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「皇宮で、パーティーですか。何の?」
リース誕生日は違うし、聖女歓迎会でもないし……そんなことあっただろうか。この時期は、星流祭の準備で忙しいのではないかと。もしかしたらエトワール・ヴィアラッテアが、開きたいといったのかも知れない。
「定期的なものです。貴族の交流の場と言いますか……本来は、災厄の対策と強化で行わない予定だったのですが、皇帝陛下から、行ってもいいのではないかと。聖女様もそこに参加されるみたいですし」
「そ、そう……」
前の世界と違うことがこっているイレギュラー。でも、この世界は、それを訂正しようとしない。エトワール・ヴィアラッテアの独壇場。おかしいと思っているのは自分だけなのだと。
しかし、災厄のことで一杯一杯だというのに、よくパーティーなんて開けるなと思った。誰が、主催しているのか分からないし、あの皇帝のことなら、何となく……といった感じなのだけれど、どうなのだろうか。
「そのパーティーには、りー……殿下も出席するんですか?」
「え?はい。出席しますね、殿下も……聖女様の婚約者ですから」
「……」
「どうしたんですか?ステラ様」
「ううん、何でもない。あの、今からでも私、参加できるかなあって」
分かっていることなのに、胸が痛い。いや、分かりたくないし、そんなはずないと、何度だって否定したいこと。でも、この世界ではそうなのだと、私に現実を突きつけてくる。よくない、私は許さない。
そんな思いで、口を挟んでしまえば、ブライトは不思議そうに私を見つめた。思えば、私はまだ養子になったばかり、貴族の令嬢として、これでいいのかという甘ちゃんなわけで。出席して、フィーバス卿の顔に泥を塗ることは出来ない。したら、アウローラがまたぶち切れそうだし、私としても、それは避けたい。けれど、リースとの接点がない以上、自分から作らなければならなかった。それが、リスクを背負うことだったとしても。
ブライトは、ジッと私を見てから、また不思議そうに目を丸くする。
「あああ、あの、私の顔に何かついていますか?」
「いえ。その……いいえ、何も。出席ですか。出来ると思いますが、招待状がなければ……」
「私の所に来ますか!?」
「ええっと、それは……フィーバス卿の元には、ここ数年来ていない、出していないと聞きますし、きていないのではないでしょうか」
「そ、そっか……そう」
フィーバス卿が、社交界にでれないのは仕方がないことなのだ。それに、皇帝から嫌われているせいもあって、わざわざ呼びつけることはないだろう。いや、嫌がらせで、送り付けてくる可能性はあるわけで。でられないことを知っておきながら。
でも、招待状が必ず必要となると、やはり少し困る。誰かが、同伴してくれなければ、きっと参加できないだろう。
「ブライトも、出席するの?」
「はい。聖女様に呼ばれているので」
「い、いいな!じゃあ……違うか。えと……聖女様に呼ばれて!?」
「まあ、そんなところですかね。あまり、パーティーは好きではないのですが」
と、ブライトはよそよそしく言う。ファウダーのこともあるから、あまり家を空けられないのだろう。そうでなくとも、ブライトは家のことで忙しいのに。それを分かっていて呼びつけるのは、悪意があるなと感じた。本当に、エトワール・ヴィアラッテアは自分のことしか考えていないと。
「招待状ってなきゃいけないんだよね」
「はい。ですが、婚約者同士なら……貴族令嬢でしたら、誰かが同伴すれば出席することは可能だと思いますが。詳しいことは」
「そ、そう……」
婚約者同士ってハードルが高い。そんなこと出来るはずが無かった。でも、誰かの同伴であれば……そんな、ペアチケットみたいな。
でも、方法がそれしかないのなら仕方がない。私は、望みをかけて、ブライトの方を見た。彼にキラキラとした視線を送れば、すぐに気づいてくれたが、なんともいえない表情を向けられてしまう。
