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#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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僕はかなり勉強ができたけど、うちにはお金がなかった。大学には行けないと思っていた。
けれど高校に上がった年、遠縁の人が僕を見て、医者になるなら兵庫の和束家というところが学費援助をしてくれて下宿を約束してくれると言う。僕は必死で勉強して、必死で兵庫の医大に合格した。
和束家に始めて行った日。家の前で出くわした中学生の女の子が和束家の長女ということで、あいさつしたけど、「知らん。美枝の婿やろ」と吐き捨てられてそっぽを向かれた。
それが、ハルちゃんだった。
和束家に下宿するようになってから。次女の美枝ちゃんをやたら推されたけど、ハルちゃんのことは全然紹介されなかったので僕は戸惑った。ハルちゃんは家族から冷遇されているようだった。
それでも勉強は大変だったし、ある程度のお金はバイトで稼がなきゃいけなかったのでそっちを頑張っていたけど、ある日、ハルちゃんが僕の部屋にこそこそ忍び込んでいるらしいことに気づいた。
僕がいないときに忍び込んでいるらしくて、でも変なことしてる感じじゃなかったから、僕はハルちゃんに直接聞いた。
「僕の部屋に用事?」
ハルちゃんは、気まずそうにもじもじした。
「大学の教科書どんなのか読みたかったんよ……」
「あー、おもしろいよね、読む? 読むならいつ来てもいいよ」
「え、ええん!?」
ハルちゃんはパッと顔を輝かせ、僕は、ハルちゃんはこんなかわいい顔をするのかと驚いた。
それから、ハルちゃんは毎日僕の部屋に教科書を読みに来た。理科が好きで、特に生物と化学が好きらしかった。僕はハルちゃんに面白い研究や論文の話をして、英語も教えてあげたりした。ハルちゃんはすごく楽しそうで、僕はそんなハルちゃんを見るのが、幸せだった。
一緒に暮らしていく中で、和束家の面々から漏れ伝わることがある。
ハルちゃんが子宮も卵巣もなくて子供は望めないこと。ハルちゃんは祖父母と両親から冷遇されていること、父親に度々「まともな男に生まれればよかったのに」とまで言われていること。僕には多少ながら霊力があるので、霊力がある同士で結婚させて血を残させたくて、和束家は美枝ちゃん(ハルちゃんの妹)と自分を結婚させたがってること。
和束家の方が時は満ちたと思ったらしく、僕と美枝ちゃんとの結婚を持ちかけてきた時。僕はハルちゃんの顔が脳裏に浮かんで、反射的に作り笑いして思わずこう言ってしまった。
「いやー結婚とか興味なくて! そういう意味で援助してもらってたとか全然気づかなかったです! すみません!」
ハルちゃんの祖父母も両親も怒りまくって、僕は下宿から追い出されるところだったけど、和束家を勧めてくれた遠縁の家がとりなしてくれて、医師国家試験が終わるまでは下宿することになった。
大学在籍中。神奈川の病院で心霊業界に詳しい医者を探していると言われて、研修医が終わったらそこに雇われることになった。それがとよか病院だ。
ハルちゃんにそれを話したら、ハルちゃんは少し考えてこう言った。
「うちも関東行こうかなあ、こんな家はよ出たいし」
「そうだね、出たほうがいいね」
「じゃあ関東の大学行くわ。手に職はつけさせてくれるって言うし、なんか資格取れる大学探す」
2人で相談して、ハルちゃんは栄養士の資格とれる大学を目指すことになった。
ハルちゃんが先に関東に行き、僕とハルちゃんは距離的に離れたけど、友達付き合いは続いた。しばらくして僕も関東に行って、会う機会を増やせて。
ハルちゃんは、会うといつも嬉しそうに話してくれた。お互い最近読んだ論文の話ばかりしていたけれど、それが楽しかった。
ハルちゃんがとんでもない術者ということは知っていたけれど、和束家の後ろ盾がなくて安く買い叩かれていたことは知らなかった、ハルちゃんが新型コロナウイルスであっさり死んでしまうまで。
家族すら面会できない病気で、その家族も面会すらする気なくて、僕は家族でもなんでもないから葬式も参列させてもらえなかった。
ほとぼりが冷めた後、僕は一人だけでハルちゃんのお墓参りをして、家に帰って泣いた。
それでも仕事はある。僕は、夜に強い酒を飲んで泣く生活をしばらく続けたけど、ある日異変に気づいた。
パソコン周りや生活用品のささやかな変化。けれど確かな変化。
霊。それが、僕から隠れて、でも僕のもので何かしようとしている。
……ハルちゃん? いるの?そばにいるの?
ハルちゃんが隠れたいなら、全力で気づかないふりをするよ。ハルちゃんが何かしたいなら、何かできる環境を整えるよ。
僕は使わない部屋をわざと作った。その部屋にセットアップしたパソコンを置いた。インターネット環境も整えた。クレカをもう一枚作って、パスワードも何もかも書いたメモ帳といっしょにパソコンの横にしまっておいた。
それだけ。あとは、あえて見ないようにしていた。
ハルちゃんが悪霊に知識を伝えた。ハルちゃんが怨霊に術を仕込んだ。ハルちゃんが怨霊を爆発させようとした。ハルちゃんが怨霊を狙って人を殺しかけた。ハルちゃんが人から霊力を奪った。ハルちゃんが寺社仏閣を襲い出した。
力が欲しいんだね。ハルちゃんを愛さなかった世界なんて、壊してしまいたいんだね。
……それでいいよ。ハルちゃんを愛さなかった世界なんて、ハルちゃんに何もしてあげられなかった僕ごと、壊れてしまえばいい。
コメント
1件
いやもう、この話エグすぎる……!! ハルちゃんのあの冷徹なキャラの裏にこんな壮絶な過去があったなんて…。医者の彼との交流パート、特に教科書読みに来た時の「え、ええん!?」で輝く顔、めっちゃ刺さった。あの瞬間だけはハルちゃんが普通の女の子に見えて、それが余計に切ない。 最後の「ハルちゃんを愛さなかった世界なんて壊れてしまえばいい」って、彼の覚悟というか共犯関係というか…もう言葉にならんわ。この番外編で本編のハルちゃんの全てが理解できてしまった。がくじゅつ先生、心臓えぐるの上手すぎるって🔥