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翌日から来週まではオンライン授業に切り替わることとなり、文化祭も少し開催時期が延びる事になった。
突然の襲撃とシェルターの修復のこともあるのだろう。
3人はそれぞれの部屋でモニターとにらめっこしていた。
「•••ねみぃ•••。」
「南!」
「うわ、やっちまった。」
ハルの一言が聞こえたようで、数人の笑い声が聞こえる。
トウマには個人チャットが届いているようで、少し顔がひきつっていた。
ミズキは黙々とノートをとっている。
(叶さん、大丈夫かな。面会も行かせてもらえないし、これから研修って、なにがあるんだろう。)
これから3人は瓜生の部隊以外に短期間配属となる。
部隊は四神に準えて作られている。
瓜生率いる部隊は青龍を、 周参見率いる部隊は白虎を、平野率いる部隊は玄武を、水谷率いる部隊は朱雀をそれぞれモチーフにしている。
各部隊で担当する区域が違うため、一度全ての部隊を回るようになるのだ。
(叶さんは元々平野大将の部隊って聞いたけど、どんな人なんだろう。)
ミズキは平野の部隊から研修開始となる。しばらくは海岸沿いの宿舎での生活だ。
みんなとはしばらく離ればなれとなる。
(みんなとは離れたことがないから、凄く不思議。)
思えばずっとハルもトウマも近くにいた。
そんな2人と離れる事がこんなにも心細いとは思っていなかった。
トントンっとノックする音がする。
ミズキはモニターのカメラを切るとドアを開けた。
「よ!授業は順調かな?」
ニコニコしている花村が立っていた。
「まぁまぁです。なにか用ですか?」
「あー••••••そろそろ退院の時間になる叶を迎えに行こうかなと思って•••。よかったらミズキちゃん付いてきてくれない?」
「でも、授業が 」
「それなら担任に話しつけてくるから大丈夫!」
「わかりました。」
「ならちょっと電話してくるから、支度しといて!玄関集合な!」
すると隣のドアが開き、ハルが飛び出す。
「俺も行きたい!」
「ハルは赤点ギリ回避だからダメだな。しっかり勉強しとけ。」
「なんでだよ!」
「ほら、戻るぞ。ミズキ、叶さんによろしくな。」
「うん。」
ハルはトウマに引きずられ部屋に戻された。
ミズキも制服から私服に着替え、そっと授業を退席する。
そして玄関に向かうと、既に花村は車に乗っていた。
「よし、行こうか!」
そして車に乗り込み、叶の待つ病院へと向かった。
病院につく前に花村から話には聞いていたが、実際の叶の左腕を目の当たりにするとミズキは絶句してしまった。
そんなミズキの前で花村は叶に詰められていた。
「どうも無茶言ったみたいね。凄く凄くスタッフさん大変そうだったんだけど?」
笑っているのに笑っていない。そんな雰囲気だ。
「いやー、あのー•••ね。まだまだ俺達には、叶さんが必要かなー、なんて•••。」
「だからって!義手を当日準備しろなんて!どういう要求よ!しかも施設の予備があるから会得するまでリハビリって!私1人で出来る範囲にして!」
「だって、3人が悲しむかなってー!ごめんよー!うちの研究施設に予備あってよかったねー!」
「•••私のせい•••。」
ミズキの一言に2人は止まった。
どうも研修の件といい、またナイーブになっているようだ。
「ミズキ、それは違う。これは私が決めたの。それに腕1本であの場でみんなを守れたんだから。」
「そうそう。それに君達はこれからだから。先輩の腕1本なんて安いもんだよ。」
「でも、私にもっと力があったら」
「ミズキ。」
いつもの叶と違う声のトーンだ。
「後悔してくれるなら、今日は私に付き合って。それでチャラ。明日から研修なんでしょ。」
「運転は任せて、お姫様達。」
「•••うん。」
なんともスッキリしない気分のまま、ミズキは叶と花村について行った。
「平野大将の部隊からなのね。ミズキ、頑張って。」
3人はカフェにいた。時折人の視線が叶の左腕に向けられるが、叶は気にしていなかった。
叶から一通りミズキに代償について話をした後、話題は研修となった。
「どんな方なの?」
「雰囲気はトウマに近いかな。戦闘のセンスがいい人なの。だから学べる事も多いよ。それにね、平野大将も声が聞こえる人だから。」
「声•••。」
「ミズキ、声が聞こえるっていうのは代償も大きいけど、その分誰かを守れる可能性を秘めてるからね。」
初陣の時を思い出す。祖父に似た声により、確かにハルのことを守れた。しかし体勢としては体を大きく捻る動作となっていた。
「私にそんな力があるなんて。なんだか、不思議。」
「こればかりは上手く付き合って行くしかないからね。あと平野大将は辛いものが好きだから、一緒のメニューは頼まない方がいいよ。」
「わ、わかった。 」
「あー、嫌なこと思い出したわ。」
「あなたは平野大将のおもちゃになってたものね。」
「•••おもちゃ•••。」
若かりし頃の花村も研修期間はあった。そして花村の単純な性格と思考は平野に弄ばれていたのだ。
「そういえば、ハルとトウマはどこになるの?」
「ハルは周参見大将でトウマは水谷大将って聞いたよ。」
「じゃあしばらくはミズキとトウマが宿舎に行くのね。」
「うん。なんか、不思議なの。」
ミズキがうつむいた。
「今までハルとトウマと離れたことがないから。なんか、なんていうか。」
言語化出来ない感情がモヤモヤと胸を支配する。
「ミズキちゃんは寂しいんだな。」
「寂しい•••。」
「離れた事がないなら寂しいのも当然だし、戸惑いもするわね。それは無理に乗り越えられないし、気安く慰めもできないけど。少しずつ時間が解決してくれるから。」
「それに帰って来れる距離だから、無理なら迎えに行くから連絡しろな。」
「うん。」
不器用ながらも2人はミズキの味方であることがよくわかる。
そうして夕方まで3人は遊んだ。買い出し以外の買い物もゲームセンターもミズキにとって初めての経験だった。
翌朝、ミズキとトウマは一ノ瀬、瓜生、叶、ハルに見送られ屋敷を出発した。
「トウマ。」
「どうかした?」
「トウマは寂しい?」
「はは、まぁね。なんやかんや2人から離れて過ごすのは初めてだから。」
「•••そっか。」
ミズキは安堵したような顔をしている。
しばらく市街地を走り、やがて海が見えた。
「海だ。」
ミズキとトウマは海に釘付けだ。
「ミズキ、そろそろ着くぞー!」
そして花村の声に胸がドキドキし始める。
(ついに、始まるんだ。)
宿舎に着くと不安と期待を胸に車から降りる。そこには数名の隊員の姿があった。
「ようこそ、我が部隊へ。私は平野。研修期間はお願い申し上げます。花村君、久しぶり。うんうん。君はいつでも元気そうだね!」
「•••ッス。じゃあ、ミズキ、頑張れよ。」
「つれないなぁ。あ、そうそう花村君、私の部下達も一緒に水谷大将の部隊まで送ってね!」
そうして花村の返事を聞く前に戸惑う部下を車に乗せる。
「•••叶は元気かな?」
「お蔭様で。昨日退院しましたよ。」
「そのうち顔を見に行くよ。じゃあ、任せたよ!」
そうしてミズキも花村の車を見送った。
車が見えなくなると平野はミズキの方をみる。
叶の言う通り、長髪も相まってトウマと雰囲気が似ている。しかしモノクルの奥から覗く目は鋭い。
「ようこそ、我が玄武の部隊へ。雨音ミズキちゃん。」