる。
私は翔さんとどうなりたいんだろう……好きという気持ちは自覚した。でも八ヶ月しかないのに恋をするの? それは婚約者への裏切り行為にならない?
もやもやする頭を抱えながら、気分転換をしようと窓辺に近付く。窓を開けると、秋の夜らしいひんやりとした空気が流れ込んでくる。両腕を|摩《さす》りながら、萌音は星空に目を向けた。
あの頃見ていた空と変わらない星の瞬きに、うっとりと見惚れていた時だった。
「何してるの?」
突然声が聞こえ、萌音は反射的にあのレンガの塀の方へと視線を向ける。まさか……そんなわけないよね……そう思いながらも、目を凝らしてしまう自分がいた。
だってこの声……でもこのシチュエーション……。それは一つの答えを導いていた。
「あーあ、《《今回》》はバレちゃったみたいだね」
塀の上から垂れ下がる長い足。そして横の木は昔よりも背が伸びたはずなのに、その人物も同様に背が高くなったのか、やはり葉の影に顔が隠れている。
見えないけれど、萌音ははっきりと確信していた。
「もしかして……翔さん……ですか?」
高鳴る鼓動が、耳の奥にまで響いてくる。その人物は顔にかかる葉を退けると、ひょっこりと優しい笑顔を萌音に向けた。
「正解」
「どうして……」
「ん? 今日は月がきれいだから、一緒にワインでもどうかと思いまして」
翔は塀に座ったまま、萌音に見えるように片手でワインのボトルを持つ。彼の姿を見た萌音は、先ほどまで悩んでいたのが嘘のように胸が熱くなっていく。
「それとももう遅いしワインだけ置いて帰った方がいいですか?」
「そ、そんな! あの……でも……私パジャマだし、もうメイクも落としちゃったし……」
「《《あの頃》》も毎夜パジャマでしたけどね。それに今は夜ですし、月明かりしかありませんよ。まぁそうでなくても萌音さんはそのままで十分可愛いですけどね」
その言葉に萌音はドキッとする。翔さんってやっぱり……。
「あっ……じゃあ今玄関のドアを開けますね」
「……良かったら外で飲みませんか?」
確かに部屋で二人きりになるよりは、外の方が緊張しないかもしれない。
「……じゃあグラスを持ってくるので待っててください」
「外は少し冷えるので暖かくして来てくださいね」
萌音は頷くと、窓を閉めてからカーディガンを羽織る。それから慌てて一階に降りてキッチンに向かうと、食器棚からグラスを二つ取り出してトレーに載せた。
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