『 雪降る世界に真紅の華を 』
ー 愛執 ー
2024年 7月6日
side:燈
白咲雪乃への虐めが始まったのは
7月に入ったくらいからだった。
5月半ば頃
嫉妬はあるものの一宮はクラスの中心にいて
多くの人から好かれていた
6月初め
一宮は白咲さんに話し掛けるようになった
そして7月。
白咲雪乃への虐めが始まった
朝学校に着くと、
白咲雪乃の机に人が集まっていた。
「…ねぇ、桜、どうかしたの?…えっ」
桜に話を聞こうと白咲さんの机に近づくと
生徒の間から落書きがされた机が見えた
沢山の暴言達
カラフルなペンで書かれたであろうそれは
まるで魔法の呪文の様に目に飛び込んできた
白咲さんはまだ来ていない
今から皆で消せば間に合うだろうに
誰も消そうとはしない
私の足がその机に向かう事もなかった
岡本達のやけに楽しそうな声
その視線の先にはあの机
息がほんの少し苦しくなりながらも
私には目を背けることしかできなかった。
そんな教室に扉の開く音がして
白咲雪乃が入ってきた
机の方を見ると
勘違いかと思う程のほんの一瞬、
驚いた様に目を見開いて
私が瞬きをした時には
いつもの表情に戻っていた
それがつまらなかったのか
岡本達は興味を失った様に目を逸らす
「…白咲さん、」
その様子に1人の女子が小さな声で呟いた
クラスの視線が一気に集まる
女の子は怯えた瞳に涙を貯めて
震えの止まらない手を抑えながら下を向いた
岡本春樹
恐らく一宮の次に中心にいる人
中身は誰もが恐れる虐めの主犯
反抗の出来ない絶対的リーダーだった。
噂によると
中学生の頃1人を自殺に追い込んだらしい
一宮の居ない教室では
岡本の態度はいつも以上に悪くなる
理由は簡単
岡本は少なからず
一宮に好意を向けているからだ。
そうでも無いと
虐めている白咲さんに話し掛ける一宮に
岡本が何もしない理由が見つからない
そして、それこそが虐めの原因だった。
嫉妬、というのだろうか。
一宮は人の扱いが余りにも上手だった。
一宮と話していると私が一番なんじゃないか
誰もがそう思い込んでしまうのだ。
でも、 一宮はいつも何処かつまらなそうで
興味がある様には見えなかった。
それでも誰に対しても
作り物みたいに綺麗な笑顔を振りまく。
それがあまりにも魅力的に映るから
それが本物と勘違いしてしまうから
皆、違和感を気の所為にする
気の所為だと思い込もうとする
何故なら皆彼女が好きだから。
あの子が誰にも興味を持っていないのを
心の何処かで感じながらも
自分が1番だと信じることを辞めない
そんな中
一宮は白咲さんに興味を示した
誰が見てもわかる程に。
それが気に入らなかったのだ
本当に幼稚な理由だと思う
だけど、少しだけわかってしまう。
私はあの子に手を伸ばしても、
あの子の1番にも特別にもなれない。
私も、嫉妬しているのだ。
どう足掻いても特別になれないことに。
それを1番自分がわかっているからこそ、
あの子の中から白咲雪乃が消えてしまえば
なんてことを考えてしまう。
恋や愛の類いは
美しさと共に驚く様な恐ろしい感情を
芽生えさせてしまうものなのだろう。
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