コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(気まずい……。すごく気まずいんですけど……)
奈美は、検査作業をしながら、背中に刺さる二つの視線を感じていた。
その場の空気が微妙になったのをリセットするように、谷岡が軽く咳払いをし、豪へ作業の説明を再開した。
「検査済みラベルを貼り終わったら、箱詰めして完成、緩衝材を入れ、梱包して発送という形になります」
「なるほど。丁寧に検査作業をしているのですね。少しの間、検査業務を見学させて頂いてもよろしいでしょうか?」
(え? 見学するの!? めちゃめちゃ緊張するし……!!)
心の中で叫んでいる奈美は、相当混乱している。
「どうぞ、ご覧下さい」
谷岡と豪が無言のまま、奈美の作業の様子を背後から見学していて、早くこの場から立ち去ってくれないか、と思ってしまう。
恥ずかしいやら、仕事がしづらいやら、脳内が取り乱し状態やらで、もう本当に勘弁して欲しい。
機械が作動している音だけが単調に響く中、奈美は心臓が口から出そうな気持ちを抑え、淡々と検査作業を進めていく。
どれくらい見学していたのか。
二〜三分程度だと思うけど、谷岡と豪が何十分とその場にいたように感じた。
「作業中にお邪魔しました」
豪がニコリと奈美に微笑みかけると、彼女も引き攣りそうな笑みで、
「ありがとうございました」
と、軽く会釈をする。
「それでは、行きましょうか」
「はい」
谷岡と豪が言葉を交わし、作業場を後にすると、奈美は大きくため息をついた。
ある意味『拷問』と呼べる工場見学が終わって以降、時間の流れが、あっという間に過ぎていき、退勤時刻の十七時を知らせるチャイムが鳴った。