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「うー……」
ペットボトルを受け取ろうとするも、手がブルブル震えてしまって持てない。
「ほら」
すると尊さんは飲み口を私の唇に当て、少しずつ傾けていく。
「ん、……ん、ん、ん、……んぅ」
満足するまで水を飲んだ私は、ペチペチと彼の腕を叩く。
「はぁ……。……こんなはずじゃなかった……」
「何だよそれ、心外だな」
「カスハラしますけど、私、『ちょっとだけ』って言ったんですよ。そうしたらわんこ蕎麦みたいに、次から次に達かされて、大盛りお代わり、お代わりですよ」
「朱里の好きな奴じゃねぇか。大盛りとお代わり」
「いや、そうですけど。いや、性の大盛りとお代わりはいいんです!」
「……ホントに?」
尊さんは私の耳元でボソッと囁き、意地悪に笑う。
「ん、…………いや、だって……、その……」
私は赤面すると、ゴニョゴニョと言って誤魔化す。
「……っていうか、尊さんのジョイスティックは大丈夫なんですか?」
「ジョイ……、ふっ、…………ふふっ」
尊さんは私の言葉を聞いて、横を向くと噴き出す。
「お? 笑いましたね? お楽しみ棒とか?」
「それ、単なる直訳だろ」
彼は肩を震わせて笑ったあと、はぁ……、と溜め息をつく。
「俺はいいよ。黙ってれば収まる。今回は中村さんの誕生日がメインだし、明日もあの二人と行動するのに、実はヤッてたとか気まずいだろ」
「まぁ……、確かに……」
至極まともな事を言われ、私は頷く。
「言わなきゃバレないかもしれないけど、中村さんは朱里の事が大好きだし、ちょっとした変化でも分かると思う。……まぁ、お互いカップル同士で、何をしようが勝手だけど、イチャつくのは二人きりのほうがいいかな?」
そう言われると、一人で盛っていたようで恥ずかしい。
「…………そうですね」
膝を抱えて少し距離をとると、「何だよ」と顔を覗き込まれる。
「……一人でムラムラしてたみたいで、恥ずかしくて落ち込んでるんです。あとで四百字詰め原稿用紙、三行ぐらいで反省文書きます」
「どこから突っ込めばいいんだ」
「やだ奥さん、突っ込むなんて卑猥な……」
「おま……、卑屈になるなよ……」
「朱里のここ、空いてますよ!」
「やめろ」
尊さんはやけくそになった私を抱き寄せ、よしよしと頭を撫でる。
「その気になったのに、やる気を削ぐような事を言って悪かったよ」
「えーん、えーん、尊さんがいじめた。お詫びに私の前でソロプレイしてくれるって」
「お前なぁ! まだ酔ってるのか?」
「だって……、なんか、引くに引けないじゃないですか……」
私は膝を抱えたまま、ブツブツと言う。
「じゃあ、予約な。来週の週末、ホテルに泊まってやりまくるぞ」
「そんなドストレートに言わないでくださいよ! 情緒ないなぁ!」
「じゃあ、ホテルのルームキーに和歌でも書いて送るか?」
「ふひひひひひひひひ。平安! どんな和歌?」
尋ねると、尊さんは少し黙ってから適当そうに口にする。
「クリスマス いつかの君を 抱き締めて 贈る下着の 麗姿を胸に」
「ふぇー! 凄い! なんか本格的! もっとこう……、『ムラムラと 君を見ると勃起する かなまら祭り 始まるよ』みたいなの想像してました」
パッと思いついた和歌もどきを口にすると、尊さんは横を向いて盛大に噴き出して笑った。
「……はぁ、おかしい。……和歌は一応、折句の修辞法も入れてみたんだよ」
「折句?」
「今の歌の、最初の一文字言ってみ?」
「えっと……、く、い、だ、お、れ。……食い倒れ!」
指を折りつつ言うと、尊さんは悪戯成功という顔で笑う。
「食い倒れって言葉を見ると、いつかの年末にたっぷり食ってたお前を思い出して、可愛いなって思うとか、……まぁ、適当だけど」
「ええー……、なんかロマンチック……って喜んでいいんだか、『食い倒れか!』って怒るべきなのか判断に迷う……」
「朱里って言えば食い気だろ」
「おかしい……。私、周りの人には〝クールな上村さん〟って思われてるはずなのに」
「もう俺は真の姿を知ってるからな」
尊さんとワチャワチャと冗談を交わしていると、先ほどのやり場のない恥ずかしさはどこかへ消えていた。