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昨日の家庭科室での出来事は、砂糖の甘い匂いと一緒に、私の記憶にべったりとこびりついて離れなかった。
翌朝、一限目が始まる前の教室。
自分の席に座ろうとした私は、机の上に置かれた「異物」を見て目を丸くした。
アルミホイルに包まれた、拳(こぶし)ほどもある巨大な塊。
「……おはよ、朱里。それ、今日の朝飯や」
隣の席で、治くんが銀髪を少し揺らしながら、眠そうに、でもどこか得意げに私を見上げていた。
「え……? 治くん、これ……」
「……昨日のお返しや。俺が握った。……変なもん入ってへんから、安心して食え」
いつもは「おすそ分け」を強請(ねだ)る側の彼が、自分でおにぎりを作ってくるなんて。
私は戸惑いながらも、アルミホイルをゆっくりと剥がした。
現れたのは、形こそ少し不格好だけれど、お米の粒が立っていて、見るからに美味しそうな三角形。
「……いただきます」
一口、頬張る。
絶妙な塩加減と、口の中でほろりと解けるお米の甘み。
そして、中から出てきた具材に、私は思わず動きを止めた。
「……これ、昨日の卵焼き……?」
「……正解。朱里の味を、俺なりに再現してみた。……どうや、合格か?」
治くんは私の反応を伺うように、じっと覗き込んできた。
スナギツネのような細い瞳が、今はテストの結果を待つ子供のように、少しだけ不安げに揺れている。
「……美味しい。……すごく、美味しいよ、治くん」
「……そ。ならええわ。……それ、俺以外の奴には一口もやるなよ」
彼が満足そうに口角を上げた、その時。
「あーーーっ!! 治、自分だけ朱里ちゃんに手作り弁当とか、抜け駆けが過ぎるぞ!!」
ガラッ!! と教室の扉が開く。
現れたのは、頭にまだ粉砂糖が残っているのか、少し白っぽい髪を振り乱した侑くんだった。
その後ろには、スマホを構えた角名くんが「朝から元気だね」と呆れ顔で続いている。
「……ツム。お前は昨日、砂糖漬けになったやろ。……朱里のおにぎりに、不潔な粉をまき散らさんといて」
「誰が粉やねん!! 朱里ちゃん、俺にも一個! 治の味見させてぇな!!」
「……やだ。一個もやらん。……朱里、これ、俺と君だけの『秘密の具材』やから」
治くんは侑くんの手をパシッとはねのけると、私の手首をグイッと掴んで、自分の机の方へと引き寄せた。
クラスメイトが見守る中での、堂々とした独占。
「……感想、放課後にまた詳しく聞かせろよ。……一粒残さず食えよな」
逆襲のおにぎり。
そこに込められていたのは、お米の甘さよりもずっと濃い、治くんの「執着」という名のスパイスだった。