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襲撃兵たちは、まだ早朝にも関わらず、装備を万全と整えて、森林街の近くの岩肌に潜んでいた。
数は……数百人は見て取れる。
「どうするんですか?」
「もう一度、あのランガンって人と話してみる……」
「きっと、グレイスさんが何度も交渉を試みているはずですよ。赤の他人が言ったところで……」
「分かってるけどな、アゲル。なんでだか、胸が高鳴って引けないんだよ……!」
僕の震えは、もう既に止まっていた。
「カナン、戦闘になった場合、ここからあの岩の壁を破壊して欲しい。兵士には絶対近付かないこと」
「わかった……」
「また気絶作戦ですか? 時間稼ぎですよ」
「時間が稼げるならそれでいいさ」
そして、僕とアゲルは襲撃兵たちに向かう。
「なんだ? お前たちは!」
「ランガンさんと話したいんです。どこにいますか?」
「隊長は襲撃前の作戦会議中だ! どっか消えろ!」
「なら、待ちます」
「邪魔だって話してんだよ! 観光客かなんだか知らねぇが、森林街の連中共々殺しちまうぞ!」
僕たちを相手していた兵士たちは、脅すように武器を構えた。
「なら、止めます……!」
そして、僕は光剣を兵士たちに向けた。
「先に言っておきます。僕はふざけて非戦闘員と言っているわけではありません。魔法に制限が掛けられているんです。自身のみの浮遊と、対象の時間を三秒だけ止めることができます。でも、この数が相手だと……」
「アゲル、そしたら飛んで僕を見ててくれ。僕が抑え切れずに敵の襲撃に遭いそうな時、その対象に時間を止める魔法を使って欲しい」
「……分かりました」
兵士たちも、武器を構えた僕を見て臨戦態勢を取る。
「ランガンのところまで突き進む」
“風魔法 フラッシュ”
そして僕は、大勢の中に風の勢いに任せて突っ込んだ。
適時、光剣から風魔法を放ち、敵を一掃。
誰一人殺すことなく、僕は敵の群衆の中を飛んだ。
「岩魔法 ブロック!!」
しかし、兵士たちも黙って見ているだけではない。
岩の魔法、巨大な防壁が僕の前方を塞いだ。
「風じゃ破壊できない……!」
「調子に乗るな! ガキが!」
その途端、僕の背後から剣が襲い掛かる。
「 “光魔法 オーバー” 」
アゲルの魔法か……!
敵は剣を振り上げたまま静止していた。
しかし、これも三秒限りだ……。
「吹き飛べ!!」
僕は風を放ち、静止した兵士を吹き飛ばした。
やがて、戦闘の風景を見ていたであろうカナンの弓矢が上空に放たれていた。
これで爆破すればかなりの時間稼ぎになる……!
「 “岩魔法 クローズ” 」
その途端、弓矢は空中で岩に包まれてしまい、その中で起爆し、小さな瓦礫が降り注いだ。
「あなたは……」
そして、僕の足も岩によって動かせなくなっていた。
「ランガンさん……!」
「グレイスが連れて来ていた奴だな。あまりナメるな。これでも第二部隊長だったんだ」
そう言うと、平然とした構えで一気に兵士たちの乱れた群衆をまとめ上げた。
「副隊長リュークに続いて特攻兵はもう向かえ。森林街 兵士長の緑の戦闘服を着たバルトスには近付くな。必ず出てくるはずだが、俺が相手をする」
そして、兵士たちは、副隊長リューク呼ばれた赤髪の男に連れられ、森林街へと向かってしまった。
「流石はグレイスの連れて来た奴だな。こんなに兵士たちを気絶させちまうなんて」
ランガンは、周囲を見回りながら僕に近付く。
「でもな、こっちも覚悟してやってんだ」
ランガンは、手に持っていた小石を僕にぶつけた。
「大人しくそこで待っていてくれ。岩魔法 クローズ……」
僕の全身は岩に覆われてしまっていた。
「ヤマト〜、聞こえますか〜?」
この声は……アゲルか……?
暗闇に閉ざされて暫く経ってしまっている。
「は、早くここから出してくれ!!」
すると、外でゴソゴソと音が聞こえる。
「んじゃ、カナンちゃんやっちゃって」
「本当にやるよ……?」
ゴォン!!
