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サンフィアは精霊の力と剣の強さを過信していた。そのことに気付かされたのか、しばらくうつむいてしまう。
「……幻術こそ我の得意としているもの。落ち着けば簡単に現状の苦しさから抜け出せる……。そういうことか」
独り言を呟いた後、サンフィアは神剣フィーサをミルシェに手渡し神経を集中させている。
「似合わないことをしても小娘が従うはずが無い。そのことにようやく気付いたようね。そうでしょう、フィーサ?」
ミルシェは手元に戻された神剣に向かって言い放った。すると、沈黙していた彼女が口を開く。
「小娘は余計な一言なの! 相変わらず性格が悪すぎなの。……それで、あのエルフはこの空間から抜け出せるなの?」
「風の精霊……フフッ、精霊だって落ち着いた状態なら力を思いきり出せるんじゃない?」
「それは、暗にあのエルフが口やかましいと認めているようなものなの」
「あなたこそどうして力を貸そうとしなかったのかしら?」
「……? 力って、何の力なの?」
アックたちと道が分かれた時、ミルシェは事前にフィーサと話し合っていた。性格的に面倒なサンフィアをどう扱うべきなのかと思い悩んでいたからだ。
「決まっているわ。あなた、魔法剣としても動けるはずでしょう? 彼女にも魔力があるのにどうしてただの両手剣の動きしかしなかったの?」
多少の魔力を有するサンフィアに対し、フィーサは全く動こうとしなかった。ミルシェはそのことが気になっていた。
「そんなの決まっているなの。イスティさまの魔力とは、まるで比べ物にならないからなの」
「ふぅん? やはり小娘はその程度の剣ということかしら?」
「分かってないのはおばさんの方なの! そもそも魔法剣はちょっとの魔力ごときで魔法剣になれるほど甘くないなの」
「――おばっ!? し、失礼なことを言うものね……あなたこそ何百年以上と生きているくせに!」
「そんなの知らないなの!!」
……仲間として協力していたはずの二人の仲はやはり良くなかった。
「おいミルシェ! 我は風の精霊を使ってまやかしなる空間を破る! 貴様はその剣を大事に抱えて衝撃に備えることだな!」
ミルシェとフィーサが密かに争っていると、行き止まりの壁を見つめるサンフィアの姿があった。どうやら精霊を使う準備が整ったらしく、壁の手前で何かを呟き始めている。
「……嫌だけど仕方ないなの。あのエルフの言うとおりにしてやるなの」
「それはあたしのセリフだわ。とにかく、あたしの傍から離れないことね」
「ふん!!」
サンフィアに言われた通り、ミルシェはとりあえずフィーサを抱えて防御態勢を取った。
そして――
「――我はエルフの賜りを備うる者。我の声を聞き、正常なる場所へと導け! 《シルフィード》!!」
サンフィアによって上位の風精霊が姿を現わした。精霊の姿はアックが呼び出す霊獣に似た妖精のようで、少女のようにも見えている。
サンフィアの周りを飛び回ったように見える妖精は少しして吹き荒れる激しい風を起こし始めた。すると、行き止まりだった空間がみるみるうちに崩れていく。
その直後、まるで黒い霧が払われるかのように真の光景が露わとなった。
「橋があちこちに……確かに違う光景だわ」
「やっぱり幻の影が悪さをしていたなの」
ミルシェとフィーサの眼前には一本道の水路が見えている。水が流れている水路には変わりはないものの、至る所に架かる橋の姿が広がっていた。
「……はぁっはぁっっ……ふん、これで満足かミルシェ? それと、我をたぶらかした神剣の小娘め……」
「あ、あら? あなたいつの間に気付いて……」
「魔力はともかく、エルフも中々やるなの。でもでも、上位精霊なんて使ったらしばらくは何も出来なくなるなの!」
フィーサの言葉通り、精神力や体力を消耗したサンフィアは苦しそうにしている。
「小賢しい小娘め。それを知りながら我を煽ったのだろう? ならば、この先からは貴様たちだけで何とかしろ! 我はしばらく剣も持てぬのだからな……ふぅっ……」
そう言うとサンフィアは息を切らせ、膝に手をつきながら疲れを見せている。
「むふふ、しょうがないなの。ここからはわらわが先頭に立って活躍してやるなの!」
フィーサはサンフィアをけしかけることに成功し機嫌を良くしたのか、人化して急にやる気を出している。
「呆れるわね……でも、これでアックさまたちに近付けることが出来そうだわ。面倒だけれど、防御魔法で彼女を守るしか無さそうね」
人化のフィーサを先頭に、サンフィア、ミルシェはようやく前へと歩き出した。