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その夜、康二は少し周りを散歩しようと1人で部屋を出た。そのまま下の階に降り、リビングを抜け、エントランスの扉を開ける。
すーっと少し冷たい風が身体を撫でた。康二は再び、あの部屋の事が頭から離れなくなっていた。
しばらく歩くと、丘の上から足音のような音が聞こえた。音のする方へ向かうと、1人の男が踊っているようだった。やがて彼は康二の気配に気付いたのか、踊るのを止めてイヤホンを外し、こちらを振り返った。
「こんな夜中に1人は危ないよ。」
彼はぶっきらぼうに言い放った。
向井「邪魔してすみません…少し、風に当たりたくて。」
「あ…君が向井康二くん?」
向井「そうですけど、なんで分かったんですか?」
「生徒の顔くらい把握してるよ。一応生徒会長だしね。見た事ない顔だったから、君があの転校生かと思って。」
向井「生徒会長…?」
岩本「あれ、ふっかから聞いてない?俺は3年の岩本照。生徒会長やってる。よろしく。」
向井「よろしくお願いします!ふっかさんとは、まだ寮の話くらいしかできてなくて…」
岩本「そっか、まあアイツも忙しいんだろうな。俺、君が転校してくる日にどうしてもしばらく実家に戻らなきゃいけない用事できてさ。昨日帰ってきたんだよね。だから君のことはふっかに任せてて。」
向井「そうだったんや…」
岩本「…んで?なんか悩み事でもあんのか?」
向井「えっ、なんで」
岩本「違うのか?」
初めて会ったのに、康二が思ったことを見透かし、欲しい言葉をくれる岩本に驚いたが、それが心地よくて不思議な気持ちになった。
向井「気になるんです。」
岩本「なんだ、もう気になる子いんの?」
向井「やなくて!寮の3階、突き当たりにある頑丈な扉の向こうが、気になるんです。みんな、康二には必要ないからって教えてくれへんくて…」
岩本「そういうことな。そりゃ、隠されたら気になるよな。人間ってそういうもんよ。君…いや、康二はさ、佐久間や翔太と一緒にいて、変な気分になったことあるか?」
向井「変な気分…?あの、具合悪くなったり、ってことですか?むしろ楽しいし…そんな気分になったことないです。」
岩本「じゃあ、阿部とかふっかはどう?」
向井「特に何も…あっ、そりゃ一緒にいたら楽しいですよ?」
そう答えると、岩本はフッと笑った。
岩本「分かった。じゃあ今から行くか!」
向井「えっ、どこにですか?」
岩本「あの部屋だよ。」
向井「そんな!勝手に…1人では絶対行くなって、ふっかさんに言われたし…」
岩本「大丈夫、俺がいる。1人じゃねーだろ?」
そんな少し強引で男らしい岩本に、康二は目を輝かかせた。頼もしい先輩がいて、楽しい仲間がいて、康二はここに転校してきて本当に良かった、と心から思った。