「ぶ、ブライトと一緒に」
「すみません。それは、ちょっと」
「ど、どうして!?」
「まだ、ステラ様とは知りあったばかりですし……僕は、聖女様が――……」
「どうしたの?」
「いいえ。すみません。一緒にいくことは出来ません。それに、フィーバス卿に殺されてしまうかも知れませんし」
「ああ、確かに、お父様そんなこと言いそうだから」
何かと、人の恋路というか、そこに足を突っ込んでくる親ばかだから。それを、ブライトは見抜いたのか、と感心しつつも、困ったなと思った。他に頼れる人がいないのだ。フィーバス卿の元に招待状が届いていれば何とかなるかも知れないけれど。望みは薄いし。
(アルベドは……きてるのかな……いやでも……)
そもそも、連絡が取れないのと、彼は聖女の歓迎会の時に呼ばれていなかったという。だから呼ばれない可能性もあった。けれど、エトワール・ヴィアラッテアがアルベドも攻略しようとしているのであれば、可能性はない訳でもない。一週間とかいって、全然戻ってこないし、見込みもない……
大きな溜息が出そうになり、引っ込めて、私はブライトに頭を下げた。
「無理言ってごめん。そうだよね、私達知りあったばっかりだから」
「そう、ですね……こちらも力になれずすみません」
謝ることないのに、と私はブライトからの謝罪を受けて視線を落とした。
前途多難。そう簡単にはいかないようだった。
ブライトが申し訳なさそうにするので、さらに罪悪感というか、そこら辺が膨れあがってきて辛い。確かに、知りあったばかりなのである。私達は、前の世界の記憶が無いから。でも、断片的に覚えていて、ブライトも引っかかりを覚えているのだろう。偽物の記憶を植え付けられて、自分はエトワール・ヴィアラッテアが好きだと思い込まされている。哀れだなと。
ここでめげていてはいけないし、私も違う方法を探さなければと思った。ただ、本当にツテがないので、誰にも話し掛けにいけないのが辛いところ。
「ステラ様、すみません。そろそろ帰らないといけなくて」
「あ、ああ、こっちこそ、ごめん。引き止めちゃって」
「いえ。お話できて楽しかったです。それに、色々と教えて頂きありがとうございました」
「いえいえいえいえいえ!こ、こちらこそ」
裏返って、うわずって恥ずかしい。他人として話さないといけないからか凄く、他人行儀になってしまう。壁を作ってしまう。私は立ち上がったブライトを見送るために、立ち上がる。
「ステラ様」
「は、はい。何ですか!?」
「貴方が、味方でよかったと思っています」
「み、味方……」
「もし、ヘウンデウン教と繋がっていたと思うと……フィーバス卿にも悪いですし。何より、聖女様にも危害が及ぶかも知れません」
「まだ疑っていると?」
「そう言うわけではありませんが……」
と、ブライトはドアノブに手をかける。洗脳は奥深くに及んでいるのかも知れない。根を張って、ブライトの記憶を侵食して。ブライトが、そもそも疑い深い性格だったことを私は知っているから、その洗脳は簡単に奥まで入り込んでしまうのだろう。
一筋縄ではいかないことだけは分かった。疑われ続けることには慣れている。信用されないことにも。
「私は、ブライトを信じてるから」
「ステラ様?」
「いつか私は、ブライトに信じてもらえるように努力するから」
「は、はい」
ブライトは何が何だか分からないように返事をする。分かっている。信用をえるって簡単じゃないことを。ブライト相手なら尚更だ。
では、とブライトは頭を上げて部屋を出ていった。追いかけてもよかったが、変なことを言った後だったからそれはしない。私は、ソファにもう一度座り込み頬を叩いた。
「大丈夫。次の手を考えよう」
パーティーの話を聞いた。きっと、接触できる機会はここだ。チャンスがきた。そう思って私は優しく自分の頬を包み込んだ。