私は強くなる
放課後の教室。七瀬は机に肘をつき、スマホの画面を睨みつけていた。
『今どこ?誰といるの?』
『なんで返さないの?』
『さっきからずっと待ってるんだけど……』
通知は山のように溜まっていた。胸が締め付けられそうになる。
けれど、七瀬は決めた。
「もう……返さない」
小さく息を吐き、指先が震えるスマホを握りしめる。もう美咲に振り回されたくない。
沙也加との約束もある。今日はその時間を楽しむんだ。
放課後、七瀬は沙也加と駅前のカフェに向かう。笑いながらメニューを見る沙也加を見て、七瀬は少しだけ安心する。
「今日は学校のこと忘れられそうだな」と思った矢先、背後で声が聞こえる気がした。
『……美咲、また怒ってるかな』
無意識にスマホを確認してしまうが、返信はしない。沙也加は気づかず、七瀬の肩を叩いた。
「ねぇ、七瀬、どれにする?」
七瀬は笑顔で答える。
「うーん、私はやっぱプリンかな」
心の中では、不安と緊張が混ざり合う。美咲は今頃、どんな顔をしているのだろう。
その夜、七瀬はベッドでスマホを握りしめながら考え込む。
美咲は決して「普通の友達」ではない。束縛はどんどん強くなり、LINEも電話も止まらない。
翌日、学校で悠真が声をかけてきた。
「七瀬、昨日のこと……ちょっと聞いてもいい?」
七瀬の心臓が跳ねる。美咲の仲間が悠真に話してしまったのだ。悠真の表情は困惑していた。
「美咲ちゃん、最近ずっと……七瀬のこと気にしてるみたいで」
七瀬は言葉に詰まる。沙也加と過ごす時間を大事にしようと決めていたのに、また美咲の影が近づくのを感じる。
その日の放課後、七瀬は沙也加と一緒にプリクラを撮ったり、笑いながらお菓子を分け合ったりする。
久しぶりに、学校のことを忘れられる時間だった。
「今日は楽しかったね!」沙也加が手を振る。
七瀬も笑顔で応えるが、胸の奥に小さな恐怖が残る。
美咲はまだ、あきらめていない――そう感じずにはいられなかった。
スマホを確認すると、通知が数件残っていた。既読は付かない。七瀬は震える手で画面を閉じた。
「大丈夫……私は強くなる」
その言葉を自分に言い聞かせ、七瀬は明日からも、沙也加との時間を守ることを決めた。美咲の束縛に負けないために。






