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「水野さん、帰ろう」

「うん、」

酒井の方へと目をやった。

けれど彼はこちらを見ていない。

好きな人にキスされた。

嬉しいはずなのに、何故か虚しかった。

正門の近くに生えている木にはまだ青い実が日に照らされている。

「ごめんね、いきなり。」

「いや、私も古川くんと話したかったから」

「嬉しい」

彼と話すのは楽しい。

けれど、酒井といる時は安心する。

比べてはいけないのに比べてしまう。

やはり私は酒井が好きだ。

「水野さん、何となく察してると思うんだけど聞いて欲しい」

「うん」

沈黙が続く。

不思議な雰囲気。

彼は息を吐き、夕暮れの空に話しかけるように呟いた。

「水野さんが酒井のこと好きなのは知ってる。でも、それでも水野さんが好き。 」

「え?」

予想外の言葉だった。私が酒井のことを好きなのを古川くんは知っている。

どこか、心臓が浮いている感覚になる。

「だから、特別じゃなくて水野さんのいちばんになりたい。」

1年生のあの日、弁論で言った「君の特別になりたいと告白をされ」という言葉が蘇る。

きっとあの時から古川くんは私のことが好きだったのだろう。

特別なのは酒井だと分かっているからこそ、私のいちばんになろうとしてくれる。

これほど私を思ってくれる人はいないと思う。

だからこそ、怖い。

「私、まだ酒井のこと好きだよ?」

「それでもいい。」

古川くんの真剣な眼差しが私を透き通るように見ている。

どうして、彼は私に好きだと言ったのだろう。

「分かった。付き合おう。」

忘れるために必要だった。

貴方との関係が。


昼休み。

僕が水野さんと話し終わった後、教室から見えた酒井と水野さんが一緒に歩いている姿が興味をそそった。

だめだと分かっているのに着いて行ってしまった。

その時初めて水野さんが好きなのは僕ではなく、酒井だと知った。

ふたりはどういう関係なのかよく分からなかったが酒井は水野さんにキスをした。

その後、ずっと泣いている水野さんを見ていられなくなりその場から離れた。

僕なら酒井と違って水野さんを泣かせないのに。なぜ水野さんは僕ではなく酒井を好きになったのだろう。

僕を見てほしい。




「瑞稀!」

「おー、凛華。どうかした?」

「古川くんと瑠那付き合ったって!」

「まじ!おめでとう」

あの日、律は瑠那を連れて行った。

その時私が瑠那を責めたように瑠那は感じたのかもしれないと思って怖くなった。

けれど戻ってきた瑠那も律もいつも通りで初めから何も無かったかのように瑠那は私に話しかけてきた。

瑠那にとって古川くんはどういう存在なのだろう。

私がいくら考えても答えは出ないし、瑠那に聞いたとて瑠那も答えは言わない。

私たちは本当に親友なのだろうか。

何もかも分からなくなった。

「そういえば凛華って律のこと好きなの?」

「え?何言ってんの?」

心臓が嫌な跳ね方をした。

鼓動がはやくなる。

好きな人には別の人が好きだと勘違いして欲しくない。

「いや、俺応援するよ?任せて」

「違う!」

声を荒らげてしまった。

「え?そこまで否定する?」

瑞稀はびっくりした様子だったけれどいつも通り楽しそうにしている。

「いや、本当に違うからさ」

私も彼に習って笑って誤魔化した。

素直に私の好きな人は貴方だと言えたならどれほど良かっただろう。




その日、私はただ歩いていた。

何か欲しいわけでも何かしたい訳でも無い。

ただ、彼のことを想って歩く。

それだけで楽しかった。

不意に知っている横顔が目に入ってきた。

「律、?」

律は河川敷に座りぼーっと海を眺めている。

「あ、本当に律だったんだ!何してるの?」

私は律の横に座り律と同じように川を眺めた。

「んー、好きな人を想ってる。」

「え?好きな人??居たんだ!」

「うん。」

誰を想っているのかはよく分からないけれど真剣なことは伝わる。

「その人はどんな人なの?」

「さぁ?よく分かんない」

「何それ? 」

意味が分からなくて少し笑ってしまった。

律も恋をするのだと驚きと嬉しさがある。


特に用もなかった。

ただひたすらに自転車を漕いだ。

大好きな河川敷には彼と私の親友がいた。

二人並んで楽しそうにしている。

もう、私は古川くんの彼女なのにその光景を見ただけで傷ついて吐き気がして嫌になる。

あの時の好きはやはり形にならないもので一瞬にして蒸発して消えていく。

彼を好きだという私の気持ちもいつか消えてしまうのかと怖くなった。

だからといって、特に彼の特別になりたい訳でもない。

私の存在を認識して欲しい。

あわよくば、好きになって欲しい。

あの頃と変わらない彼を想う気持ちは歳を重ねるごとに強くなっていく。

「あーやば、泣きそう」

涙が溢れてこないように空を見上げた。

どこか懐かしい夏の匂いを感じる。

私の視界を覆う青い空はどこまでも続いていた。

まだ青すぎる僕たちは

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