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凍ったばななとビスコ
「おー、新久しぶり!」
「新! 久しぶり!」
VIPルームの入り口から、よく通る懐かしい声が聞こえてハッと顔を上げた。
歩いてくるのは、少し目元に渋い皺が増えたものの、相変わらず優しくて年相応の色気を纏った元宮さんと、その隣で当時と変わらない明るくて甘い笑顔を輝かせている空だ。
「やっと来たか、おじいと美魔女」
「あれ? 本人来るとそうなるんや」
「……いうても、弦、まだくうちゃんの事好きやねん。だから、傷つける事は絶対言わん」
こそっと俺に耳打ちしてくる洸くんに、ふふッと笑い返す。
そっか、好きな人が毎日そばにおるんやもんな。諦められるわけないよな。
……俺も、そうやったから。
「元宮さん、お久しぶりです! 空も、相変わらずお綺麗で」
そう笑いながら言うと、空は目が合うと同時に俺に強くハグをしてきた。一緒に過ごしている時にはしたこともない、熱いハグ。あの頃の俺らは家族であり、戦友であり、ライバルやった。
「……連絡もロクにせんと。ほんま心配してたんやからな」
俺の耳元で少し鼻を啜る音が聞こえて、思わずつられて泣きそうになった。そうや、あの頃から、空はそういう人やった。もう必要ないと自分では思ってた俺が家族から離れる事を、1番に嫌ってた人。
「新、10年ぶりでも相変わらず綺麗やな。……会えて良かったな? 洸」
「ん?」
俺ではなく洸くんにすぐに向けられた元宮さんの視線を追うと、俺たちの様子を伺っていた洸くんが「うん」と満面の笑みで頷いた。
元宮さんに、綺麗だなんて言葉初めて言われた。20年前の俺なら飛んで喜んでたやろな。
「あ、……今日は僕主役みたいになってますけど、主役洸くんやから、洸くんのお祝い始めましょ?」
「あ! そっか! 洸の誕生日なん忘れてたわ!」
「……素直やないなぁ、どうせ、プレゼントも用意してんねんやろ?」
「そそそそそ、そんな事まだわからへんやん!」
「何回言うねん。焦りすぎやろ」
そう洸くんに言われて、あからさまにパニックになってる弦くん。洸くんも冷たく言いながらほんま嬉しそうやし。ふふ、ほんま可愛らしい2人やわ。
「あ! おしっこ!」
急に弦くんが子供のように叫んで、席を立つ。
「ほんま、ええ加減、大人になりや」
と呆れた洸くんが、立ち上がった弦くんのお尻をスパンと叩いた。
そのお尻を素直に摩りながら、弦くんが出ていき──
しばらくして、下手くそなハッピーバースデーの歌声と共に、真っ白なホールケーキにこれでもかとイチゴが積まれたケーキを持って、弦くんとスタッフさんが入ってきた。
「もう、いやや! 弦、おしっこの後ちゃんと手洗った!?」
「今はそういう事じゃないやろ! 素直に喜べよ! 小僧!!」
目ん玉ひん剥いて、怒りを爆発させる弦くんに、元宮さんも、空も、俺も、手を叩きながら大笑いする。相変わらず可愛い家族やわ。俺がおらん間も、この家族には愛が溢れてた。
ケーキをスタッフさんに切ってもらいながら、洸くんにもう一度おめでとうを伝える。
「……あらたせんせが、僕って言うの、ひさびさに聞いた。今日は、俺らの前では『俺』やったのに、おとうらの前では違うねんな?」
無意識やったけど、やっぱり元宮さん達の前では「新先生」でおりたいという気持ちの表れやったんやろか。確かに、洸くん、弦くんの前では、後先何も考えずに素直に出てくる言葉を並べて喋ってた気がする。
「……子供達相手やと気使わんでええしな?」
「……やっぱり色々あったんや」
「まぁ、俺、20年前も大人やったからな?」
2人で内緒話をしていると、それを元宮さんと空と弦くんがニヤニヤと見ている。なんだか気恥ずかしくなって、手元にあったお酒を一気に流し込んだ。
お酒が進むにつれて、会話はさらに弾んでいく。子供たちの仕事の話、10年間の元宮家の出来事……。居酒屋とは違うお洒落なラウンジのソファーで、俺たちはまるで昨日も一緒にいたかのように笑い合った。
そして宴も終盤に差し掛かった頃、俺は思い切って、さっき子供達に話した「決意」を口にした。
「あの、元宮さん、空。洸くんや弦くんにはもう伝えたんですけど、実は僕、こっちに帰って来ようと思ってるんです」
「えっ!? ほんまに!? やった!!」
元宮さんは黙って驚いているのに対して、空はあの頃と同じ子供のように無邪気に手を上げた。
「うん。やりたい仕事が前からあって。この年齢での転職はいろいろ迷ったんですけど……今日、立派に大人になった二人を見てたら、僕も負けてられへんなって、さっき決めたんです」
俺の言葉に、元宮さんは一瞬驚いたように目を見張ったあと、深く頷いた。
「そうか……! じゃあ、またあの美味しい料理が食べられるって事やな?」
「……なに? 俺の料理が口に合わへんって事?」
「そんなわけないやん。2人の料理はそれぞれいいところがあって別物やろ?」
少し拗ねている空を、元宮さんが余裕そうに笑って慰めている。
……あぁ。10年前は、こういうやり取りを見る度に心臓がギュッとなって、苦しかったな。
そんな昔の傷跡を愛おしく振り返っていると、不意に、隣から低くて甘い声が降ってきた。
「……俺も楽しみ。俺の料理も食べてほしいけど、あらたせんせと一緒にキッチンにたってお料理したい。俺の知らん事いっぱい教えてね?あらたせんせ」
小さい頃と同じ無邪気な微笑み。
けど、そこには──あの頃とは違う、洸くんの「大人の男の色気」のようなものも含まれていて、俺の心臓は不意に、少しだけドキリと跳ねた。
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