戦場が混沌とし、呪術師たちが交錯する中で、千早の姿が突然、戦線から消えた。彼女は一瞬の隙を突いて後ろへと駆け出し、周囲の混乱を利用してその場を離れた。誰もがその動きに気づいたが、誰一人としてその理由を即座に理解できなかった。
「千早が…逃げた?」
釘崎野薔薇がその場を見渡しながら呟く。周囲の戦況が激化する中で、後ろ姿を目にした者は数人いた。しかし、なぜ彼女が退くのか、誰もが不思議に思った。
その時、伏黒恵が冷静に呟く。
「気をつけろ。あいつ、ただ逃げているわけじゃない。きっと目的がある。」
伏黒の言葉が、戦場にいた者たちの耳に届く。千早のような冷徹な術師が、戦闘中に撤退する理由など、ただの逃げでは考えにくかった。
千早は足を速め、本部へ向かっていた。その目には冷静さを保ちながらも、確かな目的を持つ強い意志が宿っていた。彼女が逃走を決意したのは、単なる生存のためではない。彼女の目標は、ある特級呪具を手に入れることだった。それが戦局を大きく変える鍵となることを、彼女は知っていた。
本部の内部、特級呪具の保管庫。そこに保管されている呪具は、数多くの呪術師たちが欲してやまない、そして触れることさえも許されない代物だ。千早が狙っていたのは、その中でも特に危険で、強力な呪具であった。
「これで戦局が変わる…」
千早は心の中で呟きながら、足を速める。彼女の顔に焦りはなかったが、その表情は明らかに計算されたものであり、次の一手をしっかりと見据えていた。
本部の入り口に辿り着いた千早は、門を開けると同時にすぐに内部へと進んだ。彼女が向かった先は、呪具保管庫。保管庫の扉の前に立つと、千早は静かに呪文を唱える。その呪文が結界を解き、扉がゆっくりと開く。
「特級呪具、私のものだ。」
その言葉を口にした瞬間、千早は自らの呪力を最大限に引き出し、呪具を手に取った。呪具の冷たい金属の感触が彼女の手に伝わり、彼女はその力を受け入れる準備を整える。
その呪具は、単なる武器ではない。使用者の呪力を何倍にも膨らませ、圧倒的な力を与えることができる代物だった。これを手に入れることで、千早は戦局を完全に掌握するつもりだった。
呪具を手にした瞬間、千早の目が一層冷徹に輝く。彼女の体全体に膨大な呪力が流れ込み、周囲の空気が一変する。まるで雷が走ったかのような感覚。これで、戦局は彼女の手中に収められたも同然だった。
「さあ、戻るか。」
千早は呟き、呪具を大切に抱えながら本部を後にする。彼女の目的は達成された。これから、再び戦場に戻るのだ。彼女の力が加わったことで、戦の結果は大きく変わるだろう。
その頃、戦場では千早の不在に気づいた呪術師たちが、動揺し始めていた。彼女の突然の撤退と、その目的が明らかになった時、戦局はどんな方向へ進むのか。全員がその未来を見守っていた。
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