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二階に上がって引き戸を開けて電気をつけると、小ぶりなシャンデリアに照らされた、アンティークな部屋が目に入った。
カーテンは小花柄で、ベッドカバーも小花柄だ。
ベッドは昔からある物で、マットレスこそ現代の良い物に変えているけれど、繊細な模様が施されたフレームはそのまま。
割と大きな部屋なので、部屋にはベッドが二台あり、昔は母とこの部屋で寝ていた。
「ね、〝お姫様の部屋〟でしょ?」
「だな……。いやぁ……凄い」
尊さんは室内にある年季の入ったデスクや、その上に乗っているステンドグラスのランプを見て呟く。
「でも近年になって夏はどうしても暑いから、仕方なくエアコンをつけたみたいだけど」
指さしたほうには、この部屋の内装に似つかわしくない、最新型のエアコンがあった。
「まぁ、生死に関わるからな……。特に京都の夏は暑いし」
今日一日、ほとんどエアコンの効いた車の中にいたけれど、真夏なだけあってさすがに汗ばんでいる。
「あとで順番にお風呂になると思います」
「ん、分かった。何か手伝う事がないか下行くか」
「はい」
途中で祖父に案内された美奈歩たちともすれ違い、それぞれ客室に荷物を置いたようだった。
階下に向かうといい匂いが漂っていて、洗面所で手洗い、うがいをした私は台所に向かう。
「お祖母ちゃん、手伝う事ある?」
「おおきに。ほな、これ運んで」
「うわぁ……!」
渡された大皿にはレタスが敷き詰められ、ローストビーフに似た香り煮がびっしりと並んでいる。
これは私もお祖母ちゃんから作り方を伝授された料理で、牛肉の塊をにんにくと生姜を入れた煮汁で少し煮て、中は半生の状態にした物だ。
「朱里、お肉好きやろと思て」
「大好き!」
私はルンルンでお肉を運び、続くお煮染めなどを尊さんが運んで行く。
食卓は大きな長方形のテーブルで、総勢八人がジャストで座れる。
ついでを言えばリビングの座面の広いゆったりとしたコーナーソファや、例の籐の椅子も普通の家以上に席数があるので、全員余裕で座れる。
リビングには大きな液晶テレビがあり、尊さんの家みたいに複数のスピーカーがついていて音響に拘っている。
祖父母も映画が好きで、隠し棚には昔の映画から最近の作品まで、ブルーレイディスクが沢山収納されているのを知っている。
その時、サンルームからドンドンと音がした。
尊さんが目を見開いてとっさに私を庇おうとしたけれど、「違うの」と笑ってその腕を下ろす。
「お祖母ちゃん、外にあの人が来たみたいだから、ご飯あげておくね」
「宜しく」
その会話を聞いて、尊さんは「あの人?」と困惑した顔をしている。
けれど私が餌入れを手にしたのを見て、「なんだ……」と安堵した表情になった。
「お祖母ちゃん、いっつも猫の事を〝あの人〟って言ってるの」
そう言って私はドライフードを餌入れに入れて、サンルームに向かう。
電気をつけると、色とりどりのタイルで覆われたそこには、夏の直射日光を浴びたら困る植物などが置かれてある。
「ここから庭に出られるんです」
サンダルを履いて外に繋がるドアを開くと、そこにはキジトラの猫が待っていた。
「はい、ご飯ですよ」
猫は少しの間、私と尊さんを「なんやこいつ」という顔で見ていたけれど、静かにご飯を食べ始めた。
「この子、いつの間にかこの家に来るようになったんだけど、お祖母ちゃんは一線を守って家に入れないし、この子もそのつもりみたいで。でも毎日時間になったらこうやってご飯をもらいに来てるの」
「クールな関係性だな」
「家の中に入れて飼ってしまったら、自分たちもいつ死ぬか分からないし、猫がいつ死ぬかも分からない。心配事を増やすのは嫌なんだって」
「確かに、合理的だな」
「自分たちがいなくなっても、他の家でご飯をもらえるならそれでいいって」
私たちはしばらく椅子に座って猫がご飯を食べる様子を見ていたけれど、猫がペロリとご飯を平らげて「ほなな」と行ってしまったのを見て、クスッと笑った。
「さて、戻りますか」
私はサンルームの鍵を掛け、リビングに戻る。