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第14話:選ばれなかった未来たち
杭が止まった――
それでも、世界はまだ傷の中にあった。
フラクタルが飛び交う戦場、軍事と命令が渦巻く統制区域、
そのどこでもない、地図に載らない空白地帯に、人々はいた。
森に囲まれた廃村、砂漠の小さな井戸、かつて崩壊した港の外れ。
誰からも命令されず、誰にも感知されず、
それでも確かにそこにいたのは――
選ばれなかった者たち。
フラクタルを持たなかった者。
能力がなかった者。
戦わなかった者。
選ばれなかった人間、そして選ばれなかった碧族。
● 港の裏手、小さな避難シェルター。
少女の碧族が静かにパンを焼いていた。
くすんだフードをかぶり、目元には青い痕跡。
だが、力を使わない。
ただ、配給にあぶれた人々の分を、毎日少しずつ分け与えていた。
● 地下鉄の崩れたホーム。
元・兵器碧族の男が、子供たちに文字を教えていた。
彼の肌にはフラクタルの痕が残っていたが、今は一度も光らせていない。
教えているのは、戦術でも祈りでもない。
“自分の名前の書き方”だった。
すずかAIの声が、遠く通信を通して、記録チームに送信される。
「記録範囲外の複数地点にて、“非戦闘・非記録型碧族”の存在を確認。
<彼らは、いかなる命令も受けず、祈らず、書き残さず、
ただ“生きている”という事実のみを継続しています」
「これは、“戦わない選択”の、ひとつの在り方と見なされます」
その報告を聞いたタカハシは、肩に傷を抱えながらも、うなずいた。
「俺たちは、選ばれて戦った。
でも、本当はこういう奴らの方が……ずっと、“強い”のかもしれないな」
彼の隣、装束を脱ぎかけたゲンが静かに笑った。
「選ばれなかったからこそ、未来があるってことかもな。
フラクタルも、記録も、祈りすらもいらない。
ただ、生きてていいって――それ、めちゃくちゃ強いよな」
彼らは気づいた。
世界が崩れてなお、
誰にも注目されない場所で、確かに**生きる者の“連鎖”**が生まれ始めていることを。
それは杭にも、記録にも、触れられなかった者たちの――
未来そのものだった。
青い光がない場所で、蒼い心が燃えていた。