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ホームの壁は白い塗装が施され、何処かで見たことのある、可愛らしい女性モデルが微笑んでいるポスターが貼られてある。麦わら帽子に止まるモンシロチョウと、遠くに描かれた西洋館。これが夢見が先鹿鳴館なのだろう。
旅先の謳い文句には、
「喋らないでね」
「触らないでね」
「眠らないでね」
と、記されていて、最後はこう締めくくられていた。
「よい旅を!」
私は、木製のベンチに腰掛けながら、ぼんやりと電車が来るのを待った。
足元には水溜りが出来ていて、雨音は強く、アスファルトや線路を容赦なく濡らした。
時刻表もなく、天候のせいか誰もいない見知らぬ駅のホームで、私は何故だか堪え切れなくなって、おいおいと咽び泣いてしまった。
脳内で映像化される虚構の私は、ゆったりとした足取りで、線路へ向かって歩き始めている。
そうか、電車が来たら、いっそ飛び込んでしまえばいいんだ…だけど、あまりにも無惨な姿になりやしないか等々考えていると、目の前には登山列車が停車していた。
私は堪らず、車内へと転がり込んでいた。