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四月二十一日……朝八時……。
巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋の寝室では『個別面談』が行われている……。
「じゃあ、まずは自己紹介を……」
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)が最後まで言い終わる前に、ミサキ(黒髪ベリーショートの巨大な亀型モンスターの本体)がこう言った。
「ねえ、ご主人。どうして今さら自己紹介をしなくちゃいけないのかな?」
「ん? あー、そりゃ、あれだよ。ちゃんと全員いるかの確認……というか、今まで俺たちが歩んできた軌跡《きせき》を確認しようと思ったからだ」
彼がそう言うと、コハル(藍色髪ロングの藍色の湖の主。ミサキの妹)がこう言った。
「なるほど! そういうことでしたか!」
「ま、まあな……」
「……そっか。なら、まずは僕からやらせてもらうよ」
「お、おう、よろしく頼むぞ」
「うん、分かった」
ミサキはそう言うと、自己紹介をした。
「僕の名前は『ミサキ』。この世界を守るために生まれた『四聖獣《しせいじゅう》』の一体『玄武《げんぶ》』だよ。チャームポイントは、この水色の瞳なんだけど、実は視界共有とかできちゃうから、とっても便利なんだよ」
ミサキがニコニコ笑いながら自己紹介をすると、コハルは、うんうんと頷《うなず》いた。
「……あ、ありがとう、ミサキ。じゃあ、次はコハルだな」
「はい! 分かりました!」
コハルはそう言うと、なぜか立ち上がった。
「私の名前は『コハル』と申します! お姉様の妹であり、お姉様ほどではありませんが『玄武《げんぶ》』の力を扱うことができます! チャームポイントはこの黒い瞳といつも着ているこのスクール水着です! よろしくお願いします!!」
コハルの自己紹介が終わると、ミサキは彼女の手を握った。
「コハル。元気なのはいいけど、別に立たなくても良かったんだよ?」
「そ、そうなのですか?」
「うん、そうだよ。ねえ? ご主人」
「え? あー、まあ、そうだな。けど、コハルらしくて良かったと思うぞ」
その時、コハルの目がキラキラと輝《かがや》いた。
「ありがとうございます! お兄様!」
「お、おう、どういたしまして」
説明しよう! コハルはミサキのことも、ナオトのことも大好きなのである!
「とまあ、自己紹介はこれくらいにして、そろそろ本題に入ろうか」
「そうだね。えーっと、みんなから聞いた話によると、お悩み相談をしているそうだね」
「まあ、そうだな。けど、お悩み相談っていうより、俺がみんなに何かしてあげてるっていうか、されてるっていうか……」
「なるほど、なるほど。つまり、お兄様はそれぞれの子たちに合った心と体のケアをしているわけですね」
「うーん、まあ、そういうこと……なのかな。さて、そろそろお前たちの悩みを聞かせてもらうぞ」
「うーん、悩みか……。僕は特に何も……あっ」
「ん? なんだ? 心当たりでもあるのか?」
「いや、これは別に悩みじゃないんだけど……。まあ、いい機会《きかい》だから、言っておくよ」
「お、おう」
も、もしやお姉様……この際、お兄様に……こ、こここ、告白するつもりなんじゃ……。
な、なーんてそんなわけないですよねー。
あははははは……はぁ……。
「ねえ、ご主人。『超圧縮魔力砲』……じゃなくて、『|超圧縮魔力砲《イフリート》』を撃《う》つ少し前のこと覚えてる?」
「あー、あの時か。えーっと、たしかそれを撃《う》つ代わりに……」
「僕と正式に契約を結んでほしい……」
「そう、それだ。でも、あの時はバタバタしてたから具体的な方法は教えてもらえな……」
「キス……もしくは、お互いの血を吸う……」
「え?」
「いや、だから、僕の唇《くちびる》にご主人の唇《くちびる》を重ね合わせるか、僕とご主人がお互いの血を吸い合えば、正式に契約できるよ」
その時、コハルがミサキに迫った。
「お、お姉様! それがいったい何を意味するのか分かっているのですか! 私たち『四聖獣《しせいじゅう》』にとってのそれは、結婚するのと同じ意味なんですよ!?」
「コハル。まさかとは思うけど、僕が軽々しくご主人にそんなことを言ったとでも思ってるの?」
「そ、それは……その……」
「……もし、そう思っているのなら、僕は……」
その時、ナオトはミサキとコハルの頭を鷲掴《わしづか》んだ。
「ご主人……これはいったいどういう……」
「姉妹|喧嘩《げんか》をしたいなら、外でやれ。ここでお前らが暴れたら、アパートが粉々になる。そうなったら、俺もお前らも、もちろん他のやつらだって、困るんだ。分かるだろう?」
「そう、だね。ごめんよ、ご主人」
「え、えっと、その……ご、ごめんなさい、お兄様」
「……分かればいいんだよ、分かれば。さてと、それじゃあ、その正式契約ってやつを結ぶとするか」
彼はそう言いながら、二人の頭から手を退《ど》けた。
「え? 本当にいいのかい? 僕と正式に契約を結ぶっていうことは、結婚と同じ……」
「俺にとっては結婚じゃないんだから、別にいいんだよ。けど、お前が拒《こば》むのなら、俺は無理に勧《すす》めるつもりはない……。ただ、それだけだ」
「そっか……。そうだよね……。はぁ……まったく、どうしてご主人はそんなに優しいんだい?」
「……うーん、そうだな……。同じ誤《あやま》ちを繰り返さないようにするため……かな」
「……そっか……。それじゃあ、そろそろ始めるよ」
「お、おう……。それで、俺は何をすればいいんだ?」
「そんなの簡単だよ。僕の首筋に思い切り噛み付いて、僕の血をチューチュー吸えばいいんだよ」
「お、お前な……そういうことはニコニコ笑いながら、言うものじゃないんだぞ?」
「そうかな? 僕は別に気にしないけど」
「いや、お前は良くても他のやつらにとっては……。あー、まあ、いいや。じゃあ、行くぞ」
「うん、いいよ。さぁ、いつでも僕の腕の中に飛び込んでおいでよ」
ミサキはそう言うと、ニコニコ笑いながら両手を広げた。
「じゃ、じゃあ、行くぞ……」
「うん、いいよー」
彼が彼女の方へと近づく。
彼女はニコニコ笑いながら、その様子を伺《うかが》う。
彼の心臓の鼓動が速くなる。
今まで何度も女の子たちに抱きしめられてきたはずなのに……。
彼女は彼をギュッと抱きしめると、舌|舐《な》めずりをした。
それを見たコハルは思わず両手で顔を覆《おお》い隠した。まあ、指の隙間《すきま》から二人の様子を見ているのだが。
彼が彼女の首筋に噛み付くのを躊躇《ためら》っていると、彼女は彼の首筋に思い切り噛み付き、彼の血を吸い始めた。
「……くっ! お、おい、ミサキ。流石《さすが》に強く噛みすぎだぞ。もう少し優しく……」
彼女は自分の歯型が彼の首筋についたのを確認すると、それを舌で舐めた。
「お、おい! 今のはいったい何なんだ! こんなの聞いてないぞ!」
彼が彼女の顔を見ようと抵抗したが、彼女はそれを許さなかった。
「ご主人、ごめんね。もう僕、我慢できないんだ」
「お前、何を言って……」
彼が最後まで言い終わる前に、彼女は再び彼の首筋に噛み付いた。
「……お、おい! ちょっと待ってくれ! 無理やりするなんて聞いてないぞ!」
彼女は躊躇《ちゅうちょ》する彼に対して、少し腹が立った。
もうこうなったら、何がなんでもしてもらおうと思った彼女は、自分の体重を彼に預けることにした。
「ご主人のバカ……」
「……ん? 今なんて……あっ!」
彼はよく幼女に押し倒されるのだが、今回のような展開は珍しい。
「お、おい! ミサキ! 一旦、落ち着けよ! 頼むから!」
「……もう我慢できないって言ったでしょ? ほら、早く僕の血を吸ってよ」
「わ、分かってる。分かってるんだよ、そんなことは。けど、どうしてこんなに痛いんだ?」
「それはね、僕が本気で何かを噛んだら、ワニガメ並みになるからだよ」
「……ワニガメって、お前な……」
「冗談じゃないよ、現に今、ものすごく痛いでしょ?」
「あ、ああ、これは多分、鎖の力を手に入れた時よりも痛い……」
「でも、普通の人なら、とっくに死んでるよ。だから、もう少し頑張ろうよ」
「わ、分かった。じゃあ、そろそろ俺も行くぞ」
「うん、いいよ。来て」
彼はキッとした目つきになると、彼女の首筋に思い切り噛み付いた。
「……うっ! い……いいよ、いいよー。その調子だよー、ご主人」
彼女はそう言うと、彼の首筋にくっきり浮かべ上がった自分の歯型を見た後《のち》、彼の首筋に思い切り噛み付いた。
「お、お兄様! お姉様! 大丈夫なのですか?」
コハルが心配そうな表情を浮かべながら、二人の様子を見ていると、二人はコクリと頷《うなず》いた。
「そ、そうですか……。でも、無理はしないでくださいね」
二人は再びコクリと頷《うなず》くと、しばらくお互いの血を吸い続けていた……。
「……はぁ……はぁ……はぁ……こ……これで……いいんだよな?」
「……う……うん……よく頑張ったね、ご主人。えらい、えらい」
彼女が彼の頭を撫でると、彼はその手をギュッと握った。
「……えっと、ご主人……どうかしたの?」
「いや……まあ……あれだ……。今はこうしてると、なんか落ち着く気がするから、やってみただけだ」
「そっか……。たしかにそうかもしれないね……」
二人が横になった状態でそんなことを話していると、コハルがひょっこり顔を出した。
「あ……あのー、大丈夫ですか? お水持ってきましょうか?」
目をパチクリさせながら、二人にそう訊《たず》ねるコハル。
それを見た二人は「はははは……」と笑った。
「コハル、俺たちは大丈夫だ。だから、もう少し待っててくれないか?」
「しかし……」
「コハル、そんな心配そうな顔しないでよ。少し休憩すれば落ち着くからさ」
「わ、分かりました。それでは、おとなしく待つことにします」
コハルはそう言うと、部屋の隅《すみ》で『の』の字を書き始めた。