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「奈美ちゃん、お疲れ! また来週ね〜」
「お疲れ様でした」
同僚と挨拶を交わした奈美は、作業場の後片付けに取り掛かっていた。
金曜日のため、この一週間で溜まったゴミを出しに、一度会社のゴミ集積所へ行くために外に出る。
大量のゴミを捨てた後、ロッカールームへ向かい、備え付けの鏡を見ると、案の定、作業着と顔、マスクが薄汚れていた。
(やっぱり汚れてる……。一旦作業場へ戻るかな……)
作業場へ足を運び、身体全体にエアーを掛け、ロッカールームへ戻って着替えをする。
念のため、もう一度鏡を覗き込みながら、後ろで纏めた髪を解き、ブラシで梳かした。
(まさか……見学で来社した向陽商会の方が…………豪さんだったなんて……)
私服に着替えている奈美の手が止まる。
豪は、検査の業務をしているのが奈美だという事に、気付いていた。
目が合った瞬間、彼の瞳が、僅かに大きくなっていたから。
(あの豪さんの様子だと……完全に身バレしたよね…………)
ロッカールームに映る奈美の表情が、疲労感で滲んでいる。
重い足取りで職場の玄関を出ると、すぐ近くで谷岡と豪が雑談していた。
取引先同士、かつ担当者同士で付き合いが長いのか、時折笑っているのが見える。
二人の前を通り過ぎる時、
「お先に失礼します。お疲れ様でした」
と一礼した後、二人の声がシンクロするみたいに、
「お疲れ様でした」
と会釈してくれた。
ほんの一瞬、豪と目が合うと、うっすらと笑みを浮かべている気がして、ドクっと鼓動が打たれる。
奈美は、消えたい一心で、そそくさと職場を後にした。