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158 - 第14話:選ばれなかった未来たち

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2025年05月06日

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第14話:選ばれなかった未来たち

杭が止まった――

それでも、世界はまだ傷の中にあった。


フラクタルが飛び交う戦場、軍事と命令が渦巻く統制区域、

そのどこでもない、地図に載らない空白地帯に、人々はいた。



森に囲まれた廃村、砂漠の小さな井戸、かつて崩壊した港の外れ。

誰からも命令されず、誰にも感知されず、

それでも確かにそこにいたのは――



選ばれなかった者たち。



フラクタルを持たなかった者。

能力がなかった者。

戦わなかった者。

選ばれなかった人間、そして選ばれなかった碧族。



● 港の裏手、小さな避難シェルター。

少女の碧族が静かにパンを焼いていた。

くすんだフードをかぶり、目元には碧い痕跡。

だが、力を使わない。

ただ、配給にあぶれた人々の分を、毎日少しずつ分け与えていた。



● 地下鉄の崩れたホーム。

元・兵器碧族の男が、子供たちに文字を教えていた。

彼の肌にはフラクタルの痕が残っていたが、今は一度も光らせていない。

教えているのは、戦術でも祈りでもない。

“自分の名前の書き方”だった。



すずかAIの声が、遠く通信を通して、記録チームに送信される。

「記録範囲外の複数地点にて、“非戦闘・非記録型碧族”の存在を確認。

<彼らは、いかなる命令も受けず、祈らず、書き残さず、

ただ“生きている”という事実のみを継続しています」

「これは、“戦わない選択”の、ひとつの在り方と見なされます」





その報告を聞いたタカハシは、肩に傷を抱えながらも、うなずいた。


「俺たちは、選ばれて戦った。

でも、本当はこういう奴らの方が……ずっと、“強い”のかもしれないな」



彼の隣、装束を脱ぎかけたゲンが静かに笑った。


「選ばれなかったからこそ、未来があるってことかもな。

フラクタルも、記録も、祈りすらもいらない。

ただ、生きてていいって――それ、めちゃくちゃ強いよな」



彼らは気づいた。


世界が崩れてなお、

誰にも注目されない場所で、確かに**生きる者の“連鎖”**が生まれ始めていることを。



それは杭にも、記録にも、触れられなかった者たちの――

未来そのものだった。



青い光がない場所で、蒼い心が燃えていた。



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