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また通る声の少年が聞こえた。
「あーあ、君の上司まで迷惑してる」
上司、乱歩さん…?
違うあれは乱歩さんが勝手に!
「そうやって又人の性にするんだ」
嘲笑を含んだ鋭い言葉を此方に向けてくる。でも少年の云っている事は事実だ。何も言い返せない。
水が満たされたバケツの中に入っているような息苦しさが続く。
「きっと敦裙も君の事を命の恩人なんて思っていないだろうね」
辞めろ。
「織田作もきっと悲しんでいるよ」
辞めて。
「誰も君の事なんか信じていないよ」
頭が割れる程の頭痛と耳鳴り。
頭を抑えてうずくまる。
違う、私はッ
「本当に君に人が救えると思ってるの?」
「醜いね」
***
はっと目を覚ます。
白い天井に薬品の独特な匂い。
「医務室…?」
関節の痛みを何とか堪えて上半身のみ起き上がる。左手首に違和感を覚え、視線を移すと包帯が異様に丁寧に巻かれていた。
与謝野先生が巻いてくれたのか、つまりあの痕も見られた事になる。
ガラガラと扉を開く音がする。誰かが中に入ったか、逆に誰かが医務室を出たか。
「与謝野さん、太宰は起きた?」
乱歩さん、一番来て欲しくない人物だった。
服の擦れる音で起きたのがバレないようにその場で時が止まったかの様に静止した。
「否、未だ判らないねぇ」
「…御免与謝野さん、一寸太宰と僕だけにして欲しい」
与謝野先生は驚いていたのか少しの沈黙があり其れから勿論いいよ、と許可を出した。
ガラガラと再度扉が開く音がする。今は多分乱歩さんと二人きりだ。
「太宰、起きてるのは判ってるよ」
此方に向かってくる足音が段々と大きくなってくる。
緊張からだろうか、息が乱れてきた。
「太宰」
ピシャと音を立ててカーテンが開く。
窓から漏れた日光がカーテンという障害物が無くなったことで私にダイレクトに光を当ててくる。
「与謝野さん以外にはあの事は話していない」
私を安心させるかの様に乱歩さんは云った。
だが私が安心したのは事実だ。
「乱歩さん…」
唯、”迷惑をかけて済みませんでした”と云えば佳いだけなのに喉に突っかかって声が出せない。代わりといってか胃酸が込み上げてきた。
「大丈夫だ、太宰」
乱歩さん優しく私の背中をさすってくれた。
今迄堪えてきたものが爆発してしまったのか涙が一粒、また一粒出てきて止まらなくなってしまった。
情けない、その気持ちでいっぱいだった。
数分して、気持ちも涙も落ち着いてきた頃乱歩さんが口を開けた。
「何故其れをした?」
私の左手首を指して云う。
理由、?理由なんて無い。…否、あれ?私は何故、こんな事していたのだろう。
「判らないです」
「…君の友人と関係が或るの?」
友人。私の唯一の友人、織田作之助。
“人を救う側になれ”
「まぁ、そうです…」
「そうか」
乱歩さんがそう云った後は二人共、何も話さず目も合わさず唯時間が流れていった。
その沈黙を破ったのは乱歩さんだった。
「別に辞めろ何て云わないけどさ、今回みたいに限界がくる前に誰かに相談してね」
昨日、少年に云われた言葉が脳裏によぎった。
“君が仲間を心から信用してないからだよ”
相談。それは信用し合っているもの同士でないと出来ないもの。私は、その相談を探偵社の誰か、にする価値があるのだろうか。
「未だ顔色も悪いから寝てなよ」
「ありがとうございます…」
私が何も云えないでいると、乱歩さんがそう云って、医務室から出ていった。
私は先程泣いて赤くなった目を擦って又眠りについた。