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偽の証は、九月に、七枚、見つかった。八月の三十枚から、減っていた。壁の番号が、効いていた。四百の壁が、台帳になり、同じ番号が、隣の家の壁にあれば、三日で峠に届いた。
誰が作ったかは、わからないままだった。要は、探さなかった。ただ、偽の証が、作りにくい場所になった。作りにくい場所には、作る人間は来ない。
九月の半ば、四つの村の長が、峠の小屋に集まった。
大畑。隣村の長。ばあさま。佐久間。
集めたのは、佐久間だった。
「書いてほしい」佐久間は、要に言った。
「何をですか」
「市の、決まりだ。三冊。期限。組合。為替。壁の番号。全部、あんたの頭の中と、三冊の台帳の、あちこちに書いてある。一つの紙に、まとまっていない。わしは、諏訪の者に、市の決まりを説明するとき、毎回、違うことを言ってしまう」
「同じです」大畑が言った。「木曽の若い者に聞かれると、おれも、要に聞きに来る。要がいなくなったら、誰も答えられん」
要は、四人を見た。
「書くのは、僕じゃない方がいい」
「なぜだ」
「僕が書いたら、僕の掟になる。四つの村の掟じゃなくなる。他所者の掟は、他所者がいなくなったら、消える」
大畑が、少し、笑った。
「お前、まだ、それを覚えてるのか」
「覚えてます。正しかったから」
「なら、四人で書く」ばあさまが言った。「あんたは、横で、聞いてろ。わしらが間違えたら、言え」
*
三日かかった。
四人が、交代で、言った。要が、書いた。言葉は、四人のものだった。要は、ときどき、「それは、三冊の意味と違います」と言った。四人は、言い直した。言い直した言葉も、四人のものだった。
三日目の夕方、一枚の紙ができた。和紙。証と同じ紙漉きの家の。
『市の掟
一、一人を信じるな。三人で見て、三冊に書け。
二、一冊を信じるな。三冊を、三つの村に分けよ。
三、記録を信じるな。顔を見よ。顔を覚えよ。
四、証は、物の量を超えて作るな。上限は、三人が別々に数え、真ん中を取れ。
五、証は、半年で紙に戻る。貯めるな。回せ。
六、運の悪い者を、四つの村で支えよ。月に一枚、蔵に入れよ。
七、貸すときは、顔を知る相手に、知る仕事のために貸せ。遠くの他人に貸すな。
八、離れた市と話すときは、蝋で封じ、二人の印を押し、二人しか知らぬことを中に入れよ。
九、二つの市に二つの証があるなら、比率は両方で決めよ。五人で数え、真ん中を取れ。
十、証の番号を、自分の壁に書け。隣の壁と照らせ。同じ番号があれば、峠に持て。
十一、偽物を作った者を、探すな。偽物が作りにくい形に、市を変えよ。
十二、守れると思うな。侵入される前提で、それでも回る形を作れ。
木曽、隣村、下流、諏訪。四つの村。印四つ』
大畑が、印を押した。隣村の長が。ばあさまが。佐久間が。
要は、押さなかった。要の印は、証にはある。掟には、ない。
「これ、何だ」隣村の孫が、紙を見て言った。
「掟」佐久間が言った。
「掟は、知ってる。木曽にも、諏訪にも、四百年の掟がある。でも、これは、紙に書いてある。四百年の掟は、紙に書いてない」
「書いてない掟は、顔見知りの中でしか、通じない」要は言った。「書いた掟は、顔を知らない相手にも、見せられる。諏訪の人間に、木曽の掟を説明できる。塩尻の商人に、四つの村の掟を見せられる。それが、書く意味だ」
「憲法みたいだな」孫は言った。
要は、少し、驚いた。十九歳が、その言葉を使った。
「……似てる」要は言った。「憲法は、国が、国の決まりを、紙に書いたものだ。これは、四つの村が、市の決まりを、紙に書いた。小さい。でも、同じ形だ」
「じゃあ、市は、国?」
要は、答えられなかった。
四つの村。四百の家。千五百人。証が二千枚。湖が三百枚。台帳が三冊ずつ。峠の小屋が一つ。掟が十二条。
国と呼ぶには、小さすぎた。でも、国でないと言うには、揃いすぎていた。金があり、台帳があり、保険があり、貸付があり、為替があり、掟がある。ないのは、軍と、警察と、裁判所だけだ。
それを持っているのは、御殿だった。
*
夜、要は、掟の写しを、三枚、作った。一枚は、峠の小屋の壁に。一枚は、諏訪へ。一枚は、下流の、ばあさまの家へ。三冊と、同じ形で。
壁に貼った一枚の前で、要は、長い間、立っていた。
十二条。全部、要が作った仕組みだった。でも、紙に書いたのは、四人だった。要の名前は、どこにもない。
それで、いい。要は思った。他所者の掟は、他所者が消えたら、消える。四人の掟は、四人が消えても、紙が残る。紙が三枚なら、一枚が燃えても、二枚が残る。
要は、ノートの隅に、書いた。
『十、掟。仕組みを、紙に書き、仕組みを作った者の名前を、消す』
書いてから、少し、笑った。十個目は、要が、自分を消すことだった。
外で、足音がした。瑠衣だった。
三ヶ月ぶりに、瑠衣は、峠の小屋に来た。痩せていた。目の下の黒さは、深くなっていた。端末を、抱えていた。
「要さん」瑠衣は言った。「話がある。ゼロのことで」
コメント
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うわああ第41話…!!「市の掟」できる瞬間、めっちゃエモかった…😭✨ 要が「僕の掟じゃなくなる」って自分の名前を消す選択、深すぎるよ…。十二条、どれも現実の金融システムみたいで勉強になるし、憲法と同じ形って言った孫くんのセリフに要が驚くとこも良かった!最後の瑠衣ちゃん登場で次回どうなるの??ゼロって何…気になりすぎる!!続き楽しみにしてます🔥💕