TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

恋愛感情はありません

一覧ページ

「恋愛感情はありません」のメインビジュアル

恋愛感情はありません

12 - 大好きって言って欲しいだけなのに

2025年06月07日

シェアするシェアする
報告する

「ねえ、優羅さん」


ある日の放課後。

いつもの屋上、曇り空の下、美咲が不意に口を開いた。


「私のこと、どう思ってる?」


優羅は、一瞬だけ呼吸を止めた。

その問いは、あまりにも無防備で、けれど決定的すぎた。


「……どう、って?」


「たとえばさ。“大切”とか、“必要”とか、そういうのじゃなくて――“大好き”って言ってほしい」


「……」


優羅は何も言えなかった。


“言いたくない”わけじゃない。

むしろ、ずっと言いたかった。


けれど、「大好き」なんていう言葉を口にした瞬間、

この奇妙で繊細な関係が“恋愛”と名づけられてしまうのが怖かった。


ふたりの間に流れているのは、“恋”ではない。

もっと深く、もっと壊れかけていて、もっと狂っている何かだ。


だからこそ――「大好き」と言ってしまえば、それが壊れてしまう気がした。


「……言えないの?」


美咲の声が、ほんのわずか震えた。


「言いたくないわけじゃない。でも……言葉にしたら、終わりそうで」


「終わるわけないよ」


「……ほんとに?」


「だって、私、優羅さんがいないと、死んじゃうもん」


その言葉は、冗談じゃなかった。

笑いながら言ったけれど、目は泣きそうだった。


「お願い、言って」


「……」


「ねぇ、大好きって言ってよ」


優羅は、美咲を見た。

頼るように、すがるように、自分を見上げてくる彼女の目が――あまりにも必死すぎて、怖かった。


「……美咲」


「なに?」


「私は――“あなたがいないと、生きられない”って思ってる。きっと、あなただけが、私の最後の居場所なんだと思う」


「……それって、“大好き”ってこと?」


「たぶん、そうだと思う」


「“たぶん”じゃなくて、ちゃんと言って」


「……美咲。大好きだよ」


沈黙。

一瞬、風の音すら聞こえなかった。


それから、美咲は何も言わず、ただ肩を震わせて泣き始めた。


「……バカだよね、私。そんな言葉、もらう資格なんてないのに」


「そんなこと、ないよ」


「ずっと欲しかったの。“大好き”って言葉。でも、もらったら余計に苦しくなるって、分かってたのに」


「……それでも、言ってよかった」


「うん……よかった。でも、ね――」


涙を拭いた美咲の表情は、笑っていた。


「たぶん、私……もっと、もっと欲しくなっちゃうと思う」


その笑顔が、少し怖かった。

欲望と不安と孤独が入り混じったような、破滅寸前の表情。


「たとえば、誰かが優羅さんに近づいたら、私……殺したくなるかも」


「……」


「優羅さんが、他の子と喋ってるだけで、全部壊したくなる」


「……分かるよ。私も、そうだから」


ふたりは、同じ闇を見ていた。


“愛してる”なんて、綺麗な言葉は使えなかった。

“好き”よりも、“必要”よりも、“狂気”に近い感情。


それでも、「大好き」と口にしたことで――

ふたりの関係は、一歩先の段階へと進んでしまった。


もう戻れない。


これから先、どこまで堕ちていっても、

それは「好き」のせいにされてしまう。


“ただ、大好きって言ってほしかっただけなのに”


たったそれだけの願いが、ふたりを壊していく。


それでも、ふたりは手を離さない。


それしか、生きている意味がなかった。


恋愛感情はありません

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