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一夜限りの初恋を。
すちみこ/みこすち
真夏の夕方。
遠くに見える水平線が橙色に光っている頃。
俺は海辺をひとり歩いている。
小さかった時には綺麗に見えた海でも、
高校生になって仕舞えばそうは見えない。
砂浜に落ちている空き缶。
千切れてボロボロになったビニール袋。
全てが汚く見える自分に辟易する。
学校でのいじめ。
親からのプレッシャー。
うわべだけの友人関係。
生まれてきてから約13年、俺にしてはよく耐えたと思う。
でもこんな世界も今日でサヨナラ、
そろそろ日が落ちるというとき、
何の気なしにふと砂浜から視線を上げた。
不思議なことに遠くに誰だか人影が見えた。
少し気になり、駆け寄ってみるとそこには、
俺と同じくらいの、緑髪の男の子が立っていた
彼は俺と目があっても、何も言わない。
海に入ろうとしているのは見ればわかる。
でも深追いはしない。
黒いオーバーサイズのパーカーと、首元からちらりと見える痣が彼自身を物語っている。
でも、何より俺には関係ないから。
暫く見つめあった後、彼は此方につま先を向けた。
「どうしたの、こんな所で。危ないよ、」
急に口を開いたと思ったら、俺の心配?
馬鹿馬鹿しい。
危ないのは承知の上でここにいる。
制服のままだからこのままではいつかは
バレてしまう。通報されるかもしれない。
「別に。貴方には関係のない話では?」
「あぁ、そう。」
ひどく淡白な返事だが、今の俺にはそれが
心地よく感じた。
だが、次の一言でそれは吹き飛ぶことになる。
「俺、死のうとしてたんだぁ、(笑)」
びっくりした。
まるで世間話でもするかのような口ぶり。
当然のように言ってのける彼に少しだけ、
ほんの少しだけ興味を惹かれた。
「それなら、俺も連れてってくんない?」
ーーーー
彼はすちと名乗った。
紅い瞳が切なげに揺れていて、なかなか
綺麗な顔立ちをしている。
俺がみことと名乗ると、彼は
『なんか日本の神様みたい、、w』
なんてクスクス笑いながら俺の話に
耳を傾けてくれた。
「ぇえ〜、みこちゃんもあのアニメ好きなの?」
「うん、なんなら全巻漫画持ってるで(笑)」
「〜〜!!」
「〜〜ww、〜〜、」
お互いの身の上話はしない。
話すことは趣味のこと、好きなアニメのこと、
それから音楽のこと。
2人で夜の浜辺を歩きながら談笑していた。
(ずっとこの時間が続けばいいのに。)
ーーーー
夜も更けてきた頃。
俺はふと寒くなって、軽く身震いをする。
そんな俺を見て、すちくんは笑いながら
俺の手をぎゅっと握りしめてくれた。
「っ、、!」
久々に感じた人肌はひどく暖かくて、
いつのまにか顔まで熱くなってしまっている。
「も、もう、すちくんってばっ!」
その瞬間、
「そこの君たち、?」
イヤな予感がした。
振り返ると、そこには警察が1人立っていた。
誰かが通報したのかは知らない。
だけど不利な状況であることは明らかだった。
「今何時だと思ってる?」
「えーと、は、8時とか?」
「11時だよ、11時。見たところ、〇〇中学の子だろ?中学生は補導対象だ。ほら、君も。」
このままだと俺ら2人とも捕まってしまう。
どうしようかと固まっていると、
「ちょっと走るね、、!」
右手がグイッと引かれ、
俺たちは手を繋いだまま砂浜を駆け出した。
ーーーー
「はぁ、はぁ”っ、、」
まずい。体力がそろそろ尽きる。
警察は今はどこかに連絡しているのか、
姿は見えない。
でもこのままではすぐ追いつかれてしまう。
焦っていると急に引かれた手が止まった。
「ねぇ、みこちゃん。」
数百メートル走った先の小さな桟橋で、
すちくんがこう言った。
「俺とこっから飛び込まない?」
何処へ?と問う必要もない。
何を意味しているのか、そのくらい分かる。
覚悟は決めていた、決めていたのに、、、
すちくんと過ごしたこの数時間がそれを引き留めている。
彼の目とお揃いの紅いピアスが揺れている。
まるで何かののアニメのワンシーンみたい。
瞳は哀しく紅に光っていて、それだけで
心をぎゅっと締め付けられてしまう。
覚悟を、決めなければ。
ーーーー
「ちょっと恐いね。」
「ん〜、でもすちくんといるから大丈夫!」
「俺もみこちゃんが居るから大丈夫だよ、」
小さな桟橋の上。2人で手を繋ぐ。
「それじゃ、いこうか。」
ーバシャッ!
俺の意識はそこで途絶えた。
ーーーー
「ーー、と!ーーみこと!」
いやに重たい目を開けると、なぜだかそこで
両親が泣いていた。
「ようやく目を覚ましたのね、、!」
死んだはずじゃないのか、と頬に触れると、
僅かながら自らの体温を感じる。
俺は、生きているーー?
「そうだ、すちくんはっ、、!?」
「すちくん?あぁ、あの男の子、、、」
何か知っていそうな両親に教えろとせがもうとした時、
ーガラッ
突然病室のドアが開いた。
そこには医者と看護師が立っていて、
俺の方へ歩き、すぐそばの椅子に腰掛けた。
「意識を取り戻されたんですね。よかったです」
医者はそう言うが、俺はすちくんの安否が心配でそれどころではない。
「あの、すちくんは、、、?」
「すちさんは、、、残念ながら、、」
「亡くなられました」
ショックで声も出ない俺に医者は言う。
「、、、手を出していただけますか?」
言われた通りに手を出し、渡されたのは
彼がつけていたイヤリング。
紅いビーズが日光に照らされてきらきらと
光っているようにみえた。
「片方しか見つからなかったのですが、ね。」
困ったように笑いながら話を続けた。
「彼には親がいなかったようで、遺品を渡す方がいないので。貰って下さい。」
少しだけひとりになりたくて、他の人には一度病室をでてもらった。
夢現のままひとりぼーっと掌をみる。
握りしめたイヤリングはあの日の君の体温と
おもいでが伝わるようで。
一生言えない想い。
一生癒えないこの気持ち。
俺はあの夜、キミに初めて恋をしました。
ーfinー