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「じゃーんっ!!」ドサッ
聖奈から掛け声と共に渡されたのは……
「これ、全部にか…?」
「うん!よろしくねっ!」
書類の山だった。
ここはいつもの執務室。
昨晩の話し合いを簡潔に説明すると、フランチャイズ化が進んだという話だった。
それに伴い、俺のサインとハンコが必要なのがこの書類の山だ。
紙なのに…20キロくらいの重さがあるぞ……
「この付箋が貼ってある所だな?」
こういった書類に俺が目を通すことは少ない。
なぜなら聖奈がちゃんと読んで、付箋や印をつけてくれているから、読まなくとも安心してサイン出来るからだ。
積み上げられた書類の山を見ると泣きたくなるが、聖奈の苦労はこんなモノではないことを知っている為、泣けるはずもなく、感謝の言葉しか出すことは許されない。
「ありがとう。聖奈も少しは休めよ?」
「ダーリンッ、ありがとっ!でも大丈夫だよ!楽しいからねっ!」
ダーリンって…初めて言われたわ。
魔王から雷ビキニ少女にジョブチェンジか?
だっちゃって語尾につけられるのか?
二人きりじゃないと恥ずかしいぞ?
「じゃあミランちゃん。見張りよろしくね?」
「は、はい。任せてください」
ダーリンなんて言うからミランが臆しているぞ。
一体どんな翻訳がされたのだろうか?
知る由もないが。
「悪いな?ミラン。見張りなんていらないって言ったんだが…」
大体なんの見張りだよ……
サインとハンコ押すだけならサボらんし、サボれんわっ!
「いえ。問題ありません。それについては前回似た様な時に、セイさんがお酒を飲んで途中で寝てしまったことが原因かと思います」
「……あったな。そんなこと…」
酔っていたから忘れてたわ。
アレどうしたんだ?
まぁ聞くのが藪蛇なことくらい、俺でもわかるから聞かないけど。
俺は真面目にサインすることにした。
サインの魔法ってないのかな……
書類の山に、早くも挫けそうになった。
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「この度の戦により、我が国は連邦の領土を大きく切り取る事が出来ました。その範囲は王国と同等程度になります。
連邦との新たな国境は山脈になります。そしてその山脈のお陰で連邦は易々と攻めてはこれません」
山脈山頂に点在するように山小屋兼見張り小屋を建てた後、全軍に交代で長い休暇を与えたカガリ・ショー軍務卿は王都へと帰還していた。
所謂戦後処理の一つだ。
そして帰還した軍務卿は戦果を始めとして、数字しか理解できない貴族たちへと数字のみを伝える。
最後に総括として上の事を報告した。
「大義であった」
玉座に座り、一言も遮る事なく静聴していたニシノアカツキ国王は一言、軍務卿を褒めた。
「はっ!ありがたきお言葉にございます!」
玉座への段差前中央で片膝をつき報告をしていた軍務卿は、頭を下げてそれへと応える。
「では、次に。軍務卿からの報告を纏めますと、我が国に足りないものは多く見られます。
皆様も次の話がしたいことかと思いますが、まずはその足りないモノを補うことが先決かと思います。反対の方は意見を」
長らく安定の時を過ごす国では、君主は次第にお飾りとなっていく。
この国も例に漏れることはなかった。
軍務卿へ労いの言葉を告げた後、いつもの様に宰相へと視線を向け、次を促した。
そして宰相はこの報告会が開かれる前に軍務卿と国王、三者のみで行った事前会議で決まった事柄を、顔色一つ変えることなく伝えた。
宰相の言葉に浮き足立っていた貴族達の心が沈む。
戦争にはいついかなる時も先立つ物が必要なことを思い出したのだ。
国力を削がれる事なく快勝した王国ではあるが、それは国単位の出来事であり、貴族達へ平等に褒賞があるはずもない。
論功行賞では、新たな武器を得て王国を護り、連邦攻めの指揮を執った軍務卿が一番に名前を呼ばれ、次点では多くの兵を国へ預けた貴族の名が連なった。
何の忖度もないこの行賞に対し、貴族達は沈黙を選ぶ他なかった。
王国が新たに手に入れた領地は話し合いにより分配されることに。
この話し合いが一番長かったことは言うに及ばず。
この戦争で得をした貴族は少なく、得た者失った者の差は酷く顕著であった。
(これで良い。変に国が纏まると次の戦の声が上がってしまう)
軍務卿は静かに場を見据えながらそう考えていた。
これには宰相も賛成しており、貴族達に蟠りが残る戦後処理へと態と誘導したのだった。
軍務卿と宰相は確信している。
次の侵略戦からは全て負け戦になると。
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「明日はよろしくね」
書類にサインし終えてから数日後、聖奈から言い渡された仕事に俺は項垂れていた。
そして追い討ちをかけるかのような魔王の微笑み……
「どうしてもやらなきゃいけないのか…?」
「ケジメだもん。ビシッとカッコよく決めてねっ!」
はぁ…気が重い……
翌日のことを思うと、食事が喉を通らない。
とりあえずエリーとコンに餌付けでもして気を紛らわせよう……
翌日の昼前に、WS本社ビルへとやって来ていた。
このビルには他にもテナントが入っているが、WSの自社ビルである。
ドブトリー遺産で建てた10階建の立派なビルだ。しゅごい。
あれ?遺産?奴は死んだっけ?
…まぁ、それはいいや。
「最後になりましたが、ここで我が社の創設者であり、全権を担っている代表取締役社長の東雲聖から、皆様へ最後の挨拶があります。社長。どうぞ」
俺にそう告げる綺麗な女性は聖奈ではない。
聖奈は俺の横で澄まし顔を決めて座っている。
これは所謂web会議という奴で、立派な会議室には日本の役員が大勢いて、世界中の支社へと繋げられているカメラがこちらへと向けられていた。
「皆さんこんにちは。私は長らく表舞台から退いていた為、初めましての方もいるかと思います。それについては深く謝罪を」
俺はカメラに向けて頭を下げる。
横にいる通訳さんは頭を下げないんだな。
おっと。余計な事を考えている余裕なんて俺にはなかったな。
「皆さんの頑張りによりWSは大きく成長しました。横にいる聖奈と二人で始めた小さな会社が、たった数年でここまでのモノになったのは皆さんのお陰です。それについて深く感謝を」
もう一丁頭を下げる。
無料だからなっ!!いくらでも下げるぜっ!!
「皆さんも知っての通り、我が社は明日から体制がガラリと変わります。残る人、巣立つ人、それぞれだと思いますが、先程の感謝の気持ちは変わりません。
簡単に言うと、今回の改変は皆さんへの感謝の印の一つに過ぎません。
聖奈と二人、どうすれば皆さんの貢献へ報いることが出来るのかを、毎晩の様に話し合っていました。
そして一つの答えを出しました。それがフランチャイズ化であり、皆さんが独立出来るシステムを作るというモノです。
私に出来ることは少なく、皆さんの頑張りがあってこそのフランチャイズ化となり、申し訳ない気持ちも未だ残っています。
それはこれからのWSの発展でお返し出来たらな、と。
短いですが、これを皆様への感謝と挨拶に変えさせていただきます。
WS代表取締役社長、東雲聖」
これまでで一番深く長いお辞儀をカメラへと向けた。
横に座っていた聖奈も同じ様にしているのが横目で確認できた。
はぁ…もう二度とやりたくない……
「お疲れ様っ!!聖くんっぽくて良かったよっ!」
いつもの魔王は鳴りを潜め、可愛い奥様がとびきりの笑顔を向けて飛びついてきた。
誰もいない社長室でそれを受け止めると『これが愛の重さか…』なんて、知ったかを呟いてみた。
「私の愛の重さはこんなものじゃないよ?」
「怖いからやめて…冗談だから…」
聖奈ならアイスブロックと一緒に落ちてきそうだ……
「ふふっ。これからは時間が出来ちゃうね!」
フランチャイズの副産物の一つに、聖奈とミランに時間が出来るというものがある。
「俺は元々暇だけどな」
「聖くんは好きなことを好きなだけしてくれた方がいいの。もちろん深酒はダメだけどね!」
うん…俺の唯一の楽しみだけは制限するんだね……
「でも、聖奈のことだから、ゴロゴロはしないんだろ?」
「うん。やりたい事があるの。その為にはまだ準備が必要だから、セイくんには別のお願いがあるんだ」
ここでは聖のはずだが?コワイ……