「なーんだ落ちこぼれ天使じゃん」
そう言われてどれほど悲しんだか。
物心ついた時から、ボクは知能天使だった。
上からの命令に従って、人間を消したり、ケルビムさんの実験用として人間を生け捕りにしていた。
そんな退屈な日常だったからか、ある時人間を助けた。
それが…セラフィムさんにバレちゃって…。
ボクは……堕ちてしまった。
最後に見たセラフィムさんとケルビムさん…そして…
ちょっとだけ…恋心を抱いていたスローンさん。
あの三人の用済みのボクを捨てる表情は、ボクには絶望要因にしかならなかった。
堕天使になってすぐの頃。
悪魔執事に出会った。
「大丈夫ですか?」
多分だけど…買い出し中だったのだろう。
路地裏で泣いていたボクに手を差し出してくれた。
知能天使だった頃のボクは、悪魔執事なんか邪魔者にしか思わなかったけれど
堕ちたボクには悪魔なんか仲間だと思った。
沢山の執事達と出会って…毎日が楽しかった。
なのに…………。
「あれ?ウトじゃん」
あんなにも出会いたくなかったあいつと出会ってしまった。
「何故主様の事を知っているのですか!」
ボクを庇ってくれる悪魔執事達。
けれど…それも数分で終わってしまった。
「その子…元知能天使だよ」
そうあいつが言った時…。
優しかった皆の目が急に鋭くなった。
そんな目を見てボクは、無くしたはずの羽が生えてしまった。
あの時の真っ白な羽とは違う…真っ黒い羽。
憎かった。
その色が…仲間だと思っていた人達が裏切ったようで。
大好きなのに…ボクを殺そうと追いかけてくる。
一瞬振り返った執事達の表情は…
悲しみだった。
何故そんな表情だったか分からないが…
とにかくボクは必死に逃げた。
『はぁっ…はぁ…ここまで来れば…安心、かな』
疲れた体をその辺にあった木に預ける。
少し休んで、綺麗な小川の水を一口飲みまた休んだ。
そんな時… ガサガサと茂みが揺れる音が聞こえ、まだ疲労が溜まっている体を無理やり起こして警戒する。
すると…。
「あ、やっぱり居た」
「ここに居ったのか」
見慣れた2人が近寄ってきた。
この2人は、べレン、シロ。
新しく入ってきた執事で、仲が良かった執事達だ。
確か…屋敷にお留守番していたんじゃ…?
そう思って言ってみた。
『べレンさん…シロさん…何故ここに?』
「主様が中々帰ってこないからさ、ちょっと遠い所にいるのかなって」
「お前…よく一人で遠くへ出かけるだろう…まぁいつも帰ってくれるのだが」
疲れているボクの体をよしよし。と撫でてくれるべレンさん。
水を飲ませてくれるシロさん。
この2人になら秘密をバラしてもいいかも…。
何故かそう思い、ボクが元知能天使だということ。
今は堕ちて、堕天使になっているということ。
そして…悪魔執事の大半に追いかけられ、殺されそうだったこと。
「あ~今日依頼だったからね」
ん〜そっかそっか。と先程以上に撫でるべレンさん。
「そうか…」
口数は少なくても頷きは多いシロさん。
『え、あの…殺さないんですか?』
自分でも自殺行為だと思っていても言ってしまう。
それほどびっくりした。
「だって…あんなに一緒にいて襲わなかったんだよ?なら、殺さないよ」
「よく見ると羽が生えているのだな…美しい」
いつものように甘やかす2人。
やっぱり…この2人になら任せていいのかなと思った。
それと……。
「主様〜!」
『ムーちゃん!』
黒猫のムーちゃん。
この子もボクの事を信頼してくれる優しい猫ちゃんだ。
「僕は主様が元知能天使でも…ずっと主様の元に居ます!」
『へへ…ありがとうムーちゃん』
べレンさんとシロさんと一緒に追いかけてくれたのだろう。
それだけで嬉しかった。
「それで、どうするの?屋敷には…帰らないよね」
苦笑しながらボクを見つめる。
確かに…帰っても知能天使扱いされて最悪主として機能しない。
帰ったって意味が無い。
こっちだって帰りなくないし。
あの顔だけの16人の執事なんて…
大っキライ。
それよりべレンさんとシロさんと…ムーちゃんの方が
大スキ。
ならば…ボクの進む道はただ1つ。
『旅をして…アイツらから逃げたい…出来ることなら…君達も一緒に来て欲しいんだ』
そう願っても叶わないのが当たり前。
だって、3人は腐っても悪魔執事なんだから。
「いいよ」
そう言われた時、下を向いていた目を前に向けた。
『へ…?べレンさん…? 』
「一人ぼっちだと寂しいでしょ?べレン兄さんに任せてよ」
「お前が行くなら我も行く」
「僕も行きます!」
あぁ…そっか。
今、前にいる悪魔達は…ボクの事を第1に考えてくれる。絶対に。
どんな理由があっても…ボクの事だけ考えてくれる。
この悪魔達なら…快く旅に出れる。
そう考えられた。
『ありがとう、みんな!』
ほんと…キミ達のコトが…大スキで大スキで…仕方ない。
翌日。
『よし、これでいいかな』
「よく似合ってるよ主様」
動きやすい服装に着替えて、三人の前に立つ。
「ふっ、似合うではないか」
「可愛いです主様!」
昨日の出来事なんか忘れてしまうような朝だった。
「さて…行こうか主様」
「おい、べレンそれではすぐに悪魔執事の主だとバレるだろう 」
確かに。
この機会だ。
昔から憧れていた名前で呼んで欲しい。
『なら…[ナナ]って呼んで欲しいな苗字は…』
「なら、俺の妹っていう設定でクライアンはどう?」
『逆にいいの?嬉しいな』
そんな会話をしていると、じーっと嫉妬の目がこちらを向いていた。
「ごめんってシロ」
「……ふん」
シロのやきもちは健在だったようだ。
「あはは…」
ムーちゃんが苦笑いを浮かべるのがセットだ。
黒い羽は閉まって…人間のようになる。
『さて、旅を始めよう!みんな!』
「はーい!」
「あぁ」
「はい!」
元気な返事(1人を除く)を聞いて森を出発した。
堕天使ちゃんの逃亡旅。
コメント
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なるほど…今回別邸メインねぇ!楽しみ!