テラーノベル
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ギィっと扉が開く音がする。私がいる部屋は、使用人達が使っているような部屋ではなく、地下の奥深くの物置のような所だ。扉の建て付けが悪いのか、開閉時に変な音がする。窓もなく、灯りもロウソクしかなく、いつも薄暗い。
「ソフィア、 起きてる?」
「ジャック、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。見せて。うわ… 酷いな……。こんなこと、人間のすることじゃない!」
「ここへ来てはいけないわジャック。見つからないうちに、早く行って。」
ジャックは私、より3つ年上の男の子だった。この邸に来て酷い扱いを受ける私を気にかけてくれるうちの一人。
「大丈夫。すぐに戻れば見つからないから。ソフィア、これを。」
「これは、薬? いつも、どうして私なんかに……?」
ジャックは、私が父や義姉から暴力を受けると、塗り薬をこっそり持って来てくれる。
薬も高いだろうに、私なんかのために。
「本当は、きちんと手当てしたいけど……。」
「ううん、私なんかのために、いつもありがとう。」
「私なんかなんて言わないで。とりあえずこの薬だけでも塗って。少しは痛みがましになるから。ごめん、俺が、もっと大人だったら……。」
ジャックは眉間に皺を寄せて、いつも自分を責めていた。
ジャックは、何も悪くないのに。
「どうしてジャックが謝るの? いつもありがとう、ジャック。」
「あいつら許さない!いつか俺が━━。」
「ジャック、そんなことを言ってはいけないわ。私は大丈夫だから、ね?もう行って。」
「また来る。」
そう言い残して、ジャックは部屋から出て行った。
✳︎ ✴︎ ✴︎
「ソフィア、 あなたはきっと幸せになれるから。 だから、約束して。
どんな事があっても、誰かを恨んだりしな いで。憎しみは、憎しみを呼ぶから。
心を強く持って。あなたは━━━。」
亡くなる時の母の言葉を思い出す。
「母さんごめんなさい。私は、 憎いです何もかも……。」
私は、不思議なことに全く父に似ていなかった。
あんな人が父だなんて、認めたくない!
きっと、お母さんを無理矢理自分のものにしたにきまってる!
許せない!
かわいそうなお母さん!
義姉とももちろん似ていない。
唯一似ているのは髪の色。義姉と同じ髪色がなぜかとても嫌になった。
それは、義姉も同じだったようで、私の髪は短く切るよう強要された。腰まであった私の髪は、肩くらいまでバッサリと切られた。ここに来るまでは自慢の髪だったのに……。
義姉の母親は、亡くなったようだった。
なんでも、私の母親のことが原因で病に倒れたとか。
だから義姉は、母を死なせた原因の私の母のことが許せず、ずっと機会を伺っていたうだった。
父は義姉を溺愛していて、義姉の言いなりだった。
自分の妻を殺したのはおまえだから、おまえは死ぬまで償わなければならない、と。
事あるごとに言葉を浴びせられて、まるで呪いをかけられたように、私の心は支配されていった。
私は、常に周囲の顔色を伺うようになった。特に、父や義姉の顔色を。
暴力を振るわれない為には、自分はどうしたらいいのか━━常にそのことばかり考えて育った。
おかげで今では、父や義姉に付け入られる隙がないと思う。 常に状況を観察して率先して動いているから。
使用人としては、申し分ないと自負している。
それでも、すれ違いざまにわざとつき飛ばされたり、階段から突き落とされたり、理不尽な嫌がらせは続いていた。
そうして6年の月日が流れ、私は16になった。この国では、18歳になると成人として認められる。家同士で取り決めた婚約者のいない者達は、16歳頃から頻繁に夜会に出席する。いわば婚活適齢期だ。
結婚適齢期は、18から20くらいと言われており、23過ぎてしまうといきおくれ扱いされ、世間の目が厳しくなる。
男性はともかく、女性の場合は、お相手が再婚だったり、既に正妻がいたり……。
例え問題のあるお相手だったとしても、娘を嫁がせようと躍起になる親に逆らえず、 しぶしぶ受け入れざるをえないのが貴族社会の現状だった。
まぁ、でも…私には関係のない話だ。私は、一生このまま、奴隷のように働かされるのだろう。
何度も逃げようと試みたけれど、 いつも捕まり、激しい暴力を振るわれた。
遂には、逃げられないように、扉の外側に鍵を取り付けられた。
私の部屋は地下なので、窓もない。それでも、ジャックが協力してくれて脱出しようと試みたのだけど、捕まってしまった。
その時は、私だけではなくジャックも鞭打ちにされてしまった。
それから、すぐにジャックは姿を消した。
ごめんなさい。ジャック私のせいでごめんなさい。どうか、生きていますように……。
ジャックが、何も言わずにいなくなるとは考えられない。
心配で、どうにかなりそうだった。 使用人の人達にも尋ねてみたけれど、皆口を揃えて「知らない」と返答する。
もしかしたら、口止めされているのではないか、と勘ぐってしまったこともあり、知ることが怖くなった。
ただの言い訳になるけれど、最悪の事態を想像して、それ以上聞く勇気がでなかったのだ。
#ハッピーエンド
涙乃
91
ばたっちゅ
20,101
コメント
1件
うわ、第3話、胸がぎゅっとなる話だったね…。ソフィアの置かれてる境遇があまりに理不尽で読んでいて辛かったけど、ジャックが彼女を想ってこっそり薬を届ける優しさにすごく救われる。母親の「憎しみは憎しみを呼ぶ」という遺言と、それでも憎しみを自覚してしまうソフィアの苦しみが切実に伝わってきて、感情が揺さぶられたよ。ジャックが突然姿を消した展開も気になるし、この先どうなるのかすごく読みたくなる…続きが待ち遠しいです!