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井川奎
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十二月上旬。広がる淡い青空に薄い雲。 あれから三週間が過ぎ、期末テストが終わった教室内は解放感に包まれていた。
推し活や、SNS映えのためにどこに出かけるの話で盛り上がっているけど、そのクラスの雰囲気と相反し、私の心は外の気候のように凍り付きそうだった。
「やっと期末終わったー! じゃあ今日は、カフェ巡りといきますかぁ!」
友達三人はあれからも変わらず私の席に来て話しかけてきて、あの日聞いた悪口は夢だったのかと錯覚するほど。
『中間テスト、ヤバかったから期末で取り返さないとお小遣いもらえないんだ』
そんな罪悪感もないウソをつくと「えっ~!」と声を張り上げるのは真希だけで、やっぱり莉乃と紗枝は「私を誘った」の事実を作れたら良かったみたい。
だけどテストは終わったから、その言い訳は使えない。どうしたものか。
「ねぇ、パァーとしようよぉ!」
「あー、うん、そうだね!」
莉乃の誘いに「行く」と返事すると、途端に不機嫌なオーラになって、紗枝と目配せをして、小さく舌打ちをする。
だからって「行かない」と返事をすると、真希が不機嫌になって、当たりがキツくなる。
……どっちを答えるのが正解なんだろう。いや、どっちにしても詰みじゃない? 莉乃が不機嫌になってグループの雰囲気が悪くなるか、常に一緒にいる真希の機嫌が悪くなるか。
どっちを選んでも不正解なんだから。
張り付いた笑顔に悪寒みたいなものを感じていると、次は斜め前より感じ取る視線。
首を動かさず目だけで確認するとそれはやはり麗華で、以前は見てくることなんてなかったけど、最近は鈍い私ですら感じ取れるほど強いものとなっていた。
あれから、何度も話しかけようとしたけど行動に移せなかった。
だって。
「うわぁ、また文を見てきてるじゃん! 怖っ!」
「あーゆうのは相手しない方が良いからね」
「ウザイよね?」
手を叩きケラケラと笑うのに対し、同じくハハッと笑って見せる私。
ホント、サイテーだな。
もともと友達で、もがき苦しんでいる私をすくい上げてくれた人なのに、なんでそれを言わないの?
あの日、麗華に正論を告げられた私は、そのまま麗華の住むアパートから飛び出していた。
私は自分でも呆れるほど学習能力がなく、傘もカバンも制服も何も持っていなくて、ただ雨に濡れていた。
そこに駆け寄って来てくれたのは麗華で、また私にそっと傘を差してくれた。
帰るのは良いから、傘は差して帰ってだって。
明日、カバンも制服ないと困るだろうから、ちゃんと持って帰ってだって。
そう言って、自分の傘を持っていなかった麗華は、雨に濡れながら帰って行った。
『私は、何があっても文の味方だよ。それだけは忘れないでね』
そう、言い残して。
ねえ、麗華。ここまで身勝手で、わがままな私に、どうしてここまでしてくれるの?
私って、すごくイヤなやつなんだよ?
気遣いも出来なくて、空気とか読めなくて、しかも性格まで悪いんだよ?
それなのに、どうして?
家に帰ったら見知らぬ服に身を包み、濡れている私にお母さんは引き攣った顔をしていたけど、濡れてしまって友達が服を貸してくれたと説明したら、いつもの感じに戻ってホッとした。
張り切って洗濯するって言ってくれたけど、これは私がやった。
ありがとうと、ごめんなさいの気持ちを込めて。
次の日、電車を一本早くして教室に一番乗りして、こっそりと麗華の席に置いてけど、そこにはお礼も手紙すらもない、ただの返却。
気持ちを込めて干して畳んでも、返す時に「ありがとう」と呟いても、それを相手に伝えなければ意味はない。
そんな当たり前のこと分かってるくせに行動に移せず、今日まで来てしまっていた。
しかも私は、麗華がたった今悪く言われているのに否定もせずただ笑ってる。
何? なんなの私? マジで気持ち悪いんだけど。
喉奥より押し寄せてくる酸っぱいものに、反射的に吐きそうになった。
「皆、席に座れー」
ドアが開く音と担任の川越先生の声で悪口大会が終わり、一安心した私は席に座る。
もっと早くきてよ……。
何も悪くない先生にそう思ってしまった自分に、ゾワッとしたものが立ち込めてくる。
もー、やだ。ホント、イヤになる。
重い溜息を吐いた私は口元をクッと抑え、沸き立つザラザラとしたものも飲み込んだ。
テスト終了後のショートホームルーム。それが終われば、放課後が待っている。
普通の高校生にとって一番嬉しい時なんだろうけど、私はそうでない。
やっぱ私は、どっかおかしいのだろう。
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