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「あれ?瑞稀じゃん、一緒に帰ろ!」
「おう 」
彼がいつもの早い足取りを遅くして私の隣に並ぶ。
周りからどう見られているのかが気になってしょうがない。
「俺さ、好きな人いるんだ」
「え?うん。」
彼が夕焼け空を見上げながらそう呟いた。
そして、淡々と語りだす。
「その人一個上の先輩なんだ。」
心臓の鼓動がはやくなる。
初めての感覚。
上手く呼吸ができずに苦しくてしょうがない。
「でも、先輩は俺の事なんとも思ってないのかもしれない。」
「そ、そんなことないんじゃない?」
必死に絞り出した言葉は彼に届いたのか届かなかったのか分からず吐息となって消えた。
あの時の表情は全てその先輩を想う顔だったのかと妙な感情が取り巻く。
上手く言語化できないこの気持ち。
これはなんだろう。
「その先輩、佐藤苺華さんって言って女バスの人なんだよ。」
「憧れてるからこそ勇気が出ないんだよなぁ」
彼は私の言葉を待っているのではなく、私に話を聞いて欲しかっただけ。
そう理解しても尚、好きという感情は止まらない。
「私、応援するね」
思ってもない言葉が私の口から飛び出す。
いちばん言ってはならない言葉を言ったのではないかと怖くなる。
これから、佐藤先輩と瑞稀が話している時私は純粋に応援しなければならなくなった。
どれほど苦しいことか、想像もつかない。
「サンキュ!凛華ならそう言うと思ってた!」
私は彼にとって友人程度なんだと目頭が熱くなる。
彼と解散したあと散々に泣いた。
すれ違う人に怪訝な顔をされても気にならないほど。
知らない人の冷めた視線より大好きな人から聞く女の子の話の方が嫌。
彼はあんなに幸せな顔をできるのかと何よりも驚いた。
私ではダメなのだと彼の横顔を見て痛感した。
彼に気持ちを伝えてしまえばきっと今の関係には戻れなくなる。
話せなくなるのはもっと嫌だから、耐えなければならない。
胸が張り裂けそうで苦しくて苦しくて仕方がない。
「凛華、大丈夫か!?」
振り向くとそこには律がいた。
「律、。私失恋しちゃったよ」
「何があったんだよ」
「瑞稀には好きな人がいてそれが先輩なの。それで私応援するって言っちゃって」
「なんで急に。とりあえず移動しよう」
律は私の手を引きベンチに座らせてくれた。
「俺、瑞稀が佐藤先輩のこと好きなの知ってた」
「どうして、」
「でも!凛華を応援したかった。俺が初めて憧れた人だから」
「それってどういう、意味?」
律は真剣な眼差しで私のことを見つめている。
なにか私に気付いて欲しいような、そんなふう。
「気にしないでいい。だけど、俺が凛華を応援したかったのは事実だから」
「ありがとう、律」
「家まで送るよ、行こう」
私は律について駅のホームまで向かった。
帰り道。
泣きじゃくる凛華を見つけた。
何があったのかと声をかけようとすると彼が凛華を呼び止めた。
その時の彼の顔はとても必死なもので、あの時私を助けてくれたヒーローの顔と同じだった。
あの時のキスも、あの時の好きも全て気の迷いだったのだろうか。
無力な自分と、愛される凛華を比べてしまう。
私が古川くんの告白を断り彼に泣きじゃくれば私たちは付き合えていたのかもしれない。
けれどそれを望んでいる訳では無い。
きっともう好きだけでは一緒に居れなくなる。
だからあの時気持ちと向き合えた私は強い、はずなのにどうしてこんなにも惨めなのだろう。
あまり外では泣きたくない。
人に泣き顔を見られたくない。
こういう意地っ張りなところも彼から愛されない理由なのかもしれない。
私は凛華にはなれない。
あの日の唇の体温を思い出し袖で今にも溢れ出しそうな涙を拭った。
次の日、学校へ行くのが怖くなった。
私はもう瑞稀に会いたくない。
それなのに、瑞稀と話したい。
きっと、瑞稀があの時好きな先輩の話をし始めた時無理にでも逃げなかったのは何も言わなかったのは瑞稀と話せなくなるよりまだ少しだけマシだったから。
苦しいはずなのにそれよりも苦しいことを考えたくない。
私は何なのだろう。
私は瑞稀に見て貰えない。
私は瑞稀の何者でもない。
きっと瑞稀は私を見ているのではなく頭の中にある好きな先輩を見ているのだと思う。
きっとこれから沢山その人の話を聞くのだろう。
けれど、耐えなければ私はもう一生瑞稀と話せない。
あの時瑞稀が私を助けさせしなければ、あの時瑞稀を好きになってさえいなければきっとこんな苦しい思いをする必要無かったのだと思う。
私を見てくれない彼を好きになる理由がどこか遠のいて行く。
好きなところも嫌いなところも沢山あるのに10個の嫌いなところよりも1個の好きなところが勝ってしまう。
誰よりも考えているのに、誰よりも好きなのに何故私を見てくれないの。
私は何故好きになって貰えないの。
何故、愛されないの。