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夜。
寮の一室で、内田一輝はノートパソコンを開く。
毎晩の習慣。
掲示板の確認。
異世界転移、学園生活、F評価。
すべてを書き留めている。
だが、これまで返信は一件もなかった。
外界と切り離された、閉じた世界。
それが現実だと、半ば受け入れかけていた。
「……どうせ今日も、ゼロだろ」
更新ボタンを押す。
──1件の返信。
内田は息を止めた。
名前。
吉田千佳
画面を見つめたまま、時間が止まる。
吉田千佳。
ヨシエたちと出会った、あの森。
唯一、内田に友好的だった女性の地縛霊。
脱出に必要な電池を渡し、静かに消えた存在。
後の調査でわかったこと。
彼女は、あの白塗りの人型の怨霊二体と同級生だった。
生前、森に迷い込み──
“怨霊とは違う何か”に刺され、
逃げ延びたロッカーの中で失血死した。
指が震える。
だが、クリックする。
返信の内容。
『内田さんですね?無事そうで何よりです!
森の怨霊たちはほとんど成仏。
須藤や大宮とも、「あの世」で合流しました。
須藤と大宮の証言を元に調べたところ、不完全に終わった成仏儀式が、内田さんを転移させたのだと思います。
コチラでも探りを入れています。
また、連絡してください。』
読み終えた瞬間、内田は椅子に深く背を預けた。
「……生きてる、いや……違うな」
少なくとも、“消えていない”。
森の怨霊たちは、ほとんど成仏。
須藤や大宮とも合流。
ヨシエ以外は、解放されたのか。
胸の奥に、じわりと熱が広がる。
「よかった……」
あの森で背負った罪悪感。
少しだけ、軽くなる。
そして何より。
完全に孤立していたはずのこの世界で、
“向こう側”と繋がった。
吉田千佳。
思わぬ味方。
内田はキーボードに指を置く。
返信を書き込む。
・FPEという学校
・F評価で消えた生徒
・教師の異常性
・掲示板がこれまで無反応だったこと
送信。
今度は、ちゃんと届いている気がした。
窓の外、静かな校舎。
森とは違う。
だが同じく、理屈を超えた何かがある。
(俺は閉じ込められてるわけじゃない。 まだ、外と繋がっている)
心の底にあった孤独が、わずかに和らぐ。
ヨシエは成仏していない。
不完全な儀式。
その余波が、自分をここへ飛ばした。
ならば──
帰る方法も、あるはずだ。
内田は小さく笑う。
「オカルト戦士、舐めんなよ……ってな」
FPEの闇。
森の残響。
二つの異常が、静かに交差し始めていた。