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「で……桑名さんは?」
両親が許した、とでも聞きたいのか、奥様はご主人様を見つめている。
でもね、あなたも……遥香レベルなのよ。
「ひとつ聞いてもいいですか?あなたは娘が冤罪事件を起こした、その被害を受けた者の名前を知っていますか?」
私が口を挟んだことに眉をひそめた奥様は、すぐに返事をする。
「もちろんよ…桑名、なにさんかは忘れたけれど…」
「さすが、お二人も同じ穴の狢。息をするように嘘も言える母子……桑名が被害者ではないです。事件を起こした本人は、事件を忘れていて母親も同じレベル…これでは謝罪されようが意味もありません。もう……もういいです…」
終わりたい……と思った。
あとは彼女たちが苦しみを抱えていけばそれでいい。
「そうだね、カメラを止めて、あとは中で話をしよう」
「社長、最後にこれを見ておられる多数の中園関係者の皆様へ、挨拶をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん。大切なことを忘れるところでした」
篤久様親子は、会社モードというのか、社会的立場を考えたというのか、そういう口調に変わり、二人並んで私の前に立った。
そしてカメラは、しっかりと二人を捉えているようだ。
「本日は、株式会社大門製鉄のご令嬢と愚息の見合いなどというものを聞きつけてこちらをご覧になっている方が多いかと思います」
そうよね……このカメラマンの配信を見ているのは、そういう関係者が大いに違いない。
【奴隷家政婦】のフォロワーさんは、そんなこと知らないもの。
「大門様とも本日お話を致しまして、皆様へお伝えしてもいいとご了承を得たことも含めてお伝えします。まずこの見合いというのは名ばかりのものでございました」
「「何を言っているの?」」
甲高い声を揃えた二人は、戻っていた運転手さんが腕をピンと伸ばして制止する。
「今の声の主たちが、お出かけ直前で時間のない大門様の奥様を押し切る形で決めた日時であって、私たちも決定事項として聞かされました。お相手のあることですから、本日は丁重にお断りさせていただくつもりで、二人で大門様とお会いしたところ、全く同じお考えだということでございました。ご令嬢は先日起業されたばかりで、大変ご多忙にお過ごしだということでしたが、丁寧にご対応いただきました。私どもも事業の応援をしたくなるような女性、ご令嬢というのも大門様の傘の下におられるようで……そうでなく自立した素敵な女性とお伝えするのがいいと思っています」
そうなんだ……会ったけれど、お見合いはしていない感じなのか……もう私には何の関係もないけれど……と、私は篤久様の背中を見ていた。
「また、私事ではございますが……再び皆様へ、今回の見合いのような迷惑をお掛けするわけにはいきませんので、お伝えしておきます。私はこの母子と一切の関係を切りますので、中園を名乗って何かを言われた際には聞き流していただければと思います」
「「切る?」」
「離婚という言葉では、二人まとめて関係が切れないのでお言葉を選ばれたのでしょう」
ひときわ甲高い声が揃い、その隣の運転手さんがすかさず補足する。
離婚だけでは、遥香が残ってしまうのか……二人とも切る決断をされたということなんだ。
「では、今後一層のご指導ご鞭撻を御願い申し上げて、本日は失礼いたします」
ご主人様の言葉に合わせて、篤久様も頭を下げて終了。
「ありがとう、助かりました」
「いえ、このままここで一部屋借りられますか?アーカイブや、ショートの編集、サムネも作ってしまいたい」
カメラマンさんが篤久様にそう言うと
「もちろんです。田中さん、彼を応接室に通してください。広瀬さん、私たちはリビングに移動しますので、そこで真奈美さんの手当をお願いします」
「「承知いたしました」」
すぐに皆が動き始める。
腰が抜けたようになっている奥様は遥香にぶら下がるようにして立ち、遥香は
「しっかりしてよ、ママ。言っていたじゃない……婚姻期間に築いた財産は夫婦のものなんでしょ?離婚したってその半分はもらえるって……前に二人で調べたし、大丈夫よ。こんなところで晒されたまま生活出来ないもの。お金があれば生活出来るわ。中園だもの、大金に違いないもの。出て行ってやりましょう」
汗をダラダラと流しながらも、すごいセリフを放った。
コメント
8件
この母娘は追い出されたらどこに行くんでしょうかね。 生きていくには働かないとね。 果たして使ってくれるかしらね
財産分与狙いかもしれないけど、損害賠償請求されたらマイナスじゃない⁉️ それに調べてたんだね😏 じゃ出ていってもらいましょ😎
厚顔無恥…あら、日本語にはこの母娘にピッタリの言葉がありましたわ🤣