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#ミステリー
鬼霧宗作
686
みおん
5,211
式場についた。
今は夕方の16時半。
今回の葬儀はイブニング葬と呼ばれるものだ。
通常の葬儀は午前中に行うが、イブニング葬は夜に行い、出棺や火葬は翌日に行うのだ。
最近は昼間に参加しづらいことや高齢社会で火葬場等の予約が取りづらい状況から、イブニング葬を選択する人が多いらしい。
周りをよく見渡すとあまり人は来ていない。
みんな喪服を着てるが、髪色やメイクが派手な人が多い。
軽音楽部時代の面々は少なからず分かるが、他の人はキャバクラ時代の同僚か?
1人の男がこちらの方へ歩み寄ってくる。
亜蘭君だ。
「小田さん、佐藤さん。この度は姉の葬儀に出席してくださって、ありがとうございます」
「久しぶり、亜蘭君」
「亜蘭君、久しぶり。大丈夫か?」
学が心配そうに聞いた。
大丈夫じゃなさそうだが。
何回も瞬きをしている。
チック症らしい。
「正直辛いです。自分の家庭は……その、あまりいい環境ではなかったので……姉には東京で幸せになってほしいと思っていましたから……」
亜蘭君が涙をこぼした。
綾葉の家庭環境はよく知ってる。
綾葉は母親が再婚して、再婚相手との間に亜蘭君が生まれた。
再婚相手の父親は綾葉に冷たく、手を上げることもあったそうだ。
母親はそれを見ているだけ。
2人の間に生まれた亜蘭くんだけ可愛がられて生きてきた。
高校時代は碌でも無い男と付き合っては別れて、父親からも危うく犯されそうになったとか。
それが本当かどうかはわからないが、家庭環境が良くないのは確かだ。
実際に両親は葬式にも出席していない。
そんな経験をした人でも平然と人に嘘を吐き、捨てられるんだな。
亜蘭君も色々と可哀想になってくる。
亜蘭君の病気のことは聞いていたから、何回か綾葉に大丈夫か聞いていた。
口では「心配してる」と言いつつ何もしようとしない。
ほったらかしの状態だった。
それでも亜蘭君は優しい子だ。
今回の葬式も亜蘭君が仕切っているらしい。
「亜蘭君も辛いだろう。何かあったら頼ってくれ。力になるよ」
学が亜蘭君の肩に手を乗せて言った。
「………ありがとうございます」
涙を拭き、一礼して戻っていた。
「ごめん……俺………ちょっとタバコ吸ってくる」
亜蘭君には悪いが、色々思い出して気が滅入ってしまった。
「あんまり吸い過ぎも身体に毒だぞ。気をつけろよ」
俺は「わかった」と答えつつ喫煙所に向かった。
喫煙所に着いたらさっき見たキャバ嬢らしき3人組がいた。
軽く会釈するが、俺のことは気にせず話に夢中だ。
「あの女がやっと死んでくれて清々したわ。少し顔とスタイルがいいからって図に乗ってたし」
「嘘を吐きまくって男を騙してたんでしょ。男に合わせて髪とか服装とかも変えたりしてさ」
「今回の葬儀代も、あのバカの死に顔を見るためのチケット代だって思えば安いものよ」
聞こえてきた会話の内容に頭が真っ白になった。
なんだ、この会話は?
人が死んだ時に口に出す言葉か?
確かに俺も憎んでいた。
聞いた当時はいい気味だと思っていた。
でも許せなかった。
「すみません!」
「ん? なに、あんた?」
咄嗟に声が出てしまったが、もう言うしかない。
「綾葉との関係は知りませんが、悲しんでる友人や親族の方だっているんです。あまりそういう発言は……」
「何? あんたもしかしてあいつの昔の男?」
「もしそうだったらなんだっていうんですか?」
「あはははは! 最後どんな振られ方されたのかわかんないけど、よくあんなやつのこと庇えるわねー」
「庇うとかそんなんじゃなくて……」
「そんな痩せこけちゃって、きっと酷いことされたんでしょうねー」
ダメだ。
相手は3人いて、次から次へと痛い言葉が飛んでくる。
「最後までキャバやってイケメンホストと一緒に死ねたんだから、あいつも幸せなんじゃないの? ねー」
ん?
ちょっと待てよ?
最後までキャバってどういうことだ?
俺と付き合う時には足を洗ったって言ってたよな。
「あの……最後までキャバって?」
「あんたもしかして1つ前の彼氏? もしかして知らなかったの? キャバをやりながら男に貢がせて自分が男に貢いでたってわけ! あとパパ活とかでオッサンに抱かれて金ももらってたみたいだし、結構稼いでたんじゃない?」
「嘘だ……」
「嘘じゃないわよぅ。よーく思い出してみなよ。2人で会話したとき、なんかおかしなことはなかった? 矛盾してた話とか?あんた間に受けそうだからねー。信じちゃったんじゃないの?」
「そんな……」
心当たりがあった。
おかしな点がいくつも……。
「あんなにニュースでキャバとホストの猟奇殺人事件って騒がれてるのにぃ、何も知らなかったのぉ?」
当たり前だ。
殺されたのを知って、好き好んでニュースを見れるわけがない。
「もしかしてあんたが犯人? もしそうならよくやったって褒めてあ・げ・る」
そしておれの耳元で
「捨てられてみっともないけどね……。キャハハハハ」
最後の1人がそう言い残し、喫煙所から去っていった。
そうか……。
付き合った時からか……。
俺らが過ごした思い出はなんだったんだろう……。
コメント
3件
ああ、これは…読んでて胸がぎゅっとなったわ。主人公がずっと信じてた思い出が、実は偽りだったって知る瞬間の絶望感が痛いほど伝わってきた。綾葉の葬儀でのキャバ嬢たちの会話も、辛辣すぎて腹立つけど、彼女の本当の姿を暴く重要なピースだったんだな。最後の「俺らの思い出はなんだったんだろう」って呟きが切なすぎるよ…。