その瞬間、僕を覆っていた岩石は、巨大な爆発音と共に破壊された。
「カナンの爆破で壊したのか!?」
「じゃないと、この岩を壊す術ありませんし。こっちも大変だったんですよ。ヤマトの身体に危害を加えない爆破の正確な距離を測るの……」
「そ、それより兵士たちは……?」
何百人も控えていた兵士たちは、誰一人として忽然と姿がなくなっていた。
「もうとっくに手遅れです。ヤマトが岩魔法に封じられてから二時間は経ちましたかね……。恐らくは、岩の中に昏睡させる花の種でも忍ばされていたんでしょう」
「眠らされていたのか……僕は……」
「もう手遅れですよ、何もかも」
そして、時間は二時間前に遡る
副隊長リュークに連れられた特攻兵たちは、森林街を目前として一人の男に立ち塞がられていた。
「バルトス……随分仕事熱心になったものだな……」
森林街 兵士長 バルトスである。
誰よりも早く、襲撃兵たちの襲撃を予見し、先陣を切って守りに来ていたことに、襲撃兵の全員が思いも寄らない事態だった。
何故なら、森林街 兵士長 バルトスは、荒野地帯 総兵士長 グレイスと同等の力があると最重要人物として危険視されていたからだ。
だからこそ、先人は切らず、最後の要として立ち塞がるものだと予測していた。
「荒野地帯 元第三部隊長 炎砲のリューク。君の炎魔法で樹木を焼かれるのが一番恐ろしいのでね」
「いくら水の番人と名高いアンタでもな、この数を相手にいくら壁になれるかな!!」
すると、バルトスは両手を広げた。
「 “水魔法 スプラッシュ” 」
ズォ!!
バルトスが魔法を唱えると、バルトスを中心とし、森林街と荒野地帯を隔てるように、巨大な水の壁が出現した。
「さあ、これで誰一人も通れない」
そして、バルトスの周りには緑の服を着た森林街の兵士たちが、襲撃兵たちと向かい合う。
激しい内乱の火蓋が、切って落とされた。
「俺が相手で残念だったな、リューク。お前ほどの逸材なら、自然街の兵士にも欲しいほどだ」
内乱が始まってすぐに、リュークはバルトスの水球の中に閉じ込められてしまった。
「こんな早くにバルトス様が待ち伏せているとはな……。裏切り者でもいたのか……?」
「襲撃隊長様のお出ましだな、ランガン。兵士を辞め、襲撃部隊として隊長の座に着いた気分はどうだ?」
「最悪な気分だよ、バルトス……!!」
緑の服と茶色の服の兵士たちが様々な場所で音を鳴らして剣を振るい合っている中、ランガンとバルトスは睨み合って向かい合っていた。
「 “岩魔法 クローズ・ロア” 」
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
ランガンは詠唱と共に、ゴーレムの如く大きな肉体に変貌していき、荒野には大きな巨体が現れた。
「自らの肉体に岩の鎧を纏わせ、岩魔法により膨張、ゴーレムのように戦うランガンの戦闘スタイル。無敵を誇る岩石の破壊力と防御力か……」
ランガンは巨大な岩の拳をバルトスへ向ける。
「流石にこの破壊力を止めるのは至難の業だな……!」
バルトスはランガンの攻撃を大きく退いて避けた。
そこに、雷を放出させ、水球に閉じ込められていたリュークを助けた男が現れた。
「遅くなりました!!」
「お前は……! 戻っていたのか……!」
元第四部隊長 二剣の雷牙 レーラン。
グレイスの一番弟子だった男だった。
レーランは更なる強さを求めて旅に出たきり、姿を現してはいなかった。
「元第二部隊長ランガン、元第三部隊長リューク、元第四部隊長レーラン。流石に骨が折れるな……!」
バルトスは三人の元部隊長たちと相対していた。
そして、現在へと時間は戻る。
僕たちは、既に内乱の起きてしまっている現場へは向かわずに、アゲルの案内に従って岩石地帯を歩いていた。
「どこに向かっているんだアゲル……。もうここからでも戦いは見えているし、早く救援に……」
そして、アゲルは立ち止まる。
「なっ……なんで……!」
岩肌に静かに腰を下ろし、激しい内乱を遠くから見物している男の姿があった。
「グレイスさん……!」
そこに居たのは、誰よりもこの争いを止めたかったはずの、グレイスの姿だった